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#2 朝は勤めて


 坊主の朝は早いらしい。いや、俺は朝弱い方だけど。

 八時前にのそのそ起き始めて予約しておいた炊飯器から米をよそったら、十分くらいでささっと朝のお勤めをして仏前に供えた米と田島の婆さんがくれた梅干しやら漬物やらで朝食を済ませる。


 他所のちゃんとしたとこの坊主ならいざ知らず、田舎の跡継ぎ坊主ならそんなもんよ。

 こんなんだから檀家の爺さん婆さんらに生臭だの、どうしようもないだの言われるんだ。まぁ気にしてないけど。

 残念だったな。先代である爺さん亡き後、この寺は俺の天下になったんだよ。

なんて阿呆みたいなことを考えつつ茶碗一杯分の米を腹に収めて食器を下げる。小坊主の頃は俺の仕事だと言われさせられていた仏間の掃除も、今はお掃除ロボット君に任せればいい。

 時々助けを求めてくる以外は静かなもんだし、適当に電源ボタンを押して食器を流しへ持っていく。因みに台所にはAIスピーカー君もいるしリンゴの腕時計もある。あれはいいぞ。木魚のBPMも正確にとれるからな。


 ガチャガチャと洗い物を終えて、AIスピーカー君に声をかけ今日の予定を確認する。月命日の法要は水川の爺さんとこと若松の姉さんの所か。土日はもう少し忙しくなるが、今日は平日だしこんなものだろう。

 俺としてはもう少しゆっくりしていたいんだが、悲しいかな。田舎の爺さん婆さんというのは朝が早い。いい加減門のカギを開けておかないと敷地内にある墓に参れないと苦情が来てしまう。

 まだ完全に目覚めきっていない頭を掻きながら玄関の引き戸を開ける。門の向こうにはやっぱりすでに人がいた。


「おはよう、若さん」

「はい、おはよう。滝さん今日も早いね」

「うふふ。昨日ね、葛餅作ったのよ。納骨堂の方に供えておくから若さんも食べてね」

「ありがとね、後でもらうよ」


 ガラガラと素直に言うことを聞かない蛇腹門を開ければ滝さんはにこにこしたまま、いつものようにゆっくりとした足取りで墓地の方へと歩いて行った。

 葛餅は滝さんの旦那さんの好物だったか。いつまでたってもお熱いねぇ。

 思いっきり伸びをする。もう少しだけのんびりしたら俺も檀家さん家を参るかね。


「おう。今日はちゃんと起きてんな」


 声をかけられて振り向くとこちらを見てにやにやと笑う木村の爺さんがいた。

 年の割に伸びは背筋は立派だが、その実若い衆をからかうことを生きがいにしている悪戯小僧のような爺さんだ。碌なもんじゃない。


「あのねぇ、俺だってさすがにもう寝坊したりしないよ」

「いいや。俺はお前がラジオ体操に三回連続で寝坊したのを忘れねえぞ」

「何年前の話よ」


 呆れたように見返せば、爺さんは愉快そうに笑った。

 ああ、これは何を言っても無駄なやつだ。諦めて肩をすくめる。


「んで? 爺さんの今日の予定は?」

「そりゃあ佐倉ちゃんに会いに行くのよ」


 農協をキャバクラ行くみたいに言うなよ。

 そもそも爺さん、今年で確か八十歳じゃなかったっけ。元気すぎるだろ。つかまだ八時半なんだよ。農協開いてねえよ。

 心の中で突っ込みを入れているうちに、爺さんはケタケタと笑いながら上機嫌で歩き去っていた。ほんっとよくわかんない爺さんだ。

 俺みたいに適当にせずに、こんなんばっか相手にしてるとか世の坊さんマジで大変だな。


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