双子で同じクラスは珍しい
「何するんだっ!」
不意にとんでもない力で脳を揺さぶられ、思わずその手を振りほどく。白菜は昔からその小さな体躯からは想像出来ないほど運動能力が高い。
入学して二か月ほどだがその頭角を現し、女子運動部の助っ人をよく引き受けている。誰にでも少々甘過ぎるところがあり、常々ハードスケジュール気味だ。
体力バカなのが幸いだが、いつかぶっ倒れるんじゃないかとハラハラしている。その上引き受けたからには良い結果を!とか言って体力づくりや筋トレまでしているというのだから呆れたものだ。
そのため、白菜は平均的な女子高生と比べて力がかなり強い。
「あははははっ!いつまでも起きないのが悪いんじゃん!」
焦点が合わず、あさっての方を向いて文句を言う俺の姿が滑稽でツボに入ったのか、白菜はけらけらと笑っている。
男の俺に振り払われても余裕の表情で微動だにしないところをみても、体幹の強さが窺える。
「こいつ••••••」
俺が恨めしそうな視線を送ってもやはり焦点が合わず、やっと笑いが治った白菜もどこ吹く風といった様子だ。
「全く••••••。んっ、そういえば夕悟と浜守はどうしたんだ?」
やっと視界が元に戻り、教室を見渡してみたところ、白菜と同じく幼馴染の双子の姿が見えないことに気付き、白菜に尋ねてみる。
「夕悟は新刊の発売日だっ!って言って私とすれ違いで走って行ったよ。ひのも委員会の仕事があるから先に帰っててってさっき行っちゃったよ」
"ひの''というのは浜守の名前、"ひので"
をもじった愛称だ。
「兄妹揃って俺を起こさず行ったのか••••••」
終礼中に眠りこけていた俺が全面的に悪いのだが、夕悟にならともかく、温厚で優しい浜守にまで無視を決め込まれたと分かり、軽く落ち込む。
「叶枝君、一度寝ちゃったら中々起きないからね。私が頭揺さぶってやっと起きるぐらいだし。夕悟は一目散に走ってったけど、ひのは困ってたよ?」
「そうなのか、悪いことしたな」
改めて周囲を見渡してみると、まだ終礼からからそれほど時間が経っていないのか教室にはまだ結構な数の生徒が残っていた。
さっきまでの俺達の騒ぎもクラスメイト達の喧騒に紛れてそれほど目立つことはなかった。このクラスの担任の終礼は長いので夕悟は我慢ならず号令と共に走り出したといったところか。
「それじゃあ俺達も帰るか。霙さんは?」
俺も本屋に行こうかな?と一瞬考えたが今まで待たせた白菜達をつきあわせるのも悪いと思い、このまま帰ることに決めた。
俺と白菜と夕悟と浜守、それと今言った三年生の霙さんの合わせて5人で俺達はいつも下校している。
「先に三年生の教室に行ったんだけど、牛乳1本120円••••••牛乳1本120円って言いながら夕悟以上の勢いで走って行ったよ。多分、いつもの特売日じゃないかな?」
「霙さんは特売日となると目の色も人も変わるからな••••••」
こういった理由で5人揃わないことも間々あるけど、2人になるというのは少し珍しい。
「それじゃあ、2人で帰るか」
俺はやっとこさ重い腰を上げ、六限目の授業の教科書を片付け始める。
「よっこい••••••しょっと」
今日は体育や芸術の選択授業が無かったため、主要教科の教科書とノートがぎっしりと詰まった鞄は普段より少し重い。今からこれを背負って帰ると思うと今から気も重くなる。
「おっ、白菜は今日の荷物軽そうだな。少し持ってくれないか?」
「え〜、やだよ。小学生の頃は私の方が力持ちだったから持ってあげてたけど、今はその必要ないでしょ?今更女の子に頼るんじゃありません」
「それもそうか。あ〜、重たいなぁ」
「頑張れ頑張れ!そうだっ!ついでに重りもつければ筋トレになるよ。帰ったら貸してあげようか?」
「つけるわけないだろこの筋トレ脳め。ちゃんと休みもとってるんだろうな」
「大丈夫大丈夫!体力だけはあるから。叶枝君ももうちょっと筋肉がつけばモテるんじゃない?」
「••••••ホントに?」
なんてことない会話の応酬を繰り返しながら、羽でも生えているかの様な軽い足取りで教室を出て行く白菜を、対照的に靴底に鉛でも詰められているかの様な重い足取りで俺も追う。
筋トレか••••••やろうかな。そう思ったのも束の間、女子に好かれたいという不純な動機を鑑みて1週間も続かないと決行を断念。
この間わずか十数秒、完璧な自己分析に思わず涙も流れるというものだ。
下らないことを考えている内に、いつの間にか白菜との距離が少し離れていた。やはり普段の運動量の差が出るのか気付けばどんどん離れて行ってしまう。
「マイペースな奴だな••••••まぁ、待たせたのは俺だしな」
俺は、白菜に追いつくため、一度鞄を背負い直し、努めて早足で廊下を歩いていく。
新しく名前が出た夕悟、ひので、霙の3人ですが、誕生日などのキャラ情報は本人達が登場してから紹介します。
ちなみに夕悟が兄でひのでが妹です。