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銀河のアストラーデ  作者: シン サヲトメ
17/17

血戦

目の前の宇宙恐竜の横に身体を滑らせて、手にした剣を横に構える。


「だめっ! まだ制御スクリプトを組んでない!」


ココの制止を振り切って、そのまま一文字に振るう。

宇宙恐竜の首を刎ね、切り口から赫い飛沫が舞う。


「うらぁああああああ!」


操縦桿を前後に倒し、スラスターを横面に吹いて無理矢理に姿勢を維持させる。そのまま別の宇宙恐竜の胴体に剣を突き刺し、


「アストラ――デ!」


ソーマの叫びに応じてアストラーデの眼が光り、剣先からエネルギーを放出する。

内側からの攻撃に、宇宙恐竜の巨躯が木っ端微塵に爆散した。


爆発の粉塵を掻き分けて上空に跳ぶアストラーデ。そして空中で半回転すると角を地上に向ける。

するとココがソーマに叫んだ。


「だめっ! 下にはみんなが!」


モニターの向こうには宇宙恐竜の群れ。そしてそのすぐ近くにサーニャやアイラの姿もある。

無論、ソーマもその事を知っている。


が。

ソーマは迷わず叫ぶ。


「アストロビ――――ム!」


アストラーデの額の角からビームが放たれると同時、周囲の空間が歪む。

宇宙恐竜を焼き尽くしたビームが地面に達し、激しい爆発と粉塵を巻き上げる。だが、爆風は空間の歪みに遮られ、地上のサーニャ達には届かなかった。


「これは…先程の……」


サーニャの言葉通り、アズラーイールの熱線を防いだ時のシールドだ。


「まだまだぁ!」


空間の歪みは宇宙恐竜の群れを中心にどんどん狭まり、やがて完全に群れを閉じ込める。

アストラーデがプラズマを纏った剣を構え、スラスターを吹かし突進。袈裟懸けに空間を切り付ける。


すると切り口が大きく開き、空間が捻じれながら吸い込まれていった。

後には何も――宇宙恐竜が居た痕跡を一つも残さず、アストラーデの完全勝利となった。


その反則的な強さを間近で見ていたココは、半ば放心した状態で感嘆の吐息を漏らす。


「すごい……空間ごと消し去るなんて……」


驚きと感激が半々くらいの表情でソーマに振り返る。

が。


ソーマは険しい表情を崩さないままで、モニターの向こうを見詰めていた。


「…………ソーマ……?」

「来る……」

「えっ……?」


ココが視線をモニターに戻すと、空に幾何学模様が浮かび上がる。

そこからゆっくりと――重力に逆らいながらゆっくりと、巨大な影が現れた。


「あ……アズラーイール……」


ココの表情が歪む。


「まさか……また……」


地上のサーニャ達の顔も歪む。

しかし。


ソーマとアイラだけは狼狽えず、しっかりと最強の天敵を見詰めていた。


「……ココ」

「?」


優しく名を呼ばれ振り向くと、ソーマが柔らかく訪ねてきた。


「怖いか?」


ココは唇を引き結んでかぶりを振る。

ソーマはココに頷いて、黒髪を梳くように撫でて、


「じゃあ……行くぞ」


操縦桿を倒してアズラーイールに突貫していった。



「オオオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


三つの首が同時に咆哮をあげる。

激しく大気を振動させるその叫び声に、地上のサーニャ達は耳を塞ぐ。


すると、


『シールド再展開! 慣性制御切るよ!』


コクピットにアストラーデの声が響く。


「!? アストラーデ、お前、喋れたのか!?」


驚くソーマにアストラーデは小さく嘆息して、


『バイリンガルだよ。普段はENGLISHだけどね』

「いん…ぐりっしゅ?」

『……。まあいいさ。それより、来るよ!』


アストラーデの言葉通り、アズラーイールの翼から無数の鱗が放たれる。


「構うか! 突っ切れ!」


目一杯にレバーを倒したままソーマが叫ぶ。


『ったく……猪突猛進バカはこれだから……』


アストラーデの背面装甲が分割してパージされ、正面でくるくると円を描きだす。亜光速に達した装甲はプラズマを纏い、飛来する鱗を次々と弾いた。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォ!」


アズラーイールの口から熱線が放たれる。

アストラーデは舌打ちを一つ、


『流石にコレは無理だね……避けるよ!』


大きく進路変更して熱線を躱し、アズラーイールの背後に回ると、


「だあああああああああああ!」


剣を振り被りながら突っ込む。

するとアズラーイールの背中が蠢くように波打ち、鱗が変形して無数の翼竜の形になった。


翼竜は翼をはためかせながらアストラーデに向かっていく。


「くそっ、邪魔こいな!」


空中を右に左に飛び回りながら剣を振るい、次々と翼竜を墜とすアストラーデ。

しかし翼竜は次から次へときりがない。


「何なんだよこいつら! どこからわいてきやがる!」


愚痴りながらも操縦桿を動かすソーマ。するとアストラーデが、


『「アズラーイール」は宇宙恐竜の母艦なのさ』


翼竜の群れの向こう、黒い異形の怪物に赤マルを重ねて言った。


「???」


疑問顔を浮かべるソーマにアストラーデは続ける。


『あいつらはね。この惑星(ほし)の生き物じゃないんだ。――ま、「生き物」って呼べるかはあたしにも分からないけど』

「……何の話だ?」


数的不利なアストラーデは大きく旋回すると翼竜達を引き寄せて反転し、背中の装甲を四方に飛ばしてビームを放つ。


『この惑星は「ヤツら」の監視下に置かれてるんだ。この惑星の住人の文明レベルを、宇宙恐竜を使って計りながら、レベルが一定値を超える時を待ってるのさ』


ビームは装甲表面で乱反射し、無数の光線が翼竜達に降り注ぐ。

連発花火を散らしたように、空中にオレンジ色の光が弾けた。


「アストラーデ……何を言ってるんだ……?」

『よく聞きな、ソーマ。もしアズラーイール(あいつ)を倒したら、間違いなく「ヤツら」の本隊が攻めてくる。けど――』

「『けど』……?」

『ここで退いてこの街とあの何十人の命を犠牲にすれば、今まで通りの日常は保証される』


焼け焦げた肉片が煙を巻いて落ちていく。アストラーデはアズラーイールと対峙して、空中に浮かんだまま、


『天敵に怯えながら逃げ惑い、明日をも知れない今日を生き抜く。――そんな日常がね』

「…………」


ソーマの頭の中を思い出の光景が駆け巡る。


生まれた町の風景。

両親や友達の笑顔。

アーニャやアザッフ達、旅団の顔ぶれ。

――そして、死人との別れ――


『この惑星の全ての生命を背負って立つ覚悟が、お前にあるかい?』


感情のない声で訊ねるアストラーデ。

桿を握る手が小刻みに震える。


「…………ねえだろ……」


顔を伏せ奥歯を噛み締めて、ソーマは震える声で応えた。


「あるわけないだろ、そんな覚悟……」


そんなスケールの大きな話をいきなり突きつけられても、どうしようもない。

――それでも。


「『惑星の全ての生命』……? 目の前の人達だってろくに守れないんだ……。母さんも、アーニャさんも、この街の人達だって……」


――墓を掘るしかできない自分が。弔う事しかできない自分がもどかしくて。


「でもな……見捨てることもできないんだよ……!」


――悔しかったから。


「全部を背負って立つ覚悟なんてない……守り切れる自信もない……。……それでも……!」


――だから、ココが差し出した(アストラーデ)を受け取った。


「この手が届く範囲くらいは守りたい! 今ここに居るみんなには手が届くんだ! だったら!」


腹の底から想いを吐き出す。


『…………』アストラーデは溜め息を吐き、『子供だね……。でも――将来が楽しみだよ』


独り言のように呟いて、ソーマに応える。


『なら今そこに見える人達と、目の前に居るココを守ってみな! 力ならいくらでも貸してやるよ!』

「アストラーデ……! 分かった! 頼む!」

『OK! Let`s turn up!!』


脹脛の装甲が開き、ブーストノズルが露出する。そこから普段の倍程のプラズマを噴き出して、アストラーデは急加速しながら剣を構える。


アズラーイールの頭が前に伸び、大口を開けてアストラーデに牙を剥く。

ガギィンっ! と鈍い音を立て、剣に咬み付いた。


「なんのぉっ!」


気合と共に操縦桿を押し込むソーマ。すると剣が縦に割れ、口腔内にビームを注ぎ込む。


「アォアァアアアアアアアアア!」


野太い悲鳴をあげながらアズラーイールが仰け反る。

すかさず剣を縦に構え喉に突き刺し、スラスターを吹かして切り降ろす。


噴水のように赫を噴き上げるアズラーイール。しかし弱った様子はなく、いくつもの鱗を逆立ててミサイルのように射出する。

横に跳んで鱗を避けると、地面に突き刺さり砂煙を上げた。


すると鱗が変形し、二脚タイプの宇宙恐竜になった。


「くそっ、また増えやがった!」


モニター越しにそれを見たソーマが舌打ちすると、


「ソーマ! まえっ!」


ココが身を乗り出しながら叫ぶ。慌てて視線を前に戻すと、アズラーイールの頭が口を開けて迫ってきていた。


「ええいっ!」


剣で牙を受け止めると、後ろから二脚の宇宙恐竜が飛び掛かる。


「挟まれた!?」


次の瞬間。

宇宙恐竜の首が明後日の方向に撥ねた。


飛び散る赫の中から紅蓮の髪を揺らしたサーニャが現れ、


「地上の守りは任せろ! ソーマはそっちに専念してくれ!」


大血振りしながら檄を飛ばす。


「サーニャさん……助かります!」


背中をサーニャに任せて、アストラーデはスラスターを吹かす。

それを見送ってサーニャは振り返り、涎を垂らしながら迫ってくる宇宙恐竜を睨みつけ、


「そう慌てるな――順番に全員、平等に殺してやるさ」


大太刀を八相に構え、駆けてきた宇宙恐竜を袈裟懸けに切り倒す。丸太のような首がいとも簡単に両断され、切り口から大量の鮮血が噴き出した。

サーニャはそのまま手首を返し続く二頭目を切り上げると、三頭目を上段から切り降ろす。


降り注ぐ血の雨を浴びながら佇むその姿は、鬼か、羅刹か。しかし今のソーマには、二番目に頼りになる仲間だった。


「やっぱすごいな……あの人は」


呟いて視線を前に戻す。

アズラーイールが再び鱗を飛ばしてきた。


「でも……頼ってばっかもいられないよな!」


飛来する鱗を躱しつつ、ビームを断続的に放ち撃ち落とす。

そのまま懐まで接近し、剣を突き出して構えると、


「墜ちろ、蚊トンボぉ!」


操縦桿を目一杯に押し込んでアズラーイールに突っ込む。


鋒が鱗を裂いて、分厚い肉に突き刺さる。

だが。


「っ!?」


刀身が半ばで折れ、致命傷には至らなかった。

アズラーイールが身悶えるように首を振り回し、アストラーデを遠ざける。


「くそっ!」


ひとしきり暴れたアズラーイールが翼をはばたかせ距離を取り出した。


「逃がすかっ!」


手持ち武器を失っても、ソーマの闘志は消えない。


「ソーマ! あそこを狙って!」


モニターの向こうを指差しココが叫ぶ。見ると、アズラーイールの脇腹に剣の切っ先が刺さったまま、血を滴らせていた。


「分かった!」


背中の装甲をパージしてビームを放ち、何重もの光線を一か所に集中させる。


「ォアアアアァアアアアァ……!」


野太い悲鳴をあげるアズラーイール。かなり効いているようで、姿勢が崩れ、羽ばたく力も弱くなっている。


「これで――」


ビームを前面に溜め球体を作ると、


「とどめだぁ!」


腕を球体に突き出し、球体ごとアズラーイールの傷口に特攻する。

拳がアズラーイールを捉える。


どごんっ! という衝撃音が響き、操縦桿が押し戻される。


「頼む、アストラーデ! もっと、もっとだ!」


肩から背中から脹脛から、身体中のスラスターを開いて噴き出す。

拳が肉にめり込む。

だが、まだ足りない。


「もう少し……あと少しなんだ……!」


力一杯操縦桿を押し込むソーマ。

するとその手に、白い手が被せられた。ソーマの一番頼りになる仲間、ココの手だ。


「…ココ……!」

「がんばって、ソーマ! わたしもっ!」

「ああ! 頼む!」


二人で操縦桿を押し込む。

スラスターが爆発的に光を発し、ついに拳が肉を裂いた。


「「いっけぇええええええええええ!」」


そのままアズラーイールの巨体を貫いたアストラーデは反転し、


「「アストロビ――――――――――――ム!」」


最大出力でビームを放つ。

極太のビームがアズラーイールの巨体を貫き、大爆発を引き起こした。


「おわっ!?」

「ふぇっ!」


瞬間的にエネルギーを使い切ったアストラーデは、爆風に耐える力も無く、そのまま大気圏外までとばされてしまう。


「……マジか、宇宙まで飛ばされちゃったよ……」


辺りを見回しながら、ソーマは冷や汗を浮かべる。モニターは真っ暗で、所々に点々と、小さな光が浮かんでいるだけ。

しかしココは落ち着いた様子で、


「だいじょうぶ。ちょっとすれば、アストラーデのエネルギーも回復するよ。そうしたら、みんなのところにもどれるよ」

「そっか……。じゃ、ちょっと休憩だな……」

「え……『休憩』って、ここで…………?」


ポンっ! とココの顔から火が吹く。そんなココにソーマは優しめにツッコミながら、


「なにを言うてるんですかあなたは……」


ココの肩を引き寄せ、強く抱き締めた。


「……ソーマ……?」

「ありがとう、ココ。やっと……母さんの仇を打てた……」


涙声で言ったソーマに、ココは優しい声音で応える。


「……うん。がんばったね」


ソーマの頭に手を回し、子供をあやすようにゆっくりと撫でる。

すると惑星の影から太陽が現れ、柔らかい光が二人を照らした。


『夜が明けたね……』


若干のノイズが混じった声で、アストラーデが告げる。


『よく見ときな、ソーマ…。これが、この「火星」という惑星が、お前がこれから命を懸けて守っていかなきゃならないものだよ。そしてあれが――』


僅かにスラスターを吹いてアストラーデが身体を捩り、ソーマの目の前に蒼く光る惑星を映し出す。


『「ヤツら」の母星――全ての生命の母なる惑星、「地球」だ』

「地球……」

『長い闘いになるだろうね……。今日は戻って休みな。アタシも休みたい』


言って、アストラーデは柔らかくスラスターを吹かし、ゆっくりと地上――火星表面へと降りて行った。



―――――――

――――

――



荒廃した灰色の光景。

木々は朽ち、水は腐り、黴臭い風が吹き抜ける。


ここが、かつて奇跡の惑星と呼ばれた蒼い星、地球である。

度重なる争いの果てに地球規模での環境汚染が起き、70億を超えた人口の大半は死に絶えた。現在は僅かに残った10万に満たない人々が、細々と地下で暮らしている。


その地下都市の中央部には、現在の地球を束ねる組織『地球連邦政府』の中枢が置かれている。

電源の不安定な薄暗い空間の中、数人の人物が円卓を囲んでいた。円卓の中央には三台のモニターが置かれていて、それらは優先的に電力を受電している。


モニターが『ERROR』の赤文字を浮かべた。

モニターを見ていた大柄な初老の男が立ち上がり、


「三号機が墜ちた……か」


モニターを睨めつけながら言うと、別の男が続いた。


「どうやら……火星人類の文明レベルが一定値を超えたようですな」

「そのようですね。ようやく、火星の文明も我々が住める程度には回復したようで」

「ならば、計画をもう一段階進めねばなりませんな」


銘々に聞こえる声に初老の男は頷いて、


「では、『火星再移住計画』を第二段階に進めよう。――これより我ら地球連邦は、火星人類掃討作戦を開始する」





                             to be continued.

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