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あの手この手であの子の手  作者: 一耶 礼
10/12

家族以外に家での自分を知られるのは大分キツい

祈梨(いのり)はひとしきり恥ずかしがると我に返り、慌ててリビングに散らかしたニーソックスなどを片付け始めた。


そして、行き場のない羞恥心を怒りに変えて、その矛先を何故か俺に向けてきた。


「もうっ!みんなを連れて来るなら先に連絡してよっ!」


部屋をてきぱきと片付けながらも俺への罵倒(ばとう)は止まらない。我が妹ながら器用な奴だ、兄として誇らしいな。


「大体お兄ちゃんはいっつもそう!昨日だってお風呂上がりに下着1枚でリビングに出て来たりして!デリカシーが足りないんじゃないの!?」


「わ〜••••••叶枝(かなえ)君キモ〜い」


「それはさすがに無いぞ••••••」


いきなり明かされた俺のプライベートに、ふたりはドン引きしている。


「おいっ、自分が恥をかいたからって兄まで巻き込むのはやめろ。お前だって似たようなものだろ。よくリビングで腹出して寝てるじゃないか」


そっちがその気なら俺も同じことをするだけだ。俺に家での祈梨(いのり)について語らせれば右に出る者はいないからな。これが兄妹の絆というやつか••••••うんっ、違うな。


「ちょっとっ!夕悟(ゆうご)さんの前で何言ってんの!?ほんっと信じられない!」


祈梨(いのり)は思わずといった感じで手を止め、再び羞恥に顔を赤く染めて声を張り上げる。


家以外ではしっかりしている祈梨(いのり)だけど、夕悟(ゆうご)の前では特に猫を被る。


傍から見ればバレバレなんだけど、祈梨(いのり)夕悟(ゆうご)への好意を隠しているつもりらしく、男性に対する礼儀として当然と言い張っている。


そう思っているのなら兄にも礼儀正しくしてほしい••••••いやホントに。


対して夕悟(ゆうご)は、自分への好意に鈍感でもないらしく、祈梨(いのり)からのアプローチには気付いているらしい。


しかし、なにぶん祈梨(いのり)本人が認めないので、奥手なんだか積極的なんだか分からない好意に日々振り回されている。


「そういえば、夕悟(ゆうご)さん達は何の用でいらしたんですか?」


部屋の片付けもひと段落し、気を取り直したように祈梨(いのり)はふたりに問いかける。


祈梨(いのり)は俺たち幼馴染の中で夕悟(ゆうご)にだけ敬語を使う。どうやら無意識の内にそうしているらしい。


「今日は勉強会の日だぞ。といっても、俺も白菜(しろな)もさっき叶枝(かなえ)に言われて思い出したんだけどな。ひのでも(みぞれ)ももうすぐ来るはずだぞ」


夕悟(ゆうご)白菜(しろな)は、現在もひとつ上の(みぞれ)さんを呼び捨てで呼んでいる。幼馴染なので、これはおかしなことじゃない。


俺が(かしこ)まり過ぎだといわれればそれまでだけど、どうも幼馴染といえど年上の人を呼び捨てで呼ぶというのはすわりが悪いと感じてしまう。


まぁ、それは単に考え方とか性格の違いだと思う。産まれたときから同じ環境で過ごしてきたといっても、全く同じように成長するわけじゃないんだから。


「あっ、そうか勉強会かぁ。すぐお茶の用意をしますね。夕悟(ゆうご)さんはコーヒーですよね。ミルク多めに入れますね」


「ああ、頼む」


白菜(しろな)ちゃんはミルクティーだよね。甘めにするね」


「うんっ、お願い」


勉強会でのお茶出しはいつも祈梨(いのり)がしているので、流石みんなの好みをよく把握している。ふっ、妹よ。ここはひとつ、この兄にも好みの飲み物を出してくれ。


そう思ったのも束の間、俺の目の前に少々乱暴に置かれたのは安物のグラスに注がれた無色透明の液体だった。


これは••••••俗に言う水道水、ウォーターロードウォーターでは?軽く飲んでみたところ、やはり無味無臭。しかも絶妙にぬるい。議論の余地も無い完全な水道水だ。


「いっ、祈梨(いのり)?こっ、これは一体どういうことだ?」


「何?」


「••••••どっ、どういうことでしょうか?」


思わず(かしこま)って敬語で問いかけると、我が親愛なる家族であるところの妹に、およそ家族に向ける(たぐい)のものではない冷たい視線で突き刺された。


「お兄ちゃんの飲み物なんて水で十分でしょ?贅沢言わないで」


そう言って祈梨(いのり)は自分用の、氷を入れて冷やしたカルピスを作った(のち)、原液を俺に渡してくれるでもなく冷蔵庫にしまった。


ははぁ〜ん妹よ、さてはブチギレていらっしゃるな••••••


「やっぱり祈梨(いのり)が入れてくれたコーヒーは一味違うな」


「うんっ、ミルクティーも自分で作るとこうはならないんだよねぇ。さっすが祈梨(いのり)


ふたりはそれぞれ出された飲み物を味わっている。この中にひとり、水道水を出された奴がいるんだけど••••••気にならない?


「あっ、ありがとう••••••ございます」


夕悟(ゆうご)たちに褒められ、祈梨(いのり)は自身のくせっ毛を、いじりながら軽く会釈した。照れもありながら嬉しいようだ。


俺もふたりとの扱いの違いをひしひしと感じながら、晩春の気温によって絶妙にぬるい水道水をちびちびと飲む。


まぁ、妹が入れた飲み物なら何でもうまいんだけどな。


そう考えることによって兄としての威厳を保っていると、ピ〜ンポ〜ンと間の伸びたチャイムが鳴った。


誰が来たのかは予想がついたので、インターホンに出ることなく玄関のドアを開ける。


叶枝(かなえ)君、遅くなってごめんなさいね」


秋谷(あきや)君、さっきぶり。終礼だからって寝てちゃダメだよ?」


そこにはやはり、白菜(しろな)夕悟(ゆうご)と同じ幼馴染のふたりが立っていた。











キャラ情報


瑞凪(みずなぎ)(みぞれ) 誕生日11月7日(立冬)

名前のわりに結構寒がり。


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