53.訓練生と出発
「――討伐隊だ!」
「――騎士様だ!」
大通りを早足で駆ける騎士隊を見て、王都の住民たちが声を上げてどんどん集まってくる。
彼らの信頼と期待に満ちた視線と声が、背中を押す。
これから死地へ向かう可能性もある魔物討伐に向かうのである。
その理由は、彼らのようなエーテルグレッサ王国の国民を守るためである。人間の生活圏内に入って来ないよう、事前に叩きに行くのだ。
討伐は、年に二回。
春になり活発に動き出す直前である、冬の終わりと。
食物を取り肥え、冬ごもりの支度を始める夏の終わり。
それ以外は、国内に出現したという報を聞いて、討伐に向かうのである。まあ、そちらは遊撃隊に近い三番隊が専門でやっているが。
一番隊と二番隊は、大規模討伐任務が主である。
未だ人の手の入っていない、魔物が多く生息するという南の辺境――魔の森と言われる危険地帯に赴き、限界まで戦い続けて引き上げる、という過酷な戦場へ臨むのだ。
こういう華々しい出発もあってか、人気を一身に浴びる存在である一番隊と二番隊は、魔法騎士団の花形とも言われており、非常に人気がある。
それこそ姿絵が出回り、それがたくさんたくさん売れるほどに。
「――見ろよ、レオンヴェルト様だ!」
「――レオン様ぁーー!!」
一番人気はもちろんというか当然というか、一番隊隊長レオンヴェルトである。継承権こそ返上しているそうだが、歴とした王族、王子様である。
白馬ではなく黒い軍馬に乗っているが、麗しき王子様であることは間違いない。
そして妖精のおっさんはようやく騎士たちに慣れてきたのか、女性騎士たちへの挨拶周りに余念がない。まだそこまで速度は出ていないものの、馬に乗っている状態で変なちょっかいを出すのはやめてほしいのだが。
しかし、戻ってくる気配はまだまだない。
「――ベルクオッソ様! 死ぬなよ!」
「――おい老兵! うちのツケ払ってないのに死ぬんじゃねえぞ!」
もはや初老を越えている高齢だけに、二番隊隊長ベルクオッソに飛んでくる声は少々不穏である。
が、いつものことらしく、当人はまるで気にしていない。でも店のツケは払え。
他にも人気の騎士の名が飛び交う。
黄色い声もあれば野太い声もある。
まだ朝も早いのに、皆一目でいいから討伐隊を見たい、見送りたいとどんどん集まってくる。
そんな騎士隊の最後尾に、毛色の違う者がいた。
フレイオージュである。
揃いの鎧も着ていないし、装備も違う。
あまり見覚えのない、まだまだ若い小娘だ。
「あれは誰だ」と、戸惑いと共に疑惑の声がちらほら飛んでいる。
それはそうだろう。
討伐隊に参加する訓練生など、過去に一度だって前例はないのだ。まさかこの過酷にして危険極まりない討伐任務に、訓練生を連れて行くだなんて、誰も予想はしていまい。フレイオージュや父シックルだって驚いたくらいなのだから。
「――あれは魔帝令嬢だ! 訓練生だよ!」
なんと。
まさか自分を知る者がいたのか、と思わず視線を向け……一瞬、心臓が止まった。
驚いた。
声の聞こえた一角に、士官学校の二年生……同級生たちが集まり、こちらを見ていたからだ。
一年生の頃、何度も手合わせをした成績上位のハインド・ウィンド。
第二期課題で一緒になった、二級組のエッタ・ガルドにアンリ・ロンの二人。
あまり話したことはないが、同期のリート・ランバートと、少し前に縁があって一緒に訓練をしたアンサー。
フレイオージュと主席を争ったキーフ・キランドに、友達だと持っていたけど友達じゃなかった苦い思い出のあるササリア・ルフランもいる。
それに、士官学校の一年生たち。妹の同期だ。この前かなり一方的にぼこぼこにしてしまった彼らだ。
「――がんばれよ、オートミール!」
「――フレイ様ぁー! 好きー!」
「――絶対全員一緒に卒業するんだからな! 死ぬんじゃねえぞ!」
どこかから話を聞いたのだろう、朝も早くからわざわざ集まってフレイオージュを見送りに来たのだ。
正直、友達と呼べるほど親しい同期はいない。
フレイオージュは口下手で不器用で、十年以上も外の世界を知らずに生きてきただけに、他人との接し方がよくわからない。
それに加え、魔帝ランクということでやや敬遠されていた。
でも、仲間だとは思っていた。
滅多になかったが、困っている者はできるだけ手を差し伸べてきたし、手合わせや挑戦を挑まれればできるだけ応えてきた。
きっと、彼らも、親しくはないが仲間ではあると、そう思ってくれていたのだろう。
「――フレイ様ぁ! 帰ってきたら抱いてぇ!!」
「――俺も抱いてぇ!」
「――俺も俺も!」
「――あ、じゃあ私も!!」
「――後輩でもいいですかぁ!?」
「――ずるい! なら私も!!」
…………
最初は嬉しかった声だが、悪ノリが過ぎてもういいやってなった。冗談が過ぎる。本気だったら余計に笑えない冗談だ。
そんな後ろ髪を引かれない士官学校の仲間たちに背中を押され、フレイオージュは遅れまいと、なんなら詰めすぎるくらいの速度で、一刻も早く王都を後にするのだった。
――そしておっさんは、本当に本当に恐れ多いことに、レオンヴェルトの頭の上に落ち着いていた。真顔でこっちを見ながら。
あとでしっかり謝ろう、とフレイオージュは思った。




