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アノ日  作者: エムティー
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アノ日の記憶──1人目

もしかしたら、明日にでも同じ世界になるかもしれない。この作品の世界と我々が暮らす世界にどれだけの差があるのだろうか?

私はアノ日生まれた。そしてアノ日死んだ。別に望まれていなかった子供というわけではない。「普通」の家庭同様に望まれていたと思う。まぁ「普通」とか知らないけど。


 私は家がない人が集まる掃きだめのような場所で育った。両親は生まれてしばらくたったのちここに捨てた。捨てたというよりは預けたという表現の方が近いのかもしれない。私が物心つくまである人に世話をするように頼んだらしい。ある人、ばぁさんは私に最低限のことをしてくれた。人としての認められるために必要な最低限。後で知ったことだが、両親の払ったお金相応のものらしい。

 

 私は路地裏のビルに入った。今日の仕事が行われる場所だ。私は迷わずそのビルの一室に入り、軽くおじぎをして部屋の端に移動しようとした。すると部屋の中で名簿を持つ男が近づいてきた。


「君が今日の人だね?え~と10歳か、まぁそんな力仕事もないから大丈夫かな。あっこの仕事ははじめて?」

「いいえ、何回かやってるんで大体わかります」

「そうなんだ。じゃあ任せるね」


 私は日雇い労働者のネットワークに年齢と顔写真だけ登録している。そのネットワークから振られた仕事を毎晩ばぁさんから次の日の職場を伝えられる。ちなみに年齢はばぁさんが入力したものなので実際はどうかわからない。


──そういえば、いまの写真に変えてからしばらく経つのでそろそろ写真を変えたほうがいいかもしれない。今晩ばぁさんに相談しよう──


 担当者が一通り今日の労働者を確認し終わると、今日の仕事の説明を始めた。今日の仕事は名簿の作成。人の名前が大量に書かれた名簿から一定年齢以上の人の名前をピックアップして新しい名簿を作る作業だ。だれが何のためにやっているかなんて知らない。もしかしたら私のような人間のために作られた何の意味もない仕事かもしれない。


「そうそう、わからないことがあったらあの子に聞いてね。経験者らしいから」


 この仕事を管理している男が私を指して言った。部屋で一番の注目を浴びる。私は軽く会釈をして返した。


──そんな難しい仕事じゃないだろ──


 と心の中で思いながら。




こうやって働くときは一人の労働者として認められている気がして気分がいい。普段食料を買いに街に出るとあからさまに煙たがられるが、ここではそんなことはない。別に慕われたいわけではない。敬意が欲しいわけではない。わからないけど。




 今日も誰からも質問を受けることなく終わった。ふっ、と息を吐いて今日来た道を戻ろうとした。何事もない一日だった。でも、今日は少し違った。


「すみません。少しだけお話いいですか?」


突然話しかけられた。私は精一杯の余所行きの笑顔を構え振り返る。そこには今日一緒に働いていた大人の男がいた。


「なんですか?」

 

うーん。少し愛嬌が足りなかったかな?


「今日の仕事について知っていることを教えてください。そうですね、作った名簿がどこに送られるとか」


「あー、それわからないんだよねー」


「そうですか……今日現場を仕切っていた人について何か知りませんか?なんでもいいんです」


 なんだ、こいつ?あまりにもしつこい。そもそもそんなこと気にしてどうすんだ?金がもらえれば十分だろう。


「何も知りませんよ。もういいですか」


そう言って帰ろうとすると、肩をつかまれた。あーもうめんどくさい。


「私、アノ日生まれなんですけどまだ話しますか?」


 それを聞いた瞬間目の前の男の顔が大きくゆがんだ。この顔は嫌いだ。私が人でなくなるような気がする。男はそのあと何も言わずに立ち去った。近くには誰もいなかった。最初からいなかったのか、私の発言を聞いてからいなくなったのだろうか。


「あー、クソ」


そう吐き捨てて私は帰路を急いだ。ちょっと考え事をしながら。

──今日仕訳けた名簿の人の中にアノ日生まれた人はいるのだろうか──

 すぐに頭を振って考えるのをやめた。分かりっこないことを考えたって仕方ない。帰ろう、ばぁさんが待ってる。


全3話の予定です。少なくとも今年中には何とかします。

この作品を読んで少しでも物思いに更けて貰えると書いたかいがあるってもんです。

コメントとかもどしどし下さい。モチベになります。投稿が早まりますw

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