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銀河のアストラーデ  作者: シン サヲトメ
11/17

魔界の王

舵を握るソーマの視線の先には、舳先(へさき)で景色を眺めるココとアイラ。

(ほばしら)に登って双眼鏡を構えていたサーニャが声をあげる。


「見えたぞ。クジュラだ」


言ってロープを掴んで甲板に降りると、同時に帆が畳まれた。

甲板に降り立ったサーニャはココとアイラに向き直って、


「さて。二人とも、上陸の準備をしておけ」

「はーい」

「なのー!」


銘々に船室に戻っていく二人を見送るソーマとサーニャ。ソーマは舵を切りながら、


「クジュラ、か……。どんな街なんですか?」

「十字教を母体にした宗教都市だ。宗教柄なのかお国柄なのか、スピリチュアルな自然味に溢れるのんびりとした街だよ。私は行った事はないが、ラシャとは交易が盛んだったからな」

「十字教……前世紀で一番信徒の多かった宗教でしたっけ?」

「新教、旧教、ともにそうだな」

「新教と旧教ってどう違うんですか?」


舵を切りながら訊ねると、サーニャは刀の位置を気にしながら答える。


「経典の解釈の違いさ。たったそれだけの違いで多くの血が流たがな」

「……へぇ……そうなんですか」


そうこう言っている内にアーセナルは入港し、四人は船から降りる。すると槍と甲冑で完全武装した衛兵の集団が駆け寄ってきて、四人に穂先を向ける。

咄嗟にココとアイラを庇うように前に出るソーマ。腰をかがめナイフの柄に手をやると、サーニャが更に一歩前に出てソーマを制しながら声を張る。


「随分なご歓迎だな。我々にはラシャ港湾管理委員からの正式な出航許可証がある。これ以上の不躾は国際問題に発展する可能性もあるが……良いのか?」


すると衛兵達を掻き分け、不愛想な髭面の男が進み出てきて、言った。


「この頃何かと物騒でな。悪いが、貴様らの身元が確かなものとなるまでは――」男は右手を挙げて続ける。「こちらの指示に従ってもらう」


男の合図で、衛兵たちが四人を取り囲み順番に手枷をかけていく。


「お……おにいちゃん……」


か細い声を漏らすアイラにソーマは微笑んで、


「大丈夫。こっちの書類は本物なんだ。直ぐに放してくれるさ」


そんなソーマの耳元で、ココが小さくささやく。


「シスコ……じゃなくてソーマ。アストラーデ、よぼうか?」

「お前今シスコンって言おうとしなかったか?」


苦言を呈しつつかぶりを振ってソーマは、


「いや……今はおとなしくしとこう」


ソーマの言葉にうなずくココ。話を聞いていたサーニャもうなずいて、腰の曲刀を下ろし、しぶしぶ衛兵に渡す。


「『景綱』の銘が入った大業物だ。丁重に取り扱ってくれ」

「……分かった」


髭面の男は頷いて、大太刀を受け取った。

手枷に縄紐で縛られた四人は、石造りの牢獄に連れていかれた。



「一体どこが『スピリチュアルな自然味溢れるのんびりした国』なんですか?」


狭い牢獄に押し込められたソーマが愚痴ると、サーニャは涼しい顔で返す。


「『私は行った事はない』と断っただろう? 伝え聞いた話と物の実際がまるで違ったなんて話はよくある事だ。しかし――」険しい顔で周りを見回して、「少し様子がおかしい気はするがな」

「ですね……」


溜め息を吐きながら同意するソーマ。

牢獄の空気は重く冷たく、おまけに床石は硬くて居心地がすこぶる悪い。


「くちゅんっ!」


アイラが可愛らしいくしゃみをして、鼻をすすりながら自分の肩をさすり出す。


「さむいのー……」

「こっちおいで」


ソーマが腕を開いて呼ぶと、アイラはにぱ☆っと笑って嬉しそうにソーマに抱き着く。


「おにいちゃん、あったかーい」


腕の中で暖を取るアイラ。

それを見てココもわざとらしくくしゃみをし、


「ソーマ、わたしも寒い」

「藁の上掛けがあるぞ。ほら」


上掛けを受け取ったココは渋い顔でぶーたれる。


「なにかな、この扱いの違いは……」


そんな二人のやりとりを、訳知り顔で微笑ましく眺めていたサーニャが、不意に思い出したようにココに訊ねた。


「そういえば、さっき言っていた『アストラーデ』とは何者だ?」

「? ああ、そっか。サーニャは見た事ないんだっけ」

「アイラもしらないの」


くりくりの瞳に疑問符を浮かべるアイラ。ココは顎に指を宛てうーんと考えて、


「なんていうのかな……わたしの友達でソーマの剣で……えっと……」

「友達で剣……? 済まない、よく分からん。呼ぶと言っていたが近くに住んでいるのか?」

「うーん……近くはないけど、よべばすぐ来てくれるかな」

「……いよいよ以て分らん……。どうだ、呼んでみてくれないか? 実際に会った方が理解も早かろう」

「アイラもあってみたいのー」


二人にせがまれるも、ココは頬を染めて俯きながら、


「いや、それはちょっと……人前じゃ恥ずかしいっていうか、アイラにはまだ早いっていうか……」


ここで、一連の会話を黙って聞いていたソーマが溜め息を吐きながら割って入る。


「俺もよくは分らないんですけどね。アストラーデは兵器だったり、ココの友達だったりする、宇宙恐竜と対等以上に戦える『仲間』ってとこですかね。呼び出すのにココの手助けが要るんですけど、それが何故かちょっとした手間というか、恥ずかしい行為というか……」


要約しようにも、やはりソーマにも上手く言えなかった。

困ったソーマは助けを求めるようにココに視線を送る。するとココは小さく溜め息を吐いてから、


「……そうだね。そろそろ、ソーマにも説明しておいた方がいいかな」


ゆっくりと話し始める。


「ソーマには言ったよね。わたしの町では、皆既日蝕の日に生まれた子供は、魔界の王に魂を食われた状態で生まれてくるって言われてた。その子供は世界に禍をもたらす忌み子として、ほんとは生まれてすぐに殺されるんだけど……わたしは殺されないで、森の奥に隠匿されて今まで生きてきた」

「その様な迷信がまかり通っていたのか……」


 苦い表情でつぶやいたサーニャに、ココは小さくかぶりを振る。


「迷信じゃないよ。――だって、その魔界の王っていうのが――アストラーデだから」

「…………そうなの?」


訊ねるソーマにココはうなずいて、


「ソーマには分かるよね? アストラーデの力を直に見たソーマなら」


――宇宙恐竜の群れを一撃で薙ぎ倒す力。それに、明らかにこの地上のものではない未知のテクノロジー。


「ずっとずっと昔、日蝕の日に生まれた子が居たんだって。やがてその子は大人になって、アストラーデの力を悪い方に使ったの」


――垣間見ただけでも身に染みた、アストラーデの力。それを『敵』ではなく『人』、或いは『世界』に向けたなら……それは想像するだけでも恐ろしく、実際におぞましい結果となっただろう。


「それからだと思う。アストラーデを魔界の王とみなし、アストラーデと通じる力を持って生まれた子を忌み子として殺してきたのは」


ココの話を聞いて押し黙るサーニャとソーマ。話が難しくてアイラにはよく分からなかったが、それでもココや他の二人の表情から、楽しい話でないことは理解できた。


「強大な力は、扱いを誤れば世界を滅ぼす事になる――という事だな。――ならば、『今』のアストラーデというものは、世界を滅ぼす事にはなるまい」


サーニャの言葉に、ココは不思議そうに小首を傾げる。するとサーニャはふっ、と優しく微笑んで、


「君からは、邪心など微塵も感じないからな」


言われたココはソーマに顔を向ける。ソーマもそしてアイラも、サーニャと同じように笑っていた。

ココは嬉しいような恥ずかしいような、けれどもどこか馬鹿にされているような、そんな不思議な気持ちになって、思わず顔を伏せる。


そんな仕草が可笑しくて、サーニャとソーマは声を出して笑い、アイラもなんだか楽しくなって、二人と同じように笑うのだった。

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