【1】 入学式
―――二二八五年四月八日 横浜―――
「……ふぅ」
今日は俺たち新入生の入学式だ。四月にしては桜が残り、今も視界の半分程を埋め尽くす勢いで舞っている。学校につくとお互いのことが気になるのか、周りに気づかれないようにキョロキョロしている生徒で賑わっていた。
「はい、新高校一年生はこちらでクラスを確認してくださーい」
おそらくこの学園の先輩なのであろう、顔は確認できなかったが女子用の制服を着た生徒が声をかけるとこの場にいた新入生はぞくぞくと掲示板の方へ集まっていく。自分の名前を遠目で探しながらこの後の予定を考えていた。
ここは国立横浜第二特殊技能及び魔術技能所持者育成学園、通称二高と呼ばれ、日本中から生まれつき持つ特殊な能力や魔術を行使できる高校生が集められた高校である。かつて東京に五つの特殊高校が集められていたが、育成途中の能力者を狙ったテロリストにより襲撃、それを退ける勢力と大きな戦闘となったため、
「政治の中心地である東京に危険性のある能力者育成高校を置くのは危ない」
「しかし地方に置くと日本の危機が迫ったときに対応しきれない」
という理由から一時は都への利便性から人口500万人をも越えたが今は200万人ほどの横浜に白羽の矢が立ったのである。
教室は同級生で賑わっていた。新学期特有の皆がそわそわして落ち着きのない空気の中、適当に空いている席を探して荷物を置く。
「はーい、皆さんHRを始めますよー」
担任であろう女性教師が声をかけると同時に皆が席につく。この席は少し後ろすぎるが高校の特殊な面のため、実技メインと言われたので問題はないだろう。
「皆さん席につきましたね。ではHRを始めます…と言いたいところですが先に大講堂へ向かいましょう。少々時間がおしていますので。準備ができた人から荷物を持って向かってください」
準備と言える準備もないので鞄を持って外へ出る。大講堂の入り口は確か地下2階だったか。一応階段近くに貼ってある地図を見つつ早めに向かう。
講堂につくとどこか見覚えのある顔の生徒が一人の生徒と教師と共に舞台裏にまわっているところであった。
(あの人は確か…掲示板の方へ誘導してくれた人か。となると生徒会役員だろうか)
考えている間に続々と生徒が集まってきたので考えるのをやめて席へつく。ここの講堂は一年生175人、二年生165人、三年生173人に対し1500人分の席がおかれている。初対面で隣に座るのは抵抗があったので前から10列目に座ったが、既にその列には俺と同じ発想なのか女子生徒が一人座っていた。始まるまで暫し考え事をしていると、
「やあ、僕の名前は河野卓也。よかったら君の名前を教えてくれるかな?」
爽やかな笑顔を浮かべた好青年がいきなり話しかけてきた。
「俺は駿河。八嶋駿河。よろしく、卓也」
「こちらこそよろしくね、駿河くん。隣いいかい?」
「ああ」
そうこうしている内に講堂内は段々暗くなっていき、舞台に注目が集まる。
(あっ。いなくなってる。迷惑かけちったかな。)
なんとなく辺りを見渡すと先ほど同じ列に座っていた女子生徒がいなくなっていた。人から離れてこの席に座っていたんだろうから俺らが話していて気になったのだろう。少し落ち込んでいると、一人の教師が出てきた。
「あー、あー。えー新入生の諸君、私が学園長の淡井花怜だ。早速だが君らの一年について説明させてもらう。まず四月、東京見学だ。無論皆東京へは何度もいあったことがあるだろう。東京見学とはいうものの実際はクラス内での交流をメインとした行事だ、存分に楽しんでくれたまえ。次に五月末、クラス別対抗試験がある。これも試験などと言っているが実際のところ体育祭のようなものだと思ってくれればいい。市内の国立競技場で行う予定である。5,10,3月の計3回行う予定なので自分の力を試すくらいの軽い気持ちで臨んでくれたまえ。7,8月は夏休みである、精一杯楽しんでくれたまえ。他にも9月頃に学園祭などを企画している。」
「次に私、生徒会長の風薙由美からです。まず、この学園には一つの規則があります。『校内でのC級以上の特殊技能及び魔術技能の行使は指示の内限り禁止』、違反すると厳しく取り締まられるので気を付けてください。次に…あ、わかりました。ではここまでにして、見事入学試験1位の成績を修めました、氷嵐 雪華さん壇上へどうぞ」
「……春光麗らかな好季節となり、桜も私たちを祝福するように咲き誇っている本日四月八日、私たちは第十三期生として国立横浜第二特殊技能及び魔術技能所持者育成学園に入学致します。本校では勉学と鍛練に励み、友人と競い合い、将来技能師として働けるような場にしたいと思います」