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銀河のアストラーデ  作者: シン サヲトメ
16/17

AWAKE

「――――ぁあああああああああああああああああああぁぁあああああああああああ!」


コクピットから転がり落ちてもまだ、ソーマは叫び続ける。


「ぁああっ! あぁあああ――――ぁあ!」


次第に息も不安定になり、全身を震わせて悶え始めた。

サーニャは急ぎ駆け寄ってソーマの顔を覗き込むと、


「まずい、痙攣を起こしている! 舌を噛む!」


険しい顔でそう言うと曲刀の鯉口を握り込み


「許せソーマ!」


ソーマの鳩尾に柄頭を強く打ち付ける。


「ぅぶっは――」


短い悲鳴をあげて、ソーマは気を失った。

サーニャは小さく溜息をついてから顔を上げ、


「誰か! 動ける者は手伝ってくれ!」


振り返り住民に助けを求める。すると、昼間に見た宿屋の店主が手を挙げて、


「手伝うよ。とにかくどこかに寝かせよう」


ソーマの脇を抱え担ぎ上げる。

その行動に、他の生き残りの者達も腰を上げ、


「誰か傷薬持ってこい!」

「そこのうちにあるよ!」

「動ける人は怪我人の手当てを!」


銘々に救命活動を始めた。


「かたじけない……恩に着る!」


住民達に深く頭を下げるサーニャ。

すると頭上からココが声をかけてきた。


「サーニャ! 港は無事みたい!」


サーニャは頷いて振り返り、


「怪我人を港へ運んでくれ! ココは一足先に港へ行って、寝かせられる場所の確保を!」

「わかった! 行くよ、アストラーデ!」


ハッチを閉じて飛び立っていくアストラーデを見送って、サーニャと住民達は港へ向かった。



夕焼けも静まり、空はゆっくりと漆黒に染まっていく。宵空に光る星の群れの中に、一際輝く光源が一つあった。アストラーデである。

コクピットからモニター越しに街だった場所を見下ろしながら、ココは小さくつぶやいた。


「わたしの……せい、かな……」


うっすらと涙を滲ませたその言葉に、アストラーデが応える。


『…………何が?』


ココはくすんと洟をすすって、


「わたしがソーマと出逢ったから……ソーマに剣を渡したから……またソーマに悲しい思いをさせた…………」

『……考えすぎだよ。それに、あの日ココとあいつが出逢ってなかったら、ココもあいつもシラフで死んでた』


ココは駄々っ子のようにかぶりを振る。


「出逢わなかったら、もっと早く町を出れた……。そうすればきっと……誰も死ななかった……」


両手で顔を覆って、いよいよココは泣き出してしまった。

するとアストラーデは小さく嘆息して、


『……後悔しても時間は戻らない。それがこの世界の理。人間はただ、目の前の現実を受け入れるだけ』

「……。アストラーデはいつもそう……。少しも優しくしてくれない……」

『「友達」だから厳しくしてるんだよ。慰めてほしいだけなら他を当たり――っ!』


アストラーデの言葉を遮って、コクピット内に警告音が鳴り響く。

瞬間アストラーデが半回転し、モニターの景色がぐるりと回転する。


「まさか!?」

『宇宙恐竜だ』


モニターに複数の赤い丸が浮かび上がり、敵の存在を示した。


「二脚の群れ……」


見詰める先には二脚で地を駆ける宇宙恐竜の群れ。数はかなり多く、目算で二〇を数えた。


『どうする? 逃げる?』


訊ねるアストラーデにココは首を振って、


「これ以上ソーマに辛い思いはさせない! わたしが食い止める!」


レバーを押し倒してスラスターを吹かし、宇宙恐竜の群れに立ち向かう。


「やぁああああああああああ!」


空中で縦に回転し宇宙恐竜の一頭に踵落としを見舞う。頭骨に踵がめり込み、肉の裂け目から赫が弾ける。


「まだまだぁ!」


額の角に収束させたプラズマを放射し、射線上の宇宙恐竜を殲滅する。

しかし敵の半数程は跳躍して左右に避け、荒波のようにアストラーデに襲い掛かる。


飛び掛かる宇宙恐竜の牙を躱してバックステップで距離を取ると、ココはキーボードを引き出して、素早く打鍵する。

モニターにアルファベットの羅列が浮かび上がり、何かのプログラムを組み上げていく。そして最後にエンターキーを叩くと、


属性変換(エレメンタルシフト)!!」


アストラーデの足元の地面に六角形をいくつも組み合わせた模様が浮かび、やがてそこから緩やかな反りの入った剣が生えてきた。

剣の柄を握って構え、


「サーニャみたいに上手くはできないけど……それでもっ!」


脹脛のスラスターを吹かして加速し、手前の宇宙恐竜を横一線に切りつける。


「てやあっ!」


見事に宇宙恐竜の首を刎ね、赫が火山のように噴き上がる。


「やった! ――ひゃっ!?」


抜き付けた剣の勢いに体勢が崩れよろけてしまう。

その無防備な背中に宇宙恐竜の頭突きを喰らい、5メートル程吹き飛ばされるアストラーデ。そのまま肩から地面に崩れたところに、宇宙恐竜の巨爪が突きつけられる。


「っ!」


即座に背面部のスラスターを全噴射し、砂煙と土砂を噴き上げ防御。宇宙恐竜が怯んだ隙に立ち上がって、


「武器の制御バランスを直さないと……!」


再びキーボードを引き出して、システムを組み直す。

だが打鍵の最中に警報が鳴り、


「ひゃっ!」


宇宙恐竜の尻尾の横薙ぎを脇腹に喰らってそのまま吹き飛ばされる。

ズドドっ、と地面を抉り、アストラーデの半身が砂地に埋もれた。



「もう少しだ! 頑張れ!」


怪我人を担いだギャンが振り返りながら叫ぶ。ギャンの後ろには三十余人の生き残り達が列を作っていた。


それぞれが怪我人や薬箱、樽などを両手に抱え、取り敢えずの目的地である港にたどり着く。

そこでは、アストラーデが宇宙恐竜の群れと戦闘を繰り広げていた。


「また宇宙恐竜だ……!」


クルードがつぶやくと、全員の目がそちらに向く。


「あの光ってるの、さっきのデカ人形じゃないか?」宿屋の店主が呆けたように言う。


その時、アストラーデの踵が一頭の宇宙恐竜を捉え、頭蓋を粉砕し赤い飛沫を撒き散らした。


「つ…強え……」

「ココが動かしているのか……?」


上空を見上げながらサーニャがつぶやくと、隣のアイラがそれに応える。


「うん……。あのふんいき、ココおねいちゃんだよ」


アイラの言葉にサーニャは不思議そうな顔をして、


「分かるのか?」


訊ねると、アイラは小さく頷いてから瞳のハイライトを消して、


「おねいちゃんじゃ、かてないよ……」

「……何故そんなことが――!?」


アストラーデが額からビームを放つ。

が、それを躱した宇宙恐竜が波状攻撃を仕掛ける。


するとアストラーデの足元が目映く光り、地面からアストラーデの身の丈を凌ぐ程の剣が出現した。


「あれは……太刀、か……?」


サーニャの推測を裏付けるようにアストラーデは剣を構え、プラズマジェットを噴出して宇宙恐竜に向かっていく。

剣を振るったアストラーデを見てサーニャが叫ぶ。


「いかん! 大振り過ぎる!」


その言葉通り、宇宙恐竜の首を刎ねた鋒はそのままの勢いで空を遊び、反動に負けてアストラーデの姿勢が崩れ、その背中に宇宙恐竜が頭突きを見舞う。


「ココ!」


吹き飛ばされるアストラーデを見てサーニャが叫ぶ。


「言ったよ……。おねいちゃんじゃかてないの」


ココは無表情でそう言って、宿屋の店主に担がれたソーマの前に立つ。それからゆっくりと手を伸ばしソーマの頬に触れると、


「おにいちゃん、起きて。じゃないと、ほんとうにみんなしんじゃう」


目を閉じうつむいて、小さくつぶやく。


「『Open your eyes, and awake.』」


唱えて瞼を開けたアイラの瞳には、小さな十字が浮かび上がっていた。その言葉に反応して指先に柔らかな光が集まり、やがてソーマの顔色を元に戻していく。


「……アイラ……何を…?」

「きつけのじゅもん」


するとソーマの瞼が開き、正面のアイラを見付けて、


「…………アイ…ラ……?」


その声にアイラが微笑む。

と、アイラの背後からブォン! と轟音が響き、風圧が砂埃を巻き上げながら駆け抜けた。


「っ!」


思わず顔を逸らすソーマ。それから視線を戻すと、砂煙の中からアストラーデが飛び出してくるのが見えた。


「アストラーデ……ココが一人で……?」


ソーマに頷いて、アイラが言う。


「おねいちゃんを…みんなを助けて、おにいちゃん」


さっきよりも激しい音がして、アストラーデの巨体が地面を捲りながらこちらに突っ込んできた。


「アイラ、避けろ!」


叫ぶソーマ。しかしアイラは微塵も動かず、ゆっくりと左腕を肩まで上げる。

するとその手に触れるか触れないかの所で、ぴたりとアストラーデの動きが止まった。


「おにいちゃん、おねがいなの」


アイラの願いを強く噛み締めて、ソーマはアストラーデの傍に歩み寄ると、静かにアストラーデに語り掛ける。


「ハッチを開けろ、アストラーデ」


その声に応えてアストラーデの胸部装甲が開き、ブシュゥと白煙を噴いた。

ソーマは身を乗り出して、シートの背もたれに沈んだココに手を伸ばし、額の汗を優しく拭う。


「…………ソーマ……?」


虫の鳴くような弱い声でソーマを呼ぶココ。

ソーマは力強く頷いて、


「悪い……。後は任せろ」


逞しく微笑んでから、ココの手を引いて上体を起こす。するとココは申し訳なさそうに視線を逸らし、


「ごめん、ソーマ……。わたし…ソーマに辛い思いをさせてばっかで……」


涙で震えた声を漏らす。

そんなココにソーマはかぶりを振り、操縦桿を操作してアストラーデを立たせるとシートに深く腰掛けて、


「楽しい事や嬉しい事を、それ以上にもらってるよ」


いつものようにココを膝に促す。

だがココはそれを拒否して、


「だめ……。わたしじゃ足手まといだよ……」

「いいから。一番近くで見守っててくれ……」ココを抱き締め強引に膝に座らせて、「そうすればもう、誰にも……何にも負けないから」


華奢な身体を掻き抱いて言う。


「…………いいの……?」


その質問に答える代わりに、ソーマはココを強く抱き締めた。ココも涙をこぼしてソーマの胸を握り締める。


「いくぞ。しっかり掴まってろ」

「……うん」


アストラーデのハッチを閉じ、操縦桿を目一杯に倒して、ソーマは宇宙恐竜に向かっていった。

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