ビビりの幼馴染が学園の令嬢どもからイケメン騎士のフリで逃げようとしているのを見ている私、というお話
「レリオン様!」
「私達とお昼、ご一緒しませんか!?」
「ハハハ、すまない……もう先約があってね」
お昼の時間。
学生で混雑する、ロージア王立魔法学園の食堂。
最近ではすっかり見慣れた、一人の男に群がるご令嬢どもと、その中心で爽やかな笑いとともに去ろうとしている黒髪の美男子。
眉目秀麗、文武両道、品行方正、才色兼備……。
……ん、最後のは男には使わないか?まあとにかく、こういう言葉を並べ立てても嘘っぽくは見えないのだ、あの男は。
名前をレリオン・ドゥーズ・ガルドゥームというあの野郎は、その御大層な名前の示すとおりに貴族で、剣持ってじゃんじゃかチャンバラするのも得意、勉強も難なくこなし、魔法の腕も超一流という、神様が食堂のおばちゃん並みに二物三物をてんこ盛りにしてくれたとしか思えないような性能をしていらっしゃる。
当然、学園のご令嬢方にはたいそうおモテになって、公の場で見かけた時には大概周りにご令嬢の壁ができていてキャーキャー聞こえる。
だが私は知っている。あの男、レリオンは──超の付くヘタレで、ビビりで、ついでにチキンでもある。
なんでそんなことを知っているのかと言えば、何の因果かヤツと私──カーナ・イグ・マルタはすぐ近くの家に生まれ、家同士の親交も深く、赤ん坊のころから一緒に遊んでいたからだ。要するに幼馴染と言うやつ。
さらに言うならヤツはしょっちゅう私に泣きついてくるし、そりゃあ知らないわけもない。
今頃ヤツはどうやってご令嬢ディフェンスを突破して静かな場所で飯を食うかを必死で考えていることだろう。
私はヤツがよく見える席に座っておひとり様で優雅な昼食タイム中だ。
くくく、爽やかを装ってはいるがひきつり気味の笑顔で飯がうまい。
ちょくちょくご令嬢ブロックの隙間から視線が飛んできて目が合うが、関係ない。
視線で「たすけてくれ」と言われているような気がするが、それも関係ない。
だいたいやっこさんはチャンチャンバラバラの手練手管に慣れているから私が乱入しさえすれば大立ち回りを演じて並みいるご令嬢どもを切った張ったのバッサバッサでどうにかしてくれるだろう的な考えでいるのだろうが、私の貧弱おててではパンチを喰らわせたこっちの手が痛いだけで終わる。
ついでにあのご令嬢方に逆らったら吊るされてタコ殴りにされた挙句明日の朝には中庭の噴水でぷかぷか浮いてることになる。
ヤツもまさか幼馴染を水死体にしてまで逃げたくはあるまい。だから私がヤツの救難信号を無視しているのはヤツのためなのだ。仕方ない。許してくれ、レリオン。
どうあがいても私が助けてなんてくれないと悟ったか、ヤツは「ごめん!ちょっと急ぐんだ!」とご令嬢ウォールを強引にかき分けて突破し、どこかに消えていった。いよいよ腹が減ったと見える。おおかたどっか人のいないところで隠し持ったパンかなにかを食うのだろう。寂しいやつだ。
その後も私は優雅に食事をつづけ、食べ終わったらひっそりと自分の研究室に戻ったのであった。
研究室で食後のお茶を楽しみつつクッキーをつまんでいると、扉がドンドコ叩かれて、返事を返す間もなく誰かが入ってきた。
「おいコラ、乙女の私室に断りもなく入ってくるんじゃない」
「お前が乙女ってタマかよ!」
「バリバリの乙女だろうが!よく見ろよ!」
私を微妙に貶しながら入ってきたのは誰あろうレリオンその人だ。
ご令嬢ウォールに囲まれているときのような爽やか騎士様オーラは消え失せ、私にとっては非常に見慣れたビビりのレリオンになっている。
「まあカーナが乙女でもそうじゃなくてもいいんだ、聞いてくれ」
「勝手に押しかけといて話を聞けとは随分だなレリオン……」
私の研究室を相談所かなにかだと勘違いしているのか、このアホは?
私の冷たい視線に気づいたのか、レリオンは頭を掻きながら謝った。
「すまん、急に来て非乙女呼ばわりは悪かった、このとおり」
「よろしい。んで、なにがあったのさ」
私は仕方なくヤツの話を聞いてやることにした。
どうせ追い返しても聞くまで来る。こいつがそういう話をできるのは私くらいしかいないし、ビビりの癖にしつこさだけは一級品だからだ。
「ほれ、座って」
「ああ、うん。ありがと」
椅子を指し示して座らせる。
ヤツは高身長に育ちやがった体を縮こまらせて椅子の上に納まった。
「それで?」
「お願いがある!」
レリオンはダァンと頭を叩きつけるようにして下げる。
もう嫌な予感しかしない。
「やだ」
なので私は速攻で断った。
「そこを何とか!せめて聞いてから断ってほしい!」
「…………仕方ない。言え」
私は壮絶な葛藤の末に聞く決断を下した。
「簡潔に言おう。次の週末のパーティー、俺と一緒に出──」
「嫌だ!」
「早ぇよ!」
「私を殺す気か!?」
「パーティーくらいで死にはしないだろ、いくらカーナがもやしだからって」
「……もやしじゃないし。それに、自分の体力を心配してるわけじゃない」
私が心配しているのはリンチされてから池ドボンを食らい中庭の素敵なオブジェにされることだ、と説明してやる。
「いくらなんでもそこまでは──」
「ある。大いにある。あの目つきは殺るやつの目つきだ」
私は憶えている。果敢にもご令嬢ウォールに突っ込もうとした無謀な娘がいたことを。
そして、その瞬間、その娘に向けられていた幾重もの殺気走った視線を──。
おっと震えが。私はボディーの貧弱さと同じくらいメンタルもよわよわなんだぞ、わかってるのかこの野郎。
「いや、カーナほど図太い人間もそういないと思うよ」
なんだと。
「まあそれは置いといて、行けない?」
「……私の命と引き換えに、か?」
私が絞められて中庭の魚とお友達になってるのがそんなに見たいっていうのか!?
「まあ、そうはならないから」
「どういうことだ」
お前にあのご令嬢軍団をどうにかするすべがあるというのか。
無理だろ。ビビりだし。
「カーナが襲われなきゃいいんだろ、要は」
「何をする気だ」
「ふっ、それは──」
レリオンは急に雰囲気を変える。
これは、ご令嬢どもに囲まれているときのような──
「──俺が守ってやる」
キリッと作った顔をぐいと寄せ、ややトーンを下げた声でカッコつけたことを言う。
うん。確かに……なんか、悪くはないのだろうが……
「相手がレリオンではなぁ」
「そんなに平然とされてるとやった方が恥ずかしくなるんだよね」
「知るか、滑ったお前が悪い」
見慣れたツラが寄ってきたところでさしたる感動があるわけでなし。
どうカッコつけようが中身を知っている時点で「でもレリオンだしな……」となる。
「カッコつけてごまかそうたって、そうはいかん」
「だが俺がくっついてればどうにかなるだろう」
「ずっと私についてるつもりなのか、お前は?」
それこそ無理だろう。
私はこの研究室で好き勝手やるのが日課で、レリオンはいつも学園中を飛び回って何かをやってる人間だ。
どう考えても生活圏が合わない。
ゆえに、そんなことはできないのだ。
「俺がここに居ればいいだけだろ?」
「うざったいからやだ」
「おい……」
ただでさえうざったいコイツがいっつもいるとか冗談じゃない、私はさっさと追い出してしまうことにした。
「要件はわかった行く気はないさあ帰れ帰れ」
「うお、押すなよ」
だが私の腕力ではいくら押してもピクリともしない。くそ、この健康優良スポーツマンめ。もっとひ弱になれ。
「……わかったわかった、もう帰るから」
それでもあきらめずに押していたら、根負けしたヤツは渋々といった感じで帰っていった。
やったぜ、大勝利。
私はめんどくさいことを回避したことを祝いながら、冷めた茶を淹れなおしたのだった。
私が暢気にお茶を飲んでいられたのはそれから二日の間だけだった。
素直に追い返されたように見えたヤツは裏で根回しをしていやがった。
実家からめたくそ高価な高速便でいらっしゃった父母連名の手紙は、「今まで一度も学園主催のパーティーに行っていないと聞いた。さすがに一回くらいはいかないとまずい。せっかく連れて行ってくれるという話なんだからありがたく受けておきなさい」というもの。
……確かに言うことは正しい。私はこれまで学園主催であれ個人主催であれ、参加できたパーティーも全てなんだかんだと理由を付けて参加を逃れてきたし、それを親が心配するのはわかる。
だが、今その選択は命を脅かすのだ……!
おのれレリオンめ、ビビりのくせに根気だけはありやがる……!
そして今日はパーティー当日だ。残念ながら私は逃げることができなかった。
レリオンが連れてきた熟練感漂うおばさまたちに着慣れた白衣をひっぱがされ、全身に何かぶっかけられたり構造のよくわからん布を巻きつけられたかと思ったらいつの間にかドレスに変わってたり謎の液体を塗られて髪を整えられたりとものすごい勢いでもみくちゃにされ、気づくと私は別人にされていた。
「うわ誰だこれ」
「カーナだけど」
私の改造が終わったのを知って入ってきたらしいレリオンは平然とそんなことを言う。
なんだこいつは、目が見えないのか?
「嘘だろ、顔やら骨格まで変わってないか私……?」
「変わってねぇよ、雰囲気変わったせいでそう見えるだけだろ。それよりどうだ、着飾ってみた感想は?」
まわりをぐるぐる回ってじろじろ見つめてくるレリオン。
そんなことを聞かれても「ビビってます」としか答えようがないが、一つだけ明確な感想があった。
「肌寒い。私の白衣はどこだ……?」
「アレは洗濯に出してしまいましたよ。だいぶ汚れていたようですので」
端で片付けをしていたおばさまの一人が無慈悲にもそう答える。
私の可愛い白衣ちゃんは独りどこかでもまれているらしい。とても恋しい。
「ううう、それなら替えがそこのクローゼットに……」
「おやそこにもあったのですか。ついでですしそれも洗ってしまいましょう」
「あっあっやめ……」
「だめだぞ、静かにしとけ」
クローゼットから拉致されていく白衣を取り返そうとしたがレリオンに阻止される。
「ああ、私の白衣が……」
「……そんなに寒いなら俺の上着を貸そうか?」
「……いらん!」
断ったのに無理やり被せて来やがった。何をする。……でもぬくいな。許す。
レリオンからの視線が生暖かい。
なんか犬やら猫の類を見るような目で見られてる気がする。
やっぱ許さん。
愛護的視線に対抗し全力で睨みつけてバチバチの視線バトルを一方的に繰り広げていると、出て行ったおばさま方が戻ってきて、「そろそろ時間ですよ」とのたまう。
私は処刑台に引かれる無実の罪人の如く、最後の抵抗を繰り返すが──まあ、無駄だ。
小脇に抱えられた私は粛々と連行されていったのであった。
「春だからみんなでお花を見ましょう」という名目で開催されているらしいパーティーは、その建前に反してなぜか室内で行われている。
一応男は胸のポケットに花を刺し、女は頭に花乗せとけという決まりがあるらしいが、それで感じ取れるのは華やかなる春来たる、という喜びではなく春の陽気で脳みそをやられた連中というまったく別種の風物詩だけだ。
「というわけでカーナにも花を用意してあるからね」
そしてレリオンが取り出したのは、その辺の花畑から根こそぎもぎ取った花を圧縮して固めましたと言わんばかりの威圧感を放つ、兜か髪飾りかの区別に迷いそうな代物。
「じょ、冗談じゃないそんなもん!私はその辺のポピーでも一本刺しとけば十分だ!」
「はは、冗談だよ。すまん。これはうちから会場に出す置物用のやつだ」
レリオンはその花製兜を引っ込め、ややスケールの下がったものを出してくる。
「……んで、こっちが本物」
「あんまり変わってないじゃないか」
「重さはだいぶ違うぞ」
「気にしてるのはそこじゃない」
誰が花の重さを気にするか。私がビビっているのはその派手派手っぷりにだ。
私の頭に花畑を乗せる気か?人の頭の上で農業をするのか?脳から養分が座れそうだからやめて欲しい。
「やめません」
「そこをなんとか」
「無理無理。それにこれはカーナ専用に作ったんだぜ」
「ぐぬぬ」
「まあ諦めて被っとけ」
「ぐあーやめろー」
抵抗むなしく私は花畑を頭に乗せられた。
重みが私の知る花じゃない。実は金属でできてるんですよと言われても信じるほどだが、鼻に届く香りはそれが生花で間違いないことを証明している。
「おー、似合うぞ似合う」
そんな雑な誉め言葉でごまかされるか!と言い返そうとしたが、腕を引かれて何も言えない。
「よーしじゃあ行こうなー」
「おいちょま、待て、心の準備がまだ……!」
抵抗する間もなく引きずり出される。ついでに借りた上着も回収される。
いつの間にか腕は組まれ、エスコートでもされているかのように見え──いや、エスコートされてるんだなこれは。
薄暗い控室から急に明るいところに引っ張り出され、頭は混乱している。
赤い絨毯が敷かれた廊下を連行されて開けっぴろげのドアをくぐると、視線が一斉に突き刺さってくる。
忘れてた。
着飾らせられることが嫌ですっぽり忘れていたが、私はこういうのが嫌で逃げていたのだった……!
そんなもんは意にも介していないらしいレリオンに引っ張られて進むごとに鋭さを増していく視線が、さらに重さと殺意を増し増しに増していき、気分はすっかり長槍構えた重装歩兵に囲まれたようなものになっていく。
やばい。ころされる。
すでに呪詛めいたぴりつきを帯び始めた視線がファランクスじみた密度で突き付けられているのを感じる。
ま、まあ仮にも私は学生の身でありながら研究室を頂いた魔術の天才。自衛さえしっかりすれば呪いで殺されるようなことはない、はずだ。
そうはいっても視線が痛いのは変わらない。
恨みを込めてレリオンを睨むが、笑ってごまかされた。
それにしてもこの野郎、自分も視線を食らっているはずなのにビビる様子も見せない。それどころか私がつっ転ばないように歩く速度を調節するような余裕までありやがる。
周囲のざわつきは収まらない。
なんかお腹の方がゴロゴロしてきた気がする。
「……帰りたい」
「……まだ来たばっかだろう」
流石にまだ帰れないぞ、と目で言われる。
そりゃそうだろうが、これはいくらなんでもきつすぎる──!
「仕方ねえ、ちょっと寄せるぞ」
視線からカバーするように体を寄せられ、視界が六割ヤツで埋まる。
……確かに直接的な視線は遮られ、少しはマシになった。
だが、抱き寄せるような姿勢になったことで周囲の目も変わる。
遠くで悲鳴が聞こえる。黄色い、とか頭に付かないガチなやつが。
多分レリオン親衛隊、またの名をご令嬢ウォールズの誰かだろう。
「……おいレリオン、より酷くなりそうだぞ。どうする気だ」
「これでいいんだよ」
「よくない……」
全くよくない。いま私の未来の死亡原因における殺害の確率は目に見えて上がっているはずだ。
「人殺しめ……」
「大丈夫だって。言ったろ──」
肩を掴まれ、さらに体を寄せられる。視界は全てやつで遮られた。
耳元に顔を近づけられ、息がかかる。
「──俺が守るって、さ?」
ぞくりときた。
「やめ、やめおまっ……!」
「やめねえよ」
「か、かっこつけるな……!」
ヤツの胸板を押して反抗するが、効き目はない。
周囲でさらに増した悲鳴がうるさく、かつ遠い。
私は死んだ。いろんな意味で死んだ。もう死んだ。
「うおっと、急に力抜くなよ。どうした?」
「うるさい。私は死んだんだ、さっさと埋めてくれ。墓地は実家の近くがいい」
「まだ死んでもらっちゃ困る」
「うるさい。死んだ」
わざとへたって腕に負荷をかけてやる。
しかし軽々と抱き上げられ、壁際の椅子の上に置かれた。
「飲みもん取ってくるから待ってろ」
「はあ」
もしかして馬鹿なんじゃないのかこいつ?
「ちょっとよろしいかしら」
……早速、想像通りになった。
ご令嬢ウォールズのどこかに居たような記憶のある顔が近寄ってくる。
その気配、もはやご令嬢というよりどっかの監獄から抜け出した罪人とでもいった方が似合いそうなほどの殺気に染まっている。
気合の入った装飾が盛りに盛られたドレスやら、さっきレリオンが置物用にと言っていた花兜(仮称)に匹敵する派手さの髪飾りやらが違う意味で戦闘服に見えてくる。
「……どうぞ」
無視したいくらいだがそうもいくまい。渋々返した。
「まずは、素敵なお召し物ですわね──」
急に褒めてくる。……そういえば、まずは衣服を褒め合うことから印象を良くしてどうとか習ったような気がしないでもない。こんな場に出る気もなかったので微かにしか覚えていないが。さすがはご令嬢、いきなり罵るとか詰問するとかの不体裁は犯さない、ということか。
とりあえず褒められたので褒め返そうと思い、よさげな場所を探し──よし、髪飾りでいいや。
「……あなたも、大層な……いや、素晴らしいお花畑で……ほら、頭が」
……まずい。想像以上に私の脳みそは混乱しているらしい。頭の上の花畑を褒めるつもりが、ものすごい煽りみたいなことを言ってしまった。
ド直球の暴言を真正面から叩き込まれたご令嬢は押し黙って眉の上をひくひくさせているが、かろうじて笑顔と体面は保ちつつ硬直している。
これは謝ってもダメそうな雰囲気。
私は中庭のすてきなオブジェになることを覚悟した。
「ま、まあいいですわ……それより一つ、お伺いしたいのですが──」
「はあ、構いませんが」
持ち直したらしきご令嬢にそう答えた。
言葉の綾とはいえ罵っちゃった手前、「やだ」と突っぱねるのは流石にできないし。
「まずはあなた、どちらのお宅のご令嬢ですの?」
「えっ、私がわからんのか!?」
私は驚いた。
言っちゃなんだが私は有名人だ。いろんな意味で。
褒められるときは魔法学科の天才と言われ、貶されるときは魔法学科の変人と言われる。
まあ私の愛する白衣ちゃんは着ている人間が少ないから、いつも白衣の私が覚えられちゃうのも当たり前──と思って、気が付いた。
「ああそっか、私今白衣着てなかったなぁ」
「白衣?──ではまさかあなたは」
「はい。カーナ・イグ・マルタです」
「あ、あの──変人の!?」
「そう、それ」
このご令嬢も私に負けず劣らず正直な口の作りをしているような気がする。
まあ変人呼ばわりは慣れてるし自覚もあるので別にいいんだけど。
「な、何故そんなあなたがレリオン様と!?」
「ん、それは──」
幼馴染だから、という答え以外ないような気もするが、これ言っちゃっていいんだろうか。
ご令嬢軍団の絶対殺すポイントが加算されるだけなんじゃないだろうか。
……とはいえ、他に言い訳も思いつかない。
正直に吐いてしまうことにした。
「──レリオンとは子供のころからの付き合いだから。領地も近いし家も仲が良くて、昔はよく遊んでたよ」
「……幼馴染というわけですか」
「そういうことです」
ご令嬢はなおも聞いてくる。
「……ですがなぜ、こうしてここに?」
「んー、よくわからん。強引に連れてこられた、としか。もしかしてヤツは私を見世物にでもしようと思ったんだろうか……」
今更そう思えてきた。
もしかしてここまで引っ張り出して来たのはさんざん泣きついてくるヤツを無下に扱い続けた私への報復なのか。
「……私の白衣ちゃんを剥いで、こんなよくわからんものを着せて。似合いもしないと笑う魂胆か……」
はぁ、なんか落ち込んできた。
やられる心当たりがあるだけに否定ができない。
「いえ、それは──ありえません」
ご令嬢がやけにきっぱりとした声で言う。
「……そのドレスの色は肌の白いあなたの魅力を引き立てるためのもの。その髪飾りはあなたの顔を埋もれさせないよう気を使われていますし、首飾りや他の装身具もそうです。あなたを笑いものにするためにそんな手間のかかったものを揃えるはずがありませんわ」
とうとうと否定の理由を語られる。
「そ、そうなの……?私はそういうのに詳しくない……」
「そうです」
二度目の断定。
有無を言わせない迫力がある。
「戻ったぞー」
そこでレリオンが戻ってきた。
ご令嬢の顔を見て「あっやっべこいつらのこと忘れてたわ」みたいな顔をしている。
……やっぱりヤツに私の命なんぞ預けて置けん。私も自分の腕っぷしを鍛えるときが来たのかもしれない。
……とりあえずは、水の入ったやかんをぷるぷるせずに持てるようになるところから始めよう。
私がそう決意していると、ご令嬢はレリオンの方へ歩いていく。
「レリオン様」
「な、なにかな」
ヤツは慌てて外面を取り繕う。
しかしご令嬢はそんなもんを意に介せず──ヤツの顔をじっと見上げる。
「あの方と幼馴染でいらっしゃるのですか」
「──そうだよ」
ヤツはしっかりと頷いた。
それを見てご令嬢は引き締めた顔を緩め、ふっと笑い……大きい息を吐いた。
「……レリオン様も、なかなか苦労なされているのですね」
そう言い残し、彼女は颯爽と去っていった。
「……そうかもな」
レリオンはその背中をみながら、にやりと笑う。
なんだ、なにが起こっているのか。
私にはわからん。わからんということだけわかる。
わからないことがあったらとりあえずはレリオンを問い詰めればいい。過去の私はそう言った。いまの私もそう思う。
さて。どういうことだ、レリオン!
ぼくはいったいなにをかいたんだ
……よければ星置いて行ってくれると捗ります