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第14話 追放者サイド・ガイオの焦りとリーノの危機

 

 ガキインッ!


「右からも来てるぞっ、注意しろっ!」


「ごめん、サンキュー!」


 ランのグレートソードが鳥型モンスター、グリフォンの爪を弾く。

 正面のエビルオークに”フレア・ブラスト”を放った瞬間の隙を狙われたみたいだ。


 爆炎がエビルオークを焼き尽くしたことを確認した後、上空のグリフォンに向き直る。


 クアアアアアッ!


 爪を切り飛ばされたことに怒り狂っているのか、ぞっとするような鳴き声を上げ、こちらに向かって急降下する。


 少し前の僕なら、なすすべもなくグリフォンのくちばしに切り刻まれていただろう。

 だけど、レベルが上がった今ならヤツの動きも手に取るように追うことができる。


「そこだっ……”アイスブラスト”っ!」


 バキンッ!


 グリフォンの動きを予測し、先回りで放ったBランク氷雪魔術は一瞬にして魔鳥を凍り付かせる。


 ガシャアアアアンッ!


 凍り付いたグリフォンは、地面に激突してバラバラになった。


「ふぅ……助かったよラン。 そっちはどう?」


 ザンッ!


「こちらも終わったが……しんどいぜこりゃ」


 最後のエビルオークを切り伏せたラン。


 他にモンスターが残っていないことを確認すると、手に持っていたグレートソードを地面に突き刺し、大の字に寝転ぶ。

 相当スタミナを消耗したようだ。


「お疲れさま!」

「”Bヒール”、”フィジカルリカバー”」


 ぱああっ


 主に前衛で身体を張ってくれたランへの感謝を込め、回復魔術を2重掛けする。

 紅色の光が、ランの身体についた細かい傷と”気力”を回復する。


「おっ……助かるぜ!」


「く~っ、効くなぁ!」

「バインバインのねーちゃんの魔術なら、もっと効くだろうけどな!」


「……ランの場合、”下半身”に対してだろ?」


 大規模なモンスターの襲撃を乗り切ったからか、僕たちの軽口も冴える。


「……それにしてもおかしいよね?」

「冒険に出るたびに”野良モンスター”に襲われる……しかも上位種が多いよ」


 そうなのだ……最近、依頼を受けて街の外に出るたびに”野良モンスター”に襲われている。

 それも、手配書などに書かれていないモンスターばかり。

 さらにさらに、先ほど倒したグリフォンのように上位種が多く混じっている。


 僕がレベルアップしたことで、多彩な魔術やスキルでランと一緒に戦えるからまだ何とかなっているけど、1か月前の僕なら今頃あっさりと死んでいたことだろう。


「まあな……これだけ立て続けに上位種が出てくるのはどう考えてもおかしい」

「”ツテ”を使って調べてみるから、今日はもう王都に戻ろうぜ」


 体力と気力が全快したランは、グレートソードを鞘に納めると勢い良く立ち上がる。

 ランは”実家”を通じて優秀な情報網を持っているらしく、困ったことが起きると色々調べてくれる。


 ……”ツテ”とは何か気になるけれど、男子には一つか二つ秘密があるモノなのだ。


「そうだね、僕もバテバテだよ……早く晩飯を食いたい……って!?」


 ヒュンッ

 ドシュッ!


 その瞬間、鋭い風音と共に一本の矢が僕の胴に突き刺さる。

 冒険着の下に身に着けているチェインメイルが衝撃の大部分を防いでくれたけど、浅く刺さった矢じりが少し痛い。


 ……くっ、しかもこの痺れは……毒が塗られているっ!?


 僕は慌てて解毒魔術と治癒魔術を発動させ、傷を癒す。

 厄介な毒の可能性もあるので、治療のスピードが重要なのだ。


「ちっ……油断した、まだいやがったか!」


「……ラン、敵の姿は見えた?」


「いや、暗くて見えなかった……何だってんだ畜生!」


 リーノの声に憤るふりをしつつ、一瞬見えた”敵”の顔を思い出すランドルフ。


 アレは……ウチのギルドの弓使いだった。

 ……これは、早急になんとかしないとヤバいな……。


 ランドルフはリーノに手を貸すと、王都へ続く街道へ向かうのだった。



 ***  ***


「くそっ……どいつもこいつも役立たずばかり……兄さん一人も始末できないなんて!」


 王宮に与えられた執務室で、宮廷魔導士筆頭のガイオは報告書をくしゃくしゃに丸めると壁に投げつける。


 アントを脅し、リーノ抹殺計画を本格化させてから2週間……いつまでたっても出ない結果にガイオのいら立ちは高まるばかりであった。


「ボクが直接手を下せればどれだけいいか……だが、今のボクの実力じゃ、今の兄さんには勝てない……今少し時間が必要だ」


 ”チート”が完成するには時間が掛かる……ガイオは逸る気持ちをグラスに入った冷水を煽ることで落ち着かせる。


「それにしても最悪なのは父上だ……」


 そう、リーノがどんどんレベルアップし、数々の刺客やモンスターを退けていることを知ったフランコは、手駒としてリーノを呼び戻すことを考え始めているようなのだ。


 わが父ながらありえない……フランコが自身の出世欲を満たすため、息子たちを道具として扱う性格であることはよく分かっている。


 だが、自分が絶縁した兄が少しレベルアップしたくらいで色気を出すなんて……早くリーノを始末しないとボクの立場が危うい……。


「ふふ……そう焦らなくても良いではありませんかガイオ様」


「……なんだ、イゾールさんですか」


 いつの間に部屋に入って来たのか、足元まですっぽりと覆われたローブを身に着けた陰気な人物がガイオの背後に立っている。

 背は小さく、ローブからのぞく足首は病的なまでに細い。


「ガイオ様は覇王となるべき才覚と器を持ったお方……いずれ連中など纏めて始末できましょう」


 陰気な姿に似合わず、耳障りの良いしっとりとした女の声がガイオの耳をくすぐる。

 彼女は王国の魔術顧問のイゾール。


 フランコが宮廷魔導士に推薦したガイオの採用を決め、短期間で鍛えてくれた恩人である。


 薄暗い明かりの中で、ガイオとイゾールの影が重なった。


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