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銀河のアストラーデ  作者: シン サヲトメ
13/17

死をつかさどるもの

「――――…………、っ……?」


ソーマが目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋のベッドの上だった。


「……あれ……? 俺、何でこんなとこに……」


とりあえず上体を起こし、胡坐をかいて腕を組む。じっくりと考えてみるも、老婆にお茶をもらってから後の事が何一つ思い出せない。エロい夢を見た気もするが、霞がかったぼやけた映像しか浮かんでこない。


「……ダメだ、何も思い出せない」


足を放り出して再びベッドに寝そべると、ドアからノックと細い声が聞こえた。


「……そ…ソーマ……? 目がさめた……?」

「ココか?」


ベッドから降りてドアを開けるソーマ。そこにはうつむきながら赤面するココが居た。

ココは低い位置で視線を泳がせながら、


「あの、その……おばあさんが、ごはんできたよって……」

「ああ、うん。分かった。行くよ」


部屋から出、廊下を歩く。その間もずっと、ココはうつむいて無言。


「…………? ココ?」

「はいっ!?」


ソーマが声をかけるとココはびくんっ! と肩を跳ねさせ硬直する。


「……どうしたんだ? さっきから様子が変だぞ?」

「べべべつにどどどうもしてないよよよ!?」

「どもりすぎだろ……。顔も赤いし、熱でもあるんじゃないか?」


訝りながらココの額に手を伸ばすソーマ。


「さわらないでっ!」


身を翻しソーマの手を避け叫ぶココ。顔色はいよいよ真っ赤である。


「……ど…どうしたんだよ……?」


急に怒鳴られて、ソーマは困惑の表情を浮かべる。ココははっ、としてから申し訳なさそうに顔を伏せて、


「ご…ごめん……。今は…ちょっと……恥ずかしいっていうか、敏感になってるっていうか……」

「……」


手を下ろしたソーマにココは続ける。


「その…ソーマの事がきらいとかさわられるのが嫌とかじゃなくて……」

「……?」

「わたしも……ソーマにさわりたいし、できればもっとさわってほしいけど……」

「……???」

「今は…ちょっと…………アストラーデの制御が…うまくできなくて……」


小さな声でつぶやくココ。

ソーマは小さく嘆息するとふわっと微笑んで、


「分かった。……いや、よくは分らないけど……とにかく今は触られたくないんだな」

「きらいに……なった?」


上目遣いで訪ねるココに、ソーマはかぶりを振る。


「そんな事で嫌いになるかよ」

「……ありがとう……ごめんね?」

「いいよ、気にするな。それより、早く下に行こう。腹減ったよ」


言って再び歩き出すソーマの耳に、甲高い悲鳴のような声が聞こえた。


「っ!? ココ、聞こえたか!?」


振り返り訊ねると、ココはうなずいて答える。


「宇宙恐竜……だね」


廊下の窓を開け放ち身を乗り出すソーマ。しかし見えている範囲にそれらしき影はない。


「どこだ……? けっこう近かったけど――」


その時、夕暮れの日差しを遮って、ソーマの顔に影が覆いかぶさる。


頭上を見上げたソーマの目に、巨大な翼を広げて宙を舞う、くちばしの長い翼竜の群れが映った。


「勘弁しろよ……空飛んでやがる……」


誰ともなしに愚痴をこぼすソーマ。

翼竜達は円を描いて飛んでいるので正確な数は分らないが、少なくとも一〇匹は居る。


冷や汗を浮かべながら空を仰いでいると、一階の扉を蹴り開けてサーニャが外に飛び出してきた。

頭上を見上げたサーニャはソーマに気付くと、


「ソーマ! ぼやぼやするな! 港に逃げるぞ!」


老婆を背負ったクルードとアイラも外に飛び出し駆けていく。

振り返ってココを見るとうなずいたので、ソーマは外に居るサーニャに叫ぶ。


「先に逃げてください! ここは俺達が引き受けます!」

「何を言っている!? 生身で宇宙恐竜と戦うなど――っ!?」


声を張ったサーニャの視線の先に光の柱が降り注ぎ、まばゆい光を放つ。その眩しさに手で顔を隠し、光が治まった頃に再び目を開けると、二階の窓の前で宙に浮く人型――アストラーデが見えた。


アストラーデの胸部ハッチが開くと、ソーマはココを抱いて飛び乗る。

ハッチを閉める前に、再びソーマがサーニャに叫ぶ。


「サーニャさん早く!」

「わ…分かった!」


踵を返し駆け出すサーニャ。首だけ振り向いてもう一度人型を見てつぶやく。


「あれが……ココが言っていたアストラーデというものか……?」


サーニャの影が森の中に消えていったのを確認して、ソーマが桿を握る。モニターには複数の赤い丸と異国の文字、そして『12』という数字。


「数が多いけど……」操縦桿を握る手に力を込めて、「一匹だって街には行かせない! ここで食い止めるぞ、アストラーデ!」


ソーマの檄に合わせてアストラーデの目が光り、脚部からプラズマを噴出して急上昇する。

モニターの赤丸が翼竜を捉えた瞬間、


「一匹目ぇ!」


急加速からの貫き手が翼竜を貫いた。


「ギャースゥウウウウウウウゥ――――!」


甲高い断末魔をあげて肉片と化す翼竜。

空中で方向転換し、更にスラスターを吹かして別の翼竜に狙いを定める。


「うぉらぁああああああああ!」


気迫と共に右腕で桿を押し出す。

その刹那、耳に痛い程の警報がコクピット内に鳴り響く。


「ソーマ! うしろ!」

「!?」


アストラーデの背後から別の翼竜が迫ってきていた。

反射的に左の操縦桿を引き、錐揉み回転で後ろからの攻撃をかわす。そこに間髪入れずまた別の個体が突進する。


「くそっ!」


両手の桿を押し込むソーマ。スラスターを逆噴射して停止したアストラーデの脇を、翼竜の翼ががかすめていった。


「うわっ!」「ひゃあっ!」


鈍い衝撃に揺れるコクピット。ノイズの混じったモニターには、アストラーデの周りを縦横無尽に飛び回る翼竜の群れ。


「こうなったら――うらっ! 乗ってこい!」


ペダルを踏み込みアストラーデを急上昇させると、その後に翼竜の群れが追随する。


「かかった!」


更に加速を続け十分に群れを引き付けたところで逆噴射。アストラーデの脇を翼竜達が通り抜けると、


「ここだ! アストロビ――――ム!」


間髪入れずに額からビームを放つ。

しかし翼竜達も賢しく、ビームかわそうと旋回する。


「逃がすかぁ!」


翼竜の進路に向けてアストラーデを回転させる。

翼竜達は次々とビームに焼かれ落ちていったが、別の方向に逃げ出した三匹を逃がしてしまう。


「くそっ、撃ち漏らした!」


三匹は大きく旋回し、アストラーデに尻尾を向けた。


「ソーマ、あっちは!」

「まずい! 街の方だ!」


振り返った背後のモニターには、夕闇に染まる街並み。


「くっそぉ!」


旋回してスラスターを吹かす。


「追いつけない……! ならこれでどうだ!」


アストラーデの背面装甲が開き、多弾頭ミサイルを放つ。

だが張り巡らされた弾幕も、きりもみ回転でかわされてしまう。


すると翼竜の一匹がアストラーデに向き直りその翼を大きく広げる。


「!? 何だ!?」


大きく広げた翼から、ナイフのように尖った鱗を無数に放つ翼竜。


「うおっ!?」


顔の前で両腕を交わして防御するアストラーデ。一発の威力は小さいが、何分数が多い。

モニターにノイズが混じり、『CAUTION』の文字と共に四面図の腕部分が赤く点滅し出す。


「くっ……うわぁっ!」


続けて翼竜の足蹴をもろに喰らい、アストラーデは制御を失い落ちていく。

背中から地面に墜落したアストラーデに追い打ちをかけようと、翼竜の嘴が向けられる。


「っ!」

「ギャ――――ス!」


硬く目を閉じた次の瞬間、翼竜の悲鳴が聞こえた。


「――…………えっ?」


目を開けると、切り口から赫を飛ばして真っ二つになった翼竜と、その赫の中を横切る赤い髪の美女が瞳に映る。


「さ……サーニャ……!」


ココの声に応えるようにサーニャは微笑んで、血振りしながら着地した。


「危ないところだったな」

「サーニャさん……助かりました!」


アストラーデを起こしながらソーマが謝辞を告げる。


「安心するのは早いぞ。奴ら、まだ街を狙っている」


街の中心部に向かって低く飛んでいく翼竜を睨みながらサーニャ。


「大分数を減らしたとはいえ、まだ十二分に脅威は残っている」

「サーニャ、アストラーデの手に乗って」

「済まない」


低く出された手に乗るサーニャ。


「アストラーデ、腕、大丈夫なのか?」


ソーマが訊ねると、画面に『Do not worry.』と浮かぶ。



「大丈夫だって。サーニャ、しっかりつかまってて」


ココの言葉にサーニャがうなずく。それを確認してペダルを踏み込み、ソーマはアストラーデを発進させる。


「けど、よく港から戻ってこれましたね」


ソーマがサーニャに訊ねると、


「いや、途中でギャンに会ってな。宇宙恐竜が出たと聞いて、刀を持って私達を探してくれていたそうだ。ソーマのナイフも預かっている」

「実はいい人だったんですね」

「第一印象が必ずしもその人間の本質ではないさ。……しかし――」眼下を駆け抜けていく荒れた街並みを見ながら、「たった二匹の宇宙恐竜にこのザマか……。我々人間とは、なんと弱い生き物なのだろうな……」


顔を顰めて唇を噛むサーニャ。


「! 居ました!」


アストラーデの向こうに、街を蹂躙する翼竜が二匹。逃げ惑う住人をいたぶるように、破壊の限りを尽くしていた。

その濁った瞳が幼子を連れた女性を捉え、鋭い鈎爪を向ける。


「ソーマ! 私を投げろ!」

「大丈夫ですか!?」

「躊躇っている暇はない!」


一回転して掌のサーニャを投げ出す。サーニャは弾丸のように、真っ直ぐに翼竜に向かっていく。


「はぁあああああああああああああ!」


空中で抜刀し、一刀で二匹の翼竜に切りかかる。翼竜の片割れを両断し、間一髪親子を救った。

しかしもう一匹に切っ先が届かずに逃がしてしまう。


「くっ……私としたことが……!」


空中で身体を捻り着地して、恨めしそうに翼竜を睨みつける。

翼竜が羽ばたいて高く飛び上がる。


「逃がすか! アストラーデ! ふんばれ!」


操縦桿を倒してペダルをいっぱいに踏み込む。

加速して翼竜に迫るアストラーデ。そのまま腰を中心に身体を捻り、回し蹴りを繰り出す。


が。


「っ!?」


突如目の前に現れた黒い巨影に阻まれ、ガギィン! と鈍い音が鳴り響いた。


「な……こいつは……!」


驚愕に顔を歪めるソーマ。モニター越しに見たそれは、ソーマにとって忘れられない仇――山程の巨体を持つ三つ首六羽の宇宙恐竜の頭だった。


三つ首六羽の宇宙恐竜は、赤い双眸を鈍く光らせると嵐のような声で嘶く。


「っく……!」


思わず両手で耳を塞ぐソーマとココ。

三つ首六羽の宇宙恐竜は開いた口に翼竜を含み、ボギバギと鈍い音を立てて噛み砕いた。


「なっ……食いやがった……」


六枚の翼を煽いで竜巻を起こす。風圧を正面から喰らって、アストラーデは吹き飛ばされる。


「うわぁあああああああああああああああああああああ!」


錐揉みしながら地面に叩き付けられるアストラーデ。石畳が陥没し、周囲に亀裂が走る。


「くっそ……大丈夫かココ?」

「だいじょうぶ……だけど……」


モニターの向こうに目を遣る。

三つ首六羽の巨大な宇宙恐竜が、不気味に翼をはためかせている。


するとアストラーデのモニターに赤い丸が浮かび、宇宙恐竜を捉えて文字を浮かべた。


『This is Azrael,』


「……『アズラーイール』……」


表示された文字を見て、ココがつぶやく。


「アズラー……イール?」


訊ねるソーマにココは怯えたような表情で、


「冥王の星、天蠍(てんかつ)の宮――そして、『死を司る天使』……」

「死を司る…天使……? それがあいつの名前なのか……?」


重ねて訊ねるソーマに、ココは小さく頷いた。


「アストラーデが……震えてる……」


見る見る青ざめていくココの表情。


「おい、アストラーデ……嘘だろ……? 戦え――ないのか……?」


ソーマの問いに、アストラーデは無言で返した。

すると。


頭上の宇宙恐竜(アズラーイール)の目が怪しく光り、口を開いて臭気を吐き出す。


「……おい……まさか――」


六つの目と三つの口に赤い光が集まりだし、


「嘘だろ……やめろ――やめてくれ――!」

「アストラーデ! 最大範囲でシールド張って早く!!」


高温の熱線が地上に向けて放たれる。

地を焼いて火柱が立ち昇り、ガラス化した土が溶岩のように溢れ、街の全てを飲み込んでいく。


「―――――――――――――――――――――――――……………………!」


悲鳴と爆音が溢れ返り、街が、人が、世界が燃える。

一瞬にして街を地獄と化したアズラーイールは、異形の翼をはばたかせ、夕闇に溶けるようにどこかへと消えていった。

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