第1章 空蝉の空論 : 最終話 次の悲劇へ繋ぐ
鳥の囀りと通学している学生たちの声に目を覚ます。
また、同じ夢を見ていた。
魂が抜けたはずなのに重くなったその身体を抱きかかえながら泣く夢だ。
『魅生市で連続して起きた不審死———…』
つけっぱなしにしていたTVは僕たちのその後を面白可笑しく取り上げている。
『それぞれ不審な死を遂げた方々の日記や記録が見つかり———…』
重い足取りでベッドから離れると、眠気覚ましにコーヒーを淹れてそれを口に運ぶ。
『シキノザクラ サダメという人物を探しましたが、そのような人物はこの世界に存在しませんでした。』
ロボットの様に冷たい口調でそう告げるアナウンサーの声が、ひとりきりのこの部屋に響く。
僕は手に持っていたコーヒーの入ったコップをTVに投げつけた。
豪快な音を立ててコップとTVは衝突して、コップは割れてTVにはヒビが入る。
それでもTVは話すことをやめずに言葉を続ける。
『7月17日 法華津 結さんは高所より転落し即死、死亡を確認———…。
8月25日 紅 柘榴さんは水死体となって発見———…。
8月25日 式ノ籠 珀さんは線路に落下し、電車に轢かれて死亡を———…。
8月30日 斐妥宗 明さんの遺体は発見でませんでしたが、現場に残された大量の血から失血死していて間違いがないと捜査を———…。』
さだめの死後、僕達を待っていたのは残酷すぎるペナルティだった。
元から死のうと思っていたこの身、今更惜しくもなく喜んでそのペナルティを受けようとしていた。
それなのに、世界はあまりにも残酷であった。
「今日も荒れているね。」
いつの間にか開け放たれた窓から入る風に揺れるカーテンの隙間から、紫の髪が揺れるのが見える。
「狐邑、先生…。」
僕がその名前を呼ぶと、彼女は風に揺れるカーテンを避けてその姿を現す。
一つに結われた紫の髪、陶器の様に血の気のない肌、黄金に輝く瞳は獣の様に鋭く常に獲物を狙っているみたいに隙が無い。
「もうその呼び方はやめよう、ゲームは終わったんだ。
私の名前はソロ・ノワール、貴方の願いを叶えに来た。」
「…願い…。」
「そう、あのゲームのクリア者に贈られる唯一の権利だよ。
まさかゲームに一番興味を示さずに邪魔ばかりしていた君がクリアするとは思わなかったけどね。」
狐邑先生、もといソロ・ノワールは興味深そうに僕の顔を覗き込む。
「僕の、願い…。」
ぼくたち人間はこの世界で呼吸し、生きることを許されているその対価として、考え選び苦しむことを義務付けられているのかもしれない。
願いが叶うなら、僕はもう一度あの人に会いたい。
僕は強い決意を抱いて、ソロ・ノワールを見る。
開いた窓から強く吹き込む風の音に紛れて、君の声が聞こえた気がした。
第1章はこの話で終了となります。
次の『 第2章 : 愚者の解答 』では祀奇乃櫻 定の過ごした夏休みを斐妥宗 明の視点で見ることができます。
どうやって定がこの夏休みを過ごせたのか、どうして定の友人や恋人が死ぬことになったのかを解明していきます。
物語に書かれている出来事には全て意味があり、イヴと拾にも関係してきます。
長い物語となりますが、時間がある方、気になった方は最後まで読んでいただけると幸いです。