第11話 リーノの呪いの秘密
リーノの呪いを鑑定してくれると言うララ。
彼女はリーノにうつぶせに寝転ぶように言うと、いきなり服を脱ぎ始めた。
危うし! リーノの貞操!!
……などと、謎のナレーションが脳内ではじまるほど、僕は混乱していた。
えっえっ?
何でララが服を脱いでんの?
鑑定魔術だよね?
実はナ・デナデの獣人族は女性しか生まれないので、子孫を残すには異世界の男性が不可欠。
名家の血筋であるララにふさわしいか鑑定 (意味深)します、とかじゃないよね?
その場合、僕は○液タンクとしてお城の地下で飼われることに……あれ?
むしろ理想の人生なのか?
僕の変態頭脳から吐き出される妄想は、どこまでも暴走していくのだけれど。
いやいや、あのかわいいララがそんなエ○小説みたいなことするわけないじゃないか!
彼女を信じよう……僕はかたく両目を閉じ、部屋の真ん中に置かれたふかふかのソファーにうつ伏せになる。
ふみっ
覚悟を決めた僕の腰の辺りに、柔らかな感触を感じる。
これは、ララの足の裏?
えええええええっ!?
いきなり足プレイ!?
いくらなんでもうら若き乙女がいけませんよ!
僕も足フェチですがっ!
マリノ王国に比類するものなしと言われた足フェチですがっ!
最初はノーマルな感じで良いと思います!
考えてもいなかった斜め上の展開に、あっさりとオーバーフローする僕の頭。
「あうあう、ごめんなさいリーノさん」
「ララのモフ法センサーは、足裏の肉球にありましてっ!」
「不快でしょうが、しばらく我慢してくださいっ!」
ぱあああああっっ!
光と共に、複雑な術式が展開される。
これはっ! ベニート神父が使う鑑定神術にくらべても、恐ろしいほど高度な構成……!
頭も腰も驚愕に打ち震える僕の横に、ニヤニヤしながらキツネ耳のキーロがしゃがみこむ。
「……おっきくしたらちょん切るの」
じゃきんじゃきんと、黒光りするハサミを構えるキーロ(よっぽどそれを武器にすればいいのに……)
ぱああああああっ!
「おわあぁああっ~~~~っ!?」
解析魔術の発動と、腰に伝わる甘美な感触。
光と共に僕の意識は途切れた。
*** ***
「……っ……」
「……リーノさん、大丈夫ですか?」
「……うっ」
あまりの衝撃に気を失っていたようだ。
うっすらと開けた僕の目に映るのは、心配そうな顔でこちらをのぞき込むララ。
どうやら鑑定は終わったみたいだ。
既にワンピースを着こんでいるのがちょっぴり残念かもしれない。
「にひひ、救世主様はうぶなねんねだにゃん!」
「解析モフ法にノイズが入らないように、余計な上着を脱いだだけだわん……ラ・デナデ倫理規定に基づきインナースーツ装着済み!」
……男子の夢を壊すようなことを言わないでくれるかなキミたち!
僕が開発した対獣人お姉さん最終決戦兵器、”だんけちゅ~る”で骨抜きにしてやる……。
好き勝手なことを言う衛兵ズにリベンジしようと心に決めていると、何か分かったのか、犬耳をピコピコさせてララが僕の手を取る。
「あのあの、それでですねっ!」
「リーノさんに掛かっている呪いは”鑑定”できたんですけどっ!」
「うんうん」
「ものすごく初歩的な呪いでしたっ!」
「……はっ?」
ふんす、とドヤ顔で言い放つララに、思わず目が点になる。
王国随一の使い手であるベニート神父でもお手上げな”呪い”が、初歩的っ?
「モフ法フィルターで経験点……女神さまの恩寵に干渉する系の呪いですがっ」
「干渉モフ式は多重化されてないですし、コアモジュールの暗号化もなしで丸見え……やりたいことは分かりますが、”初心者”の仕事ですねっ!」
「”穴”も見つかりましたし、こんなのララの手に掛かれば、一発解除できますっ!」
……ララの話す内容が高度過ぎて半分も理解できないけど、解除できるのならすごく嬉しい。
そもそもこの呪いを僕に掛けたのは誰なのか?
詳しい解析が出来たのなら、色々聞いてみたいことがあるな……僕の思考は続いて放たれた驚愕の一言にさえぎられる。
「と、いう事でっ! さっそく”ぱきんっ”と解除しちゃいますかっ?」
「キーロちゃんの話では、一定確率で”ふのう”になるそうですが、”ふのう”って何ですかねっ?」
……えっ。
聞き捨てならない単語に、一瞬で頭が覚醒する。
ふのう……ふのう……不能っ!?
ま、まさか僕のコレがアレで用無し (意味深)になるってコト!?
「必ずそうなるわけじゃないから安心するの」
「……確率は3割」
じゅ~ぶん高いわっ!
にやり、と邪悪な笑みを浮かべるキーロに抗議の視線を送る。
その間にもララはサンダルを脱ぐと右脚に魔力を込めている。
足の裏にわずかに覗くぷにぷにの肉球が発光し……。
ま、まずいっ!!
ココで呪いが消失しても、僕とララの未来 (妄想)が消失してしまったら意味がない。
慌てて飛び起きた僕は、彼女を止めようと手を伸ばすのだけれど。
「ふえっ? ふわわわわっ!?」
勢いが付き過ぎたのか、ララに抱きつく形になってしまう。
あぶないっ!
彼女が床で頭を打たないように体を入れ替える。
ぱふっ……僕のお腹に巻き付いたララの尻尾をクッションにして、僕たちは床に倒れ込む。
その瞬間、ふたりの間に黄金色の光が生まれ、広間を包んだ。