#6 散歩
佐倉さんは、……まぁ、色々とおモテになる。
棺桶に片足すっこんでいるような爺さん婆さんだったり、棺桶から出てきたような連中だったり。まぁ、後者は碌なもんじゃないな。
この間だって本人には近く出来ない存在がすぐ傍にいるのを、職場の同僚に目撃されていたらしいし。それで帰りだけでもとしばらく職場まで迎えに行く生活をしていたし、何なら今日だってなんの連絡もなければそのつもりでいた。
一応あれから特に何も聞かないし収束したのだと思う。
興味が移ったのか、諦めたのかはわからないが、いなくなったというのならこれ以上俺が手を出すことはないだろう。
幽霊を見たら必ず成仏させなきゃいけないなんて法もないし、そこまでの情熱もない。ならもう少しだけ様子を見て佐倉さんの送迎も終わりだろうかなんて考えていた。
なんでそんな話をしているかというとだ。
山道の方へ向かう佐倉さんの後ろ姿を見かけた。実害らしい実害がなかったとは言え、一人で何をしてるんだよ。今日の分の檀家巡りもこれで終わりだと帰ってクーラーの効いた部屋でだらけようと思っていたというのに。
彼女の後姿が曲がり角に消えた。
この道を用があって進む人はほとんどいない。あるのは道路こそ舗装されているものの時々落石のある山道と県をまたぐ国道、後は霊園くらいなものだ。
少し戻れば神社はあるがそこには興味がないのか、迷いなく進む彼女の背中を追うために原付のエンジンをふかす。
ある程度近付いたところで軽くクラクションを鳴らす。
本来なら褒められたことではないが、人通りもなければ住宅もない山道なので大目に見てもらおう。
「どうも。なにしてんの?」
声をかけながら横につける。彼女は驚いたように目を丸くしていたが、すぐに嬉しそうに表情を崩した。
「こんにちは八千種さん。ちょっとした散歩ですよ」
「こんなとこまで?」
なんて言いながら妙に納得する。
この先には何もない。だが、確かに見晴らしは良さそうだな。なんて馬鹿なことを考えた。
田舎とは言え国道には車の通りはそれなりにある。けれどそれもガードレールの向こう側のみの話でちょっと外れれば人の気配なんてありはしない。
「たまには、というやつです。よろしければご一緒しませんか?」
彼女が笑ってこちらに手を差し伸べる。
これはまた随分と。
太陽が木々の間に隠れ、柄にもなく不思議の国に迷い込んだような気分になる。
駆け抜ける風が、木々の合間を縫ってがさがさと音をたてた。