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ストリングス  作者: 不覚たん


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20/23

まだ足りない

 街を歩いていると、いつの間にか間宮氏が合流してきた。

 ずっと一緒にいたかのような顔で。

「うお、びっくりした。いつからいたんだよ……」

「えぇっ? 傷つきますよ、そんな言い方。必死に探してやっと追いついたのに」

 髪も服もまっしろで、一見、神々しい姿をしているが、表情や口調はごく普通だ。かなり特別な人間のはずなのだが、本人は自分のことをそう思ってはいないみたいだ。

 忘れ物でも届けるかのような気軽さで、魔法のステッキを渡してくれた。

「ごめん。悪かったよ。ステッキもありがとう」

「もっと褒めてください」

「素晴らしいよ。なんていうか……最高だ」

「告白ですか?」

「いや、それは違う」

「そうですか」

 真顔でジョークを飛ばしてくるのは怖いからやめたほうがいい。


 ヒナゲシも咳払いだ。

「ありがとうございます。あとは私たちでやりますから、どうぞご自由に」

 追い払おうとしている。

 なぜそんなことを。


 間宮氏は、しかしまったく気にしたふうもなかった。

「もちろん一緒に行きますよ。私も事情を把握してしまったので」

 事情を把握した、か。

 俺はつい溜め息をついた。

「その上で、どうするつもりだと?」

「いえ、ノープランですよ。あなたがどんな判断をするのか見届けたいだけです。その作戦には、きっと私の力も必要でしょうし」

「正解だ。あんたがいないと成立しない」

「ただの暴力女だと思われていても、ぜんぜん構いませんから」

 真顔だ。

 まだそこまで言ってないのに。

 事実だとしても。


 ヒナゲシは、それでも納得していない。

「三番さん、本当にいいんですか? この人、トヨの一族ですよ? 本気で例の怪物と戦う気があるのかどうか……」

 俺はつい笑った。

「おいおい、ヒナゲシ。一族や家族がそんなに大切か? そうじゃないことは、あんたが一番よく分かってるだろ?」

「そうでした」

「いまのはちょっと言い過ぎだったかもしれないが……」

「いえ。気にしないでください。いまの私は、それくらい言ってもらわないと分からないので」

 そうだ。

 あえて茶化して言ったが、俺は怒ってもよかった。間宮氏は少なくともステッキを届けてくれた。感謝することはあっても、排除する理由はない。


 一方、間宮氏は他人事みたいなすまし顔だ。

「怪物と戦うんですよね? けど、このメンバーだけではムリだと思いますよ」

「ムリ? あんたがいてもムリなのか?」

「ムリですね。あきらかに足りてません。せめて私がもう一人いれば話も変わってきますが」

「……」

 やはりトヨを連れてくるべきだったか。

 いや、本人にその意思がない以上、強制させることはできない。ムリにつれてきたとして、現場から逃走されたら総崩れになる。寝返って敵方につく可能性もある。

 なんとか友好的な姉妹を見つけて、戦力差を埋めるしかない。カナリアなら土下座すれば来てくれるだろう。


 *


 歩いているうち、神社についた。

 涼しい風の吹く、古びた小さな神社だ。


 先客もいた。

 黒いスーツを着た四名の男女。


「待ってたよ、元三番」

 そう告げたのはキノコみたいな髪型の男。

 十番だ。

 後ろにも見知った顔が並んでいた。サングラスの六番と、それに四番と十三番だったか。彼らが新人として入ってきて二課に行ったのも、ずいぶん昔の出来事みたいだ。


 彼らはスーツの内ポケットから銃を取り出した。抜かなかったのは六番だけ。


 組織がメンバーをこちらに送り込んだのは知っていた。

 同じ目的で動いていたはずだが……。


「なぜ銃を抜く?」

 そう尋ねると、キノコはふんと鼻を鳴らした。

「あんた、どうせオルガンを処分しないつもりだろ? 代わりに俺たちがやってやるよ」

「どうやって?」

「あんたの体内にある小型オルガンを使わせてもらう。ついでにそのふざけた魔法の杖もな」

「つまり俺を殺すってことか?」

「そう言ってんだろ、カス」

 ずいぶん乱暴な物言いをするものだ。

 確かに俺はもう組織の人間ではない。彼らの上司でもない。ただの部外者。のみならず、彼らの組織に雇われている下請けだ。こういう態度になるのも分からなくはないが。


 彼は勝利を確信したらしく、揚々と続けた。

「あ? 勝手に動くなよ? そっちが弾丸を無効化できるのは知ってんだ。当然、こっちも対処してる。この銃に装填されてるのは、いつもの金属弾じゃない。樹脂でできた銃弾だ。あんたのオルガンじゃ対処できない。つまり、あんたは死ぬってことだ。残念だったな?」

 対処できない、というのは必ずしも正確ではない。

 周波数さえ解析すれば可能だ。

 まあ俺には解析できていないから、確かに対処できないわけだが。俺以外なら対処できるかもしれない。


 それでも俺は、体内の小型オルガンを起動し、金属の消去を試みた。

 金属製品は構造が均質だから、解析の手間が少ない。すでにオルガンにセットされているプリセットで対処できる。

 無機物にまで周波数があるというのはよく分からないが。まあ可能なんだから仕方がない。


 ともあれ、彼らの握っている拳銃は、きらめく粒子となって散っていった。

 その手に残されたのは、グリップのパーツと、ご自慢の弾丸だけ。それらもバラけて地面に落ちた。


「なるほど。あんたの言った通りだな。確かに銃弾はそのまま残ったようだ。それで? 次のプランは?」

 俺がそう尋ねると、六番が突然「ラァ!」と怒鳴りながら十番の横っ面をぶん殴った。

「すいません、兄貴。バカなことして。こいつ、リーダーに任命されて調子に乗っちゃって。結果出そうとして必至だったんすよ」

「殴らなくてもいいのに」

「ダメっすよ。口で言っても分かんないんで。兄貴もぶん殴ってください。こいつ、御神体のことも狙ってますよ?」

「そうなの?」


 キノコは横ざまに倒れたまま、顔を抑えて涙目になっている。

 自分を強いリーダーだと思っていたのに、作戦に失敗した挙句、部下にさえナメられていたわけだ。もうなにも考えたくない状態だろう。


「なぜ銃を樹脂製にしなかったんだ?」

 俺の問いには、やはり六番が答えた。

「上もさすがにそこまでは準備できなかったみたいです。で、弾だけ新しいのを支給されて。状況を見極めて戦えって言われてたんすけど、こいつマジモンのバカだから、この至近距離でベラベラ喋り始めて……。それに、そもそも兄貴を撃つための装備じゃないんですよ。遠くからマキナを撃って、弱らせてからオルガンを持ち帰る作戦でして」

 接近戦はハナから想定外だったというわけか。

 近づく前にこちらを撃っておくべきだったな。どうしても演説したいという欲求に負けたか。


 俺の内ポケットの銃は無事だ。

 彼らのと同じタイプの銃だと思っていたのだが、どうやら違う素材で作られていたらしい。そもそも銀の弾丸とセットで用意されたのだ。銃にも対策が施されていたのだろう。


「兄貴、戻ってきてくださいよ。俺、こんなバカの下で働くのイヤですよ」

「戻らないよ」

 そのバカと呼ばれた男はまだ起き上がろうともしない。

 横になったままやり過ごすつもりか。


 俺は軽く溜め息をつき、こう言葉を続けた。

「俺たちはこのまま最深部を目指すが、みんなはどうする?」

「一緒に行っても足手まといになるだけですよね?」

 それもそうだ。

 武器もなく、声の素質もない人間が、階層を潜るのは得策ではない。きちんと戦況分析ができていてなによりだ。

「そうかもしれない。みんなは戻るといい。ここにいたって、いいことなんてなにもない」

「ああ、それ。聞きたかったんですけど。兄貴、どうやって戻ってきたんです?」

「そういや、どうするんだっけ?」


 すべてはマキナの匙加減ひとつだ。


 *


 六番たちを置き去りにして、俺たちは次の階層へ向かった。

 みんなで集団行動する程度の知恵はあるようだから、そのままそこにいれば安全だろう。


 ともあれ砂漠に出た。

 世界の上半分が青白い空で、下半分が赤い砂の世界。

 お世辞にも快適な生活環境とは言いがたい。


 待っていたのはカナリア。

 マフラーで隠してはいるが、首のところが白いもやになっている。彼女はこの世界では生存できるが、現実世界に戻ったら即座に死亡するだろう。当時、オルガンの調整がアマかったばかりに、機械パーツが置き去りにされてしまった。


「手伝うよ」

 彼女は浮かせた砂でそう文字を書いた。

 状況はすでに把握済み、というわけだ。


 ヒナゲシが俺の後ろに隠れながら言った。

「いいの?」

「しつこい。手伝うって言ってるでしょ?」

「うん。ありがとう」

「あんたのためじゃない。これ以上、ここで問題を起こして欲しくないだけ」

 カナリアの目つきは鋭い。

 彼女も安住の地を脅かされている住民の一人というわけだ。


 カナリアの協力は嬉しい。

 この模倣子の世界では、声の素養のある人間は、それだけで強い。


 だが、まだ足りない。

 間宮氏は、民間人とは思えないほどの才能を有している。それと同等の力がもう一人分必要なのだ。

 悪いがカナリアでは全然足りない。

 あと十人……あるいはそれ以上が必要。


 才能ゼロの俺に言われたくないとは思うが。

 いや、戦況分析に私情を持ち込んではいけない。どんなに好意的な人材であっても、期待を込めた加点をしてはいけないのだ。

 足りないなら足りないと判断しなければ。


 木下さんがいてくれれば最高だった。

 精神的な問題を脇に置けば、彼女ほど適切なメンバーはいない。

 もっとも、その精神的な問題こそが致命的なのだが。

 彼女は絶対に来ない。

 それだけは確信できる。


「できればもう少し戦力を補強しておきたいところだな。ほかに誰かいないか? 才能を有していて、俺たちに協力してくれそうな人材が」

 そう尋ねると、ヒナゲシもカナリアも困惑した顔になってしまった。

 返事をしてくれたのは間宮氏だ。

「ないですね」

 こっちが必死の思いで尋ねているのに、やたら涼しい顔だ。彼女にとっても命にかかわる事態のはずなのだが。

「間宮さんのご先祖は? きっとこっちにいると思うんだが」

「いるはずですが、たぶん、普通のお婆ちゃんになってると思いますよ。この能力は年齢とともに失われていきますから」

「なら、めぼしい歴史上の人物は? なんとかして手を借りられないか?」

「いることはいますが、模倣子まみれですし、あまり近づかないほうがいいと思いますね。妖怪と区別がつかないレベルなので」

 うまくいけば、戦国武将が謎のレーザーで敵を蹴散らしてくれるはずだったのだが……。


 間宮氏は、ふっと不敵な笑みを浮かべた。

「なんとかなりますよ。いざとなったら奥の手を使いますから」

「奥の手? どんな?」

「言いません」

 すんとすました顔になってしまった。

 本当に言わなそうだ。

「いや、いいんだが……。自分を犠牲にしようなんて考えないでくれ。俺は作戦を成功させて、誰ひとり欠けることなく帰還するつもりでいるんだから」

「分かってますよ。自分を犠牲にはしません」

「……」

 この口ぶりだと、他人を犠牲にはしそうだな。

 本当に?

 それも困るぞ?


(続く)

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