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飼育日2日 昭和58年

 昭和58年6月に(さかのぼ)る。

 それは、日射病になりかけの抱子(ほうこ)が、一人で何とかしようと冷凍庫の氷を身体中に浸した。

 一人で初めて留守中だった時の野島崎家(のじまざきけ)の出来事。


 母親がパートから帰宅すると、留守番中の抱子が息を荒々しく呼吸してて、急いで小児科へと往診させた。

 氷が皮膚に吸着し、皮膚病になる寸前で良かった。


 容態から落ち着きを取り戻し、数日後。

 やっと学校の登校をする抱子が家を出る前に母親は叱咤しだした。


「馬鹿ッ」


 と怒鳴り散らしては体罰を入れた母親。


「あんな氷いっぱいを身体に入れて、あんたが死んだらどうすんのよ‼ ホント、あんたって馬鹿よ馬鹿ッ‼」


 失意のどん底にハマった母親は、娘にDVを与えてはスッキリさせようとした。


 学校内では抱子はDVの(あと)を気付かれずにオドオドしながら学校生活を送っていた。


「ホーコちゃん、いつもどうしたの? 私の顔、ちゃんと見てくれないネ〜」


 学友のトモミに疑われたが、何一つも相談できないでいた。


「ママなんか、ママなんか〜」


 そんな抱子の一人言は無駄だった。こう毎日DV受けていればそうなるのだから。

 一年が経った。更に幼児退行した抱子だが、母親はDVする頻度もほとんどなく、落ち着いたようだ。

 抱子の二人目の父親がちゃんと仕事から帰宅すれば、母親の機嫌もよくなった環境で、家庭は良い方に一変した。

 しかしだ、抱子を生ませた最初の父親なんて離婚で別れてシングルマザーライフしてたから、ヒステリックになるのは仕方なかった。


 二人目の父親は、仕事帰りが早いもので、家庭は安定期を迎えた。

 だのに、DVはまだなくならない。古傷に損害させるのが生き甲斐になる原因が前夫の離婚からなので、心のケアなんてできやしなかった。

 それで、抱子は思いきって家出を決行したという。

 直売所の中年夫婦に引き取られてから早くも8年。


 抱子は、野島崎抱子の名を処置されて、北山(きたやま)法子(ほうこ)の戸籍として養子縁組した。

 それが出来たのは、野島崎家の母親が娘が殺害された事を了解したからである。

 北山夫妻が野島崎宅に出向くや、通院生活の母親は娘の生存確認をした。

 有罪者のほう助罪になるのが面倒だと、殺害事件で死んだ事に納得し、北山家で養育を頼んだのだった。

 DV事実なんて大人の事情だけで処置されてしまい、法子の気持ちは本来ならば救われていない。

 でもDV環境のない生活に慣れてから、幼児退行もなくなって高校時代の生活を楽しめた。


「お母さんを病院から様子を見てみたい」


 突然の法子の質問に北山夫妻は戸惑った。


「いきなり何を?」


 養父が驚く。


「だってホーコ、お母さんに謝れない。お母さんから謝ってとも思ってた。でも、事情で片付けた過去だもの。遠くで見守りたくて」

「ホーコは優しい良い子だな。でもな、野島崎の奥さん、お前のお母さんは、お前を誘拐殺人で死んだ事にしてんだ。分かっておくれ」

「病院に行くだけよ」

「それだけで良いが、辛くなるかもなぁ」

「ホーコなら大丈夫‼ 烏骨鶏のセンちゃんの孫、トニちゃんも立派な烏骨鶏になったんだもの」

「すっかりお前は烏骨鶏飼育者のプロになったなぁ」

「あったり前よ〜‼」


 高校一年生の秋。世はすっかり平成の年号という歴史に踏み出した。

 新しい軌道に乗り出した時代に移り、昭和を生きた者たちは、志を強く持とうと『人生』を謳歌していった。


 

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