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44.準備と調査





「こほん――いい!? 私の指示を聞きなさい!」


 リーダーが決まった途端、アルマは小さい身体で美術品としても骨董品としても抜群に値が張りそうな椅子の上に立ち、精一杯の背伸びをして受験者たちを見下ろす。


 何かを自慢する子供みたいに、得意げな顔が非常に可愛らしい――そう思ったフレイオージュは、アルマが自身より二つ年上であることをまだ知らない。


「まず、イスラとウリン!」


 びしっびしっと指差す。いつの間にか彼女の横に来た妖精のおっさんも真似している。


「あんたら冒険者なんでしょ!? 屋敷の外を見回って、来そうな場所(・・・・・・)を全部チェックしてきて!」


 そして、と返事を待たずに次を……フレイオージュとアンブレラを指さす。


「あんたとあんたは、屋敷内を見回って守るモノを選出してきて! まだ大雑把でいいわ! あとこの攻防戦のルールだと、使用人は護衛対象になってないからね! 可愛そうだけど使用人のことは考えない方向で! 見捨てて!」


 見捨てて。

 ひどい言い草だが、しかし間違ってはいない。


 実際の護衛でも、その手の取捨選択は迫られるのだ。

 例えば、仲間と護衛対象の危機が同時に来たとして、片方しか守れない。そんな時、護衛としては護衛対象を守らねばならない。


「あと絶対屋敷から出ないこと! フリージュは妖精付きだから一目でバレるし、アンブレラは妙に背が高いから目立つ! どこかから監視されている場合、余計な情報が漏れるからね!」


 ――ほう……――


 フレイオージュを始め、受験者たちのアルマを見る目が少し変わった。


 子供っぽい見た目が経験不足そうで若干不安だったが、なかなかどうして今のところ理に叶った指示を出している。


 そう、襲撃側は、防衛側がメイドに扮していることを知らない――あるいは知らされていたとしても、これから衣装は変えることができる。

 こっちに屋敷の指揮権が与えられている以上、試験官であるイクシアが文句を言うこともないだろう。たぶん。


 襲撃側と防衛側と、一度は受験者全員が同じ場所にいたが、格好や髪型を変えるだけでも随分印象は違って見える。遠目なら尚更だ。別人に見せることもできるだろう。


 アルマの指示は、この辺のことも加味してのことである。

 自らリーダー役に立候補するだけあって、頭の切れは非常に良さそうだ。


「ミリアは私と来て! 探し物をするから!」


「いや私ククリだから。本名やめてよ」


 イスラとウリンは、広い敷地内の調査と見回りに。

 フレイオージュとアンブレラは、護衛対象の割り出しに。

 そしてアルマとククリは、探し物に。


「終わったらここに集合ね! 終わらなくてもお昼くらいには昼食がてら一度集まりましょう!」


 こうして、自慢げな子供に送り出されるようにして防衛チームは行動を開始した。





「家主と財産と秘密を守るのよね?」


 長い廊下に並び続ける部屋の一つ一つを確認して行く最中、アンブレラがそんなことを言う。

 フレイオージュは頷く。


「家主は、あの試験官でしょ? となると一人くらいは常に付けておくのがいいのかな」


 その辺はアルマが決めることだ。

 あの調子ならうまく采配してくれるだろう。


「まあ、アルマがうまいこと決めるか。あの様子なら任せて大丈夫そうだしね」


 考えることは同じだったらしく、フレイオージュは同意するように頷いた。


「となると、あとは財産と秘密か……財産と言えば金庫? 公爵の館なら宝物庫みたいなのもあるのかな」


 屋敷のこの広さ、この部屋の数。

 敷地だって恐ろしく広大だ。


 これだけの場所である以上、宝物庫なる部屋があったところで何ら不思議はない。


「あと秘密か……いまいちそっちがわからないのよねぇ。……ん?」


 直進しようしたアンブレラの袖を掴み、フレイオージュは折れた廊下の先を指さす。


「執務室? 見とく?」


 ドアの前に貼り付けられた金色のプレートには、「執務室」という文字が刻まれている。いずれ覗くとは思うが、あそこは重要な場所である。


「あ、なるほど。秘密って公爵家の書類のことか。台所事情とか領地の情報とか、外に洩らせないものもありそうだしね」


 そういうこと、と言いたげフレイオージュは頷き、二人は執務室へと向かう。


 使用人しかいないという話だったので反応はないとは思うが、一応ノックしてみると……


「――どうぞ」


 返事があった。

 誰もいないと思ったのに。


 アンブレラとフレイオージュは一瞬視線を合わせると、やや警戒しつつドアを開けた。


「――いずれ来ると思っていましたが、早かったですね」


 執務机に座っていたのは、試験官イクシアだった。


「訊かれる前に答えますが、この期間中、私はこの家の主人として行動します。

 この時間は執務、昼食後も執務。夕方頃に少し身体を動かし、図書室で調べ物と執務をこなし、就寝します。これが今この屋敷の主の一日の行動になります。

 それと、執務室には護衛は入れません。この時間私を守るなら、部屋の外でお願いします」


 なるほど、と二人は頷く。

 これはアルマに伝えるべき重要な情報である。


「……?」


 イクシアの視線が動く。

 壁一面にびっしり詰まった本棚に向かって、妖精のおっさんがふらふらと飛んでいく。


「妖精は可愛いわね。何か気になるものでもあるのかしら」


 などとイクシアは微笑む。おっさんに見えているフレイオージュにはなかなか可愛いとは言えないところがある。


「試験官は、人形が好きなんですか?」


 アンブレラが問うと、イクシアは「ええ」と答えた。


「人形というか、可愛い物全般が好きですよ。子供の頃はよくプレゼントとして貰いましたし」


 応接間の暖炉の上にあっておっさんがハーレムを築いていたビスクドールたちは、もしかしたら元はイクシアの物だったのかもしれない。


「へえ……女性騎士は荒っぽい人も多いと聞きますが」


「あなたは荒っぽいの?」


「うーん、まあ、普通ですかね」


 アンブレラも現役騎士なので、二人はそれなりに面識があるようだ。


  ガコン


「「えっ」」


 イクシアとアンブレラが、ここで聞くには違和感しかない音に反応する。


 ――や、やめなさい! 秘密を暴かないの!――


 その違和感しかない音に違う反応をしたのは、フレイオージュのみである。


 おっさんが本棚に向かった時から、嫌な予感はしていた。

 過去の事件などを調べていた際、まあ貴族の屋敷の執務室には高確率で隠し部屋があると共通点を認識したことがある。


 最近新しく建てられた屋敷はまた違うらしいが、ここのような歴史のある建物の場合、十中八九執務室にあった。


 壁一面の本棚。

 一目見た時から、非常に怪しいと思っていた。


 どこかの本を動かすことで仕掛けが作動し、魔法を仕込んだ絡繰りで本棚が動き出す。

 もちろん作動させたのは妖精のおっさんである。彼は急に本棚が動き出したことにびっくりしてフレイオージュの胸に飛び込んでビクビクしている。


 ごりごりと壁の中で仕掛けが動く音がして――動いた本棚の裏に、小さなドアが現れた。

 

「……」


「……」


「……」


 三人はなんとも言えない顔で、隠し扉を見詰めて。


「……あなたたち、そこから一歩たりとも動かないでください」


 そう言って、ゆっくりと立ち上がったイクシアは、隠し扉の向こうへ行き――すぐに帰ってきた。


「このことは内緒ですよ。これは本当の公爵家の秘密ですからね。漏らしたら色々と保証はできません」


 中に何があったのか。

 そんなこと、聞けるわけがなかった。


 ――裏帳簿や表に出せない書類や脱税の証拠など、本当に危険な秘密が眠っている可能性があったから。





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