自由を求めた自由が不自由だった
「これは、とある頭脳明晰、美貌秀麗な小説家の心の中で起こった小さな話。
特に長い話ではないが、多分それは彼の一生を変えた、変わった!
いや、変えたわけではないかも知れない、ただその一瞬、もはや一秒も立たない時間の中でどうでも良い当たり前のことに気づいた。
そして笑った。
結果、彼は小説を書き始めた。
それは自由に、自由な世界を言葉で綴りたかった。
だけどいつの間にかその自由という名の何かに縛られてた。
いつも心の中でモヤモヤしながら、「自由でなくてはならない」と心の中で呟く。
それで世間一般でよく見る様々なベタなストーリー、文書格式、表現方法などを全て軽蔑し、それらは自由でないと否定した。
何が異世界だ? 自己逃避だ。
何が愛だ?今時歌も全てもそれしか言えないのか?
何が謙虚だ? 他はそんなに愛おしいか?
自分の自由の定義に縛られた哀れな不自由な19歳であった。
本末転倒、何が自由だ?
結局曾ては道で見かける蟻から、街で見る大きな建物まで全て自分なりのストーリーに本能のまま形成できたあの頃の少年は消えてしまった。
綺麗さっぱり、パッ、と、マジシャンが散らす花の如く、愛と謙虚と異世界に行く前の主人公の体の如く。
散る
理屈ぽくて頭が固い人は面白くないか?自由奔放で好き勝手やっている人が面白いか?
実を言うと、どちらの奴も面白く魅力的になれて、そしてくだらなくもなれる。
彼らの魂が、その生活を歓喜しているかどうかによるものなんだ。
歓喜していれば、たとえ路地裏でお金を乞う乞食でさえも、それはそれで彼の人生はいかなる人からも魅力的に感じるようになる。
意味不明?あるがとう、それもそれで素晴らしい、いつかツァラトゥストラを呼んで来て欲しい。
まー、とにもかくにも、それらの理由は別に教える必要はないと思う、ただこの事実だけを知っておけば。
しかし、もしこの思想が自分の自由を奪うような結果になると思うなら、どうぞお好きに自分の求めるものを探せばいいと思う。
まあ、それでここまで来たらもはやなんか作者の自己満小説みたいになるけど……いや、自己満小説で、正解かもしれない、いつか自分の黒歴史として語られる事でしょう… 生きていれば。
俺はこれで良いと思う。
自由を求める人としての本能。
鉛筆を耳の上に掛け、空へ向く。
ではここまでにしておこう、自己満小説は読者に意味もわからずのままに、皆様の記憶の倉庫から退室した方が良い。
シュッと現れ、それで一昨日食べた夕ご飯のネタ情報と一緒に皆様の記憶から消えさる。
それではさよなら、皆様。
どうか死と相対するこの人生をちょっとでも楽しめることを願います。
あなたがたの親愛なる作者より。」
死人が書いた手紙はここで終わった、その「皆様」とは誰なのかわからずじまいで。
遺書とは当然思えないこの手紙は、この男、政宗さんが残した物である。
病死、干からび、治療を断念した19歳ではないだたのアラフォーおっさん。
彼は当然にも小説家でなければ、自由と関わりがあるとも思えないハンコ押し男である。
社畜と言うのだった気がする。
人が言う、「普通」で、「変わった」、否「変われそう」だった彼の人生は一体彼にとって何だったのだろう。
そして、最後までその男を見届けようとする親族もいなければ、彼が耳の上に引っ掛けて落とした鉛筆は拾われることもなかった。
「ふつう」が、「ふきつ」に。「かわれそう」が「かわいそう」になったダジャレで遊んでいる冗談のような事実。
知らない人にそのまま遺体を持って行かれ、焼かれて、墓があるかもわからない。
様々なルールを、自身にも周りにも掛け続けた男は、「自分は自由を追い求めてはいけない」というルールでも付けていたのだろうか?
そして最終的に「自由を求めなくてはならない」
どんな人も何かの亡者になりながら、それが正義だと語り、他の何かの亡者になろうと拒む。
生の亡者のくせに。
勿論私も彼の事に関しては解けないし、真相も聞けないし、聞きたくもならないし、彼が落とした鉛筆を拾うこともできない。
私はただ、彼が書き残した誰にも読まれなかった手紙をゴミ箱の外から眺めながら、死の亡者として罪ある魂を世の終わりに焼き払う。
私は彼の魂を私の鎌で持っていくだけ、これまでそうだった様に。
彼はこの結果を求めて生きていたのだろうか?
これが、私がこの数万年に渡り、彼らに問いかけ続ける返事のない不自由な質問だった。