#4 夜泣き
あっつい。
今日も太陽が元気に輝いている。勘弁してくれ。いくら七月に入ったからって張り切りすぎるな。ちょっとは休め。
燦々と照り付ける太陽は天辺にある。坊主に休日なんてもんはないがちょっと昼に飯を食いに出るぐらい許してくれ。
まぁ。多分明日には笹岡の婆さんによって俺がカレー食いに行っていたことは広められているだろうがな。あの婆さんの噂好きにも困ったものだよ。
何か言われたらネパール人の兄ちゃんがイケメンだったって言っておこう。それで婆さんたちの噂の的は俺からインドカレーの店に移るはずだ。
何年か前に出来たのは知ってたが来たことはなかったが、普通に美味かったよ。坊主が本格カレーって笑われるかもしれんが、チーズナン食いたかったんだよ。
というか。なんでインドカレーの店ってネパールの人がやってること多いんだろうな。
原付に跨って軽く地面を蹴る。
平日の昼間だからか車の少ないバス通りを転がして、来た道を辿った。
ああ、そうだ。特に用もないが派出所に顔を出しておこうか。カレー屋から然程離れていないそこには高校の時代の後輩が詰めている。
俺が坊主やってるのも大概だが、あいつがお巡りやってるのも中々面白い絵面だと思う。ずっと阿呆やってたやつらが付くような職業ではないからな。
後輩と顔馴染みの年配のお巡りさんに適当に挨拶をする。後カレー食ってきた自慢も。
とはいえ、来たところでする会話といえば「何にもないか?」「そんなもんねぇよ」ぐらいなもので。坊主もお巡りも仕事がないのが一番いいとはこのことか。
後輩に声をかけて派出所を出ると、佐倉さんと目があった。
丁度派出所の裏手が彼女が勤めている農協だし、何なら時間も昼休憩の真っただ中だろうからなにもおかしなことはない。
彼女もすぐ気が付いたのかどちらともなく声を掛け合う。
「あっついね」
「ですよねー。ついコンビニでアイス買っちゃいました」
そういって彼女はビニール袋を掲げてみせた。中には汗をかいた涼しげな氷菓とペットボトルの炭酸水が放り込まれている。
この気温だとすぐに溶けてしまいそうなものだが、きっと休憩室の方に冷蔵庫があるんだろう。
こちらの心配を他所に、あ、そうそう。なんて佐倉さんが思い出したように口を開いた。
「昨日夜中に子供の鳴き声がすると思ったら窓に子猫が張り付いてて驚きました」
「軽くホラーじゃん」
網戸に爪が引っかかって助けを求めていた子猫は、暗かったこともあって親猫を見つけることもできず結局一晩保護したらしい。
首輪もないことから野良猫だとは思うが、仕事が終わったら動物病院で見てもらう予定だそうだ。
なんとなくだが、彼女の人の好さから子猫は飼われることになるだろうと思う。
「猫とか子供の鳴き声ってなんで夜に聞くと怖く感じるんでしょうね」
なんて、佐倉さんは困ったように笑った。