飼育日1日 野島崎抱子
家出少女捜索願出されてから丸三日。
昭和60年。
捜索日数が過ぎてから誘拐殺人事件と見做した警察は、少女の身柄の捜索を強化した。
一方、当の本人は野菜直売所店舗の奥の部屋で丁重に預かっていた。児童は大切に保護されていた。
家から小学生の徒歩で4、5時間近くかかるくらいの距離にある養鶏場と密接した野菜売り場の農家だ。
経営者は嘘がとにかくうまい。警察の捜索にも知らないと言えば警察は一言一言の返答を信じてやまない。
この直売所の店にいる確認すらしない警察も甘いものだ。
少女は野島崎抱子という名だ。
経営者中年夫婦には子供が一人いる。その子はもう地方の大学に行き、そのまま大学寄りの酪農協会の管理者に目が行き届いて、酪農の勉強をして、すぐそこの職員になる条件ももらっていた。
だからか、直売所構える両親も安心していたのだ。
そんな時に、迷子の小学生を部屋に誘いそのまま匿った。
有罪とは確信して引き取りいずれは自宅へと送り返すが、そのタイミングが分からない。
警察には騙して惚けた振りで帰したから、タイミングは段々と悪くなったという?
「コッコとピヨピヨのメンドみるの。イイ?」
ホーコが頼んで中年の主人の裾を引っ張った。
「んー。でもね、メンドリは狂暴だから扱えないんだ。ヒヨコもね、そんなに簡単には分別できないからネ。ごめんなさいね」
「ホーコ、ちゃんとメンドみる〜」
中年の女将も手を焼いて強めに言った。
「ホーちゃん、生き物って貴重な宝なの。そんな簡単にはできないのよ。判るわね?」
「ホーコもナニかしたいの? なんかヤラせて〜」
ホーコのわがままはこれが一回ではない。週に二回はこれの繰り返しだ。警察にやれば匿った行為の犯罪が可決して、経営どころの話ではなくなる。
もはやタイミングの悪さがこんなわがままを言わせる事態を生ませた。
「お隣さんの烏骨鶏は確か一羽のみいたわね?」
「ヨウコ、お前、ホーちゃんの前で言うんじゃねぇって」
「アララ、うっかりしました〜」
ホーコの目はキラキラと輝いていた。飼育管理の恐ろしさと危機感を知らぬ子供には扱えないというのに。
そんなこんなの状態の頃に、烏骨鶏飼育者の隣家に災いが発生した。
烏骨鶏飼育担当のおばさんが病気で倒れ、入院する事に至った。旦那は、家内の面倒で家を空ける日が多くなると、烏骨鶏の世話係を頼みに直売所に訪ねてきた。
直売所の主人は有無を言わずに引き受けた。
「ホーコ、やってもイイの?」
「うん、ちゃんと教えるからシッカリと覚えるんだよ。判ったかい?」
「やっったァ‼」
一方その頃、野島崎家では、ホーコの母がノイローゼで倒れ、病院へ搬送されたという。
ホーコはそんな母親の事も知らないで、養鶏体験に期待を膨らませていた。