10.従六位上④
【人物】
藤原夏良 主人公 12歳。 10歳の時、高熱から前世の記憶がよびおこされる。 父親は藤原冬嗣。藤原北家
金大明 生没年不明 「内使掖庭令」の趙宝英、孫興進 と唐の返礼使のとして、宝亀10年(779年)4月、京に入った。治水の専門家であったが酒好きが転じ酒造りに明け暮れた。空海の通訳として唐へ戻ったと言われている
早朝に城の屋上から今治地区を眺めている藤原夏良。
「おおい。フジワラさんが会いたい。私どうする?」下から叫ぶ声がした。
「名を名乗れ」騒ぎを聞いて二平が来て叫んだ。
「キンダイメイといいいます。平安京のカモさんから頼まれて来ました」
賀茂伊勢麻呂氏の事らしい。
下ろされた縄梯子を登ってきた。
登ってきた男に向かい二平が聞く
「金目鯛?」
「キンダイメイ。黄金の金、大きな大、明るいの明で金大明」
「治水の専門家と聞いたが、新しい田んぼは見てきましたか?」
「ええ、来る時に見てきたね。理想的な田んぼよ。いいね。ただし、雨が多い時に水を逃す水路が必要ね」
「なるほど、ありがとうございます。部下に分かりやすく教えてあげて下さい。」
「わかったよ。それより冬には酒造りね。何処で造ってる?」
「酒蔵を教えてもらえますか?」二平に聞く藤原夏良。
「サカグラとは?」二平が不思議な顔で答える。
「お酒を造る建物の事ですが、お酒は造らないですか?」
「正月にお酒は神社から分けていただく物だけじゃ」
この時代は庶民が酒を飲む事は少なかった。
「水も米もあるなら。酒造りをしましょう。貴族や神社に販売したら良いですよ」
「酒造りに良さそうな場所はありますかね」
「来る道中で使ってなさそうな長屋があったよ。」
二平が思い出したかのような顔をして報告する。
「それは、山崎村にあった兵糧庫かいの。伊治呰麻呂様が下がった時に空にされたので今は使い道無しじゃて空き家になっとる」
「空き家ならいいじゃないですか。大きな樽を作る事から始めましょう」
「金大明さん、麹は見ましたか?」首を振る金大明は二平氏に向かう。
「ニヘイさん、だめになったイナホはどこにイルカね?」
「だめになるとは、黒い胞子の事かの?」
「そう。その胞子はどこ?」
「大抵は焼き場の所だと思うがのこっちじゃの」
田んぼの横にある空き地に稲穂が捨てられている。
稲穂には黒いワタのようなものが点々とある。
「これがコウジのタネね。蒸すと甘い匂いがしてくるよ。それからツーンとした匂いになると発酵しすぎね。」
二平と二郎コンビが聞いている。
「酒を作る樽は中にあった使っていない肥溜め用の樽を使用しましょう。」藤原夏良が倉庫の中に放置してあった樽を指差す。
「イイ大きさね水で浸して調整しましょう。」
「二郎さん、樽作りできる人はいますか?」
「隣村にいる弥治郎がここらで唯一の樽職人ですがや」
「依頼してきて下さい。超特急で作るように。」
「ヘイ」と言うとサッと走り去っていく。
金大明がテキパキと指示して作業が進む。
そうしているうちに暗くなってきた。
「さあ、城に戻り、明日続きをしましょう」
全員が戻っていく。
後に大崎の蔵街が出来るとはこの時には誰も思っていない。
米造りと酒造り。夏良の奮闘が始まった。
次回は2024年11月27日 13時00分 公開します