#21 古い町
住んでいる分にはそこまで気にしたことはないんだが、一応この辺り一帯はそれなりに歴史がある。
いつも見上げている山や隣町なんかは古いし書物にも名前が載っているし、少し山手に行ったあたりにはどこかの城の城壁に選ばれ損ねた巨大な石があったり。
そういうのが好きな人には見る物の多い町なんだろうと思う。興味がなければそれまでなんだが。
一応地元の話なので小学生に上がると地域学習という形でその辺りを学ぶ機会はあるのだが、十年、二十年も経てば大抵は記憶の彼方に消え去ってしまうし、何ならこの町を出たやつらだって多い。
俺は寺の息子だから外に出るわけにもいかないし、有難い説法の合間にそういう話もするから覚えているだけのこと。
そこに大した意味はないし、棺桶に片足突っ込みかけてる檀家の爺さん婆さん同様に歴史があるんだなぁという感想しかない。
「そういえば佐倉さんがこっちに来てもう3年近くなるね。」
なんてことをふと思い出した。
彼女とこの町に移り住んだのはまだ肌寒い季節だったか。俺にとっての二度目ましての出会いは、そんなに何か大きな出来事があったわけじゃなかったけれど、今となってみればその頃にはもう今の様な関係になるのは決定付けられていたのかもしれない。
あの時の彼女は近所に引っ越しの挨拶をして回っている途中だったのか、紙袋を下げていたし、家の片付けで疲れていたのか少し草臥れていた。
それで俺がお供えでもらった苺を佐倉さんにお裾分けしたのが付き合いの始まりだった。
「もうそんなになるんですねぇ」
蓋を開けてみればとんでもない人だったが、その時は今時珍しくちゃんとした子だなとか、なんで若い子がこんな田舎まで来るとは何て思ったものだ。
のんびりと答えた佐倉さんは相変わらず今日も仕事帰りに寺に顔を出してくれる。
「でも私未だに迷う事があるんですよ」
「うっかり裏路地に出ちゃったり?」
「それでいて妙な目にあったり。一体どうなってるんでしょ」
そう言って佐倉さんは苦笑いを浮かべた。
彼女が言うようにこの町は細い道が多い。その上たまにおかしな所に出るし、彼女においてはおかしなものも出てくる。
歴史があるといえば聞こえはいいが、彼女にとってはあまりいい環境ではないのかもしれない。それでも、佐倉さんはこの町にいる。
「古い町だからね、そんなこともあるよ」
なんて。誤魔化すように返すと、佐倉さんは困ったような笑顔を見せた。
蝉の声が雨の様に降ってくる。
じわりと滲む汗に嫌気がさして空を見上げれば、雲一つない空が広がっていた。




