41.第四期課題当日と七番隊採用試験日
「…………」
――あ、これ王女騎士隊の採用試験だ――
第四期課題の期日がやってきた。
集合場所である王都北門に集まっている、武装した女傑たちの姿を見て、フレイオージュは悟った。
やはりこれは王女騎士隊……七番隊の課題である、と。
正規騎士用の兵装こそしていないが、私物であろう装備をまとっている、顔を知っている現役の女性騎士が何人かいる。
冒険者上がりと見られる者も、いまいち出身が見えない者もいるが……
共通しているのは、全員がそれなりに強そうだという点だ。
女性だけで構成されている七番隊、通称王女騎士隊に入隊したいと思うだけあって、経験も腕っぷしも確かなのだろう。
そんな女性陣が十名ほど、思い思いに時を過ごしている。
そして馬の頭の上でくつろぎながら、いつもの真顔でフレイオージュをガン見していた妖精のおっさんが、数名の女傑たちに挨拶するかのようにふらふら飛んでいった。
十名ほどいるのに、数名だけ。
おっさんの意図的かつ変質的でありながら狂信的でもあり差別的で無慈悲的でなおかつ軽蔑的な人選を感じる。
そう、たとえば、胸部装甲の差異のような。
妖精じゃなければ許されるはずがない極悪の所業である。フレイオージュ以外にはおっさんに見えていないのが唯一の救いか。
「…………」
――確か……――
今更おっさんの行動に動揺することもないフレイオージュは、おっさんのことは見なかったことにして馬から降りつつ本題を考える。
王女騎士隊は特殊な騎士隊である。
まず大きな特徴として、女性だけで構成されている。
通称が示す通り王女を始め、同性として貴婦人や女性要人の護衛に当てられる。
だが、それはあくまでも表向きに知られた代名詞の存在理由である。
その護衛の内容には、たくさんの技術が求められるのだ。
貴族の女性は慎み深い人が多く、また身体を鍛えているわけでもないので、よく観察して体調や状態を把握しておく必要がある。無理をさせて本格的に体調を崩されたら、予定に大きく響く。
そう、必要であれば体調管理をせねばならない。
特に大人に気を遣って我慢する子供は、察する力が必要となる。
だが当然、護衛としてじろじろ見るわけにもいかないので、バレないようさりげなく注視するのだ。
この技術は必須である。
もし身重……それも本人が気づいていない時点での懐妊状態などであった場合、最悪のケースもありうるのだ。
必要以上に我慢させてはならない。
殴っても壊れない騎士や、場合によっては文句を言いながらも普通に手が出る女性騎士とはまるで違う、デリケートな生き物なのだと知っておかねばならない。
それに加え、必要なら侍女のように身の回りの世話も任されることがある。
滅多にないことだが、旅の最中で、連れている侍女がどうしても動けない時や、同行できない場所である時は、護衛をしつつその代わりもこなす必要があるのだ。
簡単に言うと、対象の状態にも、対象の身の回りの世話も、多々気を遣う必要がある護衛騎士隊、というわけだ。
女性らしい細やかな気遣いと優しさが求められるとかなんとか。
「…………」
かつて妹が、堅物を絵に描いたような父シックルに聞かれたら大激怒してしまうようなことを言っていたことを思い出す。
――ルミナリは、王子様と出会いの機会がありそうな夢のある騎士隊よね、って言っていたなぁ――
妹はそういうことを平気で言うタイプである。
そして怒られても「怒られ慣れてるから平気だよ」と言い放つタイプでもある。少々奔放でやんちゃなのである。……少々ではないかもしれない。
腕っぷしはともかく、胆力と度胸は間違いなく姉より妹の方がありそうだ――あまり羨ましいとは思わないが。
「ねえ。あんた士官学校の生徒だろ?」
「……?」
恐らく七番隊の隊長が来るだろうその時を、バッタにまたがり乗り回して遊んでいる妖精のおっさんを眺めながら待っていると、冒険者風の女性に声を掛けられた。
赤毛の短髪に軽装で、いかにも冒険者って感じの女だ。
年上かと思ったが、よく見ると結構若い。案外同い年くらいかもしれない。
「知ってるよ。噂の魔帝令嬢だろ」
「…………」
――噂……――
陰で時々呼ばれているのは知っているが、出所だのいつからだのはわからない。
如何せんフレイオージュは友達がいないし、まともに話をする同年代も極わずかなので、たとえ自分のことであっても、周囲が何をどう言っているかあまりよく知らないのだ。
「しかも今は、信じられないくらい輝く妖精を連れているってね。あれだけ目立てばすぐわかるよ」
バッタ数匹に追い回されている妖精が、彼女には輝いて見えるらしい。
フレイオージュには小さいおっさんにしか見えないが。小さいおっさんが必死になってバッタから逃げているようにしか見えないが。
「もしかして課題?」
「…………」
フレイオージュは頷く。
訓練生の課題で、王女騎士隊の採用試験が当てられるのは前例があるのだ。
「そうなんだ。あたしらは城の内外から、いろんな人から推薦状を貰って集められたみたい。七番隊は騎士隊としては結構異色なんだよね」
確かに異色なのだろう。
騎士団は、士官学校の卒業生で構成されている。
腕や魔法と言った必須条項を満たすのであれば庶民でもなれるが、もっと根本的なことを言うと、エーテルグレッサ王国の住民しかなれない。
だが、ここにいる女傑たちは、士官学校の卒業生ではない者もいる。この赤毛の冒険者もそうだろう。もしかしたらエーテルグレッサ王国の民でさえないかもしれない。
「…………」
――推薦状か……――
恐らく、信頼できる者からの他薦で採用試験を受ける資格を得られるのだろう。
士官学校の卒業生だけで固めないのにも理由があるはずだが、そこまではフレイオージュにはわからない。
「あたしなんか生粋の孤児で、学校なんて行く余裕もなかったけどさ。でもまさかエリートである騎士団の採用試験を受けられるなんてさ。人生わかんないもんだよね」
「…………」
――そうですね――
そんな論調で言うなら、滅多にお目に掛かれない五色持ちの魔帝ランクなんて素質を持って生まれたフレイオージュも同感である。
こんな素質を持って生まれるだなんて、思いも寄らなかった。
魔力が覚醒する五歳までは普通に暮らしていただけに、あの瞬間から生活が大きく変わったことだけはよく覚えている。
そして、変わった生活が忙しくて慌ただしくてあまりにも変わり過ぎてしまって、あの頃の思い出なんてなかなか思い出すこともなく、今では記憶の奥底で埃をかぶっている。
彼女の言葉を借りるなら、彼女の心境は五歳の時に経験した。
人生とはわからないものである、と。
「この調子でよくわかんない幸運が続いて、王子様とか貴族の息子なんかと出会って見初められちゃったりしてっ。七番隊は夢があるよなぁ!」
「…………」
――あるといいですね――
妹と同じこと言ってるなぁ、と思いながらフレイオージュは曖昧に頷いた。
試験官となる七番隊がやってきたのは、この直後である。




