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39.第三期課題の報告と第四期課題の話





「――強欲が過ぎるぞ、ベルクオッソ老」


「――おいおい。老い先短いジジイの望みを聞こうとは思わんのか、若造?」


 夏。

 氷や風などの魔法で暑さ対策をしてある涼しい軍事作戦会議室は、一部が静かに燃えていた。


 第三期課題も概ね無事に終了した。

 その報告と、次なる第四期課題のことを話し合うべく、二十名ほどの隊長格と彼らを統べる総団長グライドン・ライアード、副隊長エメディオ・フレンが集っていた。


 相変わらず、空気は重い。


「……報告は以上です」


 一番隊隊長レオンヴェルトと二番隊隊長ベルクオッソが睨み合っているが、十番隊隊長リステマはひっそりと報告を終えた。


 ――フレイオージュ・オートミールの実力に偽りなし。


 かの魔帝令嬢の評価が疑問視されていたがゆえに、彼女の第三期課題は、異例の能力測定となった。


 各隊長たちから疑問視されていたがゆえに、課題を請け負ったリステマは、一つ一つ丁寧にこの会議の場で説明をした。

 無用な誤解が発生しないように、質問にもその都度細かく答えて。


 特に、過去の測定データと照合し――記録だけなら、過去の英雄から現役騎士まで含めて、断トツの一位であることも告げた。


 それにさえ疑問の声が上がることもあったが、そこは試験官として参加したベルクオッソが証言した。

 問題発言も加えて。


 ――「あれはすごいぞ。むしろ測定より実戦の方が良い結果を出すじゃろう。いずれ二番隊の隊長にするからうちに回せ」と。


 だからレオンヴェルトに睨まれたのだ。


 フレイオージュが二番隊の隊長候補に相応しいと言うなら、当然一番隊にも欲しい人材であることは明白だからだ。


 報告を終えたリステマが静かに着席する。

 だが、もはや注目は彼にない。


 隊長格たちの意識は、エーテルグレッサ王国魔法騎士団の花形である、一番隊隊長と二番隊隊長の睨み合いに向いている。


「試験官として立候補したのもベルクオッソ老の我儘で、特別にフレイオージュ・オートミールの実力を直接肌で感じた上で欲しがるのも貴方の我儘だ。直接やりあえば覚えもいいからな。これを強欲と言わずなんと言う?」


「一番隊はよかろう。どうせ隊長は王族しかなれんのだからな。だが二番隊は違う」


「それが何か関係あるのか?」


「隊長としての資質を持つ者は少ないし、隊長の実力を持つ者も少ない。両方の資質を兼ね持つ者はもっと少ない。譲らんか。二番隊は次の隊長はおるが、次の次がおらんのだ」


「だから、それが何か関係あるのか? 優秀な人材ならばどこの隊だって欲しかろう。――ああ、六番隊はいらないんだったか?」


 第二期課題を請け負った六番隊隊長セレアルド・フォージックは、鋭く向けられたレオンヴェルトの視線に笑いながら頷く。


「うちには勿体ないですからね。六番隊には宝の持ち腐れです」


 セレアルドの言い方が軽いだけに冗談のようにしか聞こえないが――ベルクオッソが二番隊の隊長に、とまで言う人材である。冗談でもなんでもないのだろう。


「……生意気ぬかすようになったのう? レオン坊」


「確かに私は貴方の弟子だ。だが今は一番隊を預かる身。私は隊を維持し、可能な限り強化する義務と責任がある」


 気が短い二人である。


 睨み合うのがこの二人じゃなければ、「揉め事なら後にしろ」だの「陛下に言いつけるぞ」だの「腹が減ったからメイドに食い物頼むけどほかに誰かいる?」だの「娘に恋人ができたんだけど合法的に殺す方法ないか?」だの「セレアルドー女紹介してー」だのと野次が飛ぶのだが。


 この二人は、下手に口を出すと本当に乱闘が始まりかねないので、誰も何も言わない。


 いよいよ殺気立ってきた両名のせいで、ただでさえ重い空気が満ちていた会議室に暗雲が立ち込めてきた。涼しいはずなのに、ピリピリと肌を焦がすような熱さえ感じられる。


「――団長、そろそろ止めないと……」


 厳しい顔で静観している総団長グライドンに、副団長エメディロが囁く、と。


「注目!」


 エメディロへの返事の代わりに、暗雲を晴らすような覇声を発した。


 これにはレオンヴェルトとベルクオッソも従う――従わないと減俸・謹慎・禁酒・陛下への告げ口と茶会や夜会への強制参加と、生粋の武人にはきつい処罰が下される。最悪、秘蔵の酒をも没収もされることになる。これはつらい! 反逆の種が芽吹いてしまう!


「各隊が欲しがるのは構わないが、どの隊に所属するかを今決める必要はない。本人の意思も尊重するべきだと私は思う。

 ゆえに、今は課題の話を続ける。


 フレイオージュ・オートミールに関しては、続く課題で他に見るべき資質もきっとあるだろう――無論、他の訓練生もだ。訓練生はフレイオージュだけではない。あまり一人だけに注目しすぎるな」


 その通りである。


 今年は異様に優秀な訓練生が一人いるだけであり、他の訓練生が優秀じゃないわけではない。

 フレイオージュばかり見ていては、他の訓練生が可愛そうだ。


 …………


 まあ、魔帝ランクと肩を並べて比べることの方が可愛そう、とも言えるのかもしれないが。





 とにかく、能力測定の結果とベルクオッソのお墨付きが出た以上、フレイオージュ・オートミールの実力は、もう疑う必要はないだろう。


 となると――そろそろ実戦に投入して様子を見たいものだと、隊長格たちは考える。


 だがそうなると、一番隊と二番隊は難しい。


 魔物討伐をメインに活動する魔法騎士団の花形である、一番隊と二番隊。

 騎士志望にも、国民にも、絶大な人気を誇っている。


 が、いくら実力があろうと、フレイオージュはまだ訓練生である。

 実戦経験が不足していることは間違いない以上、いきなり危険極まりない最前線の討伐隊に参加させるのは酷だろう。


「第四期課題についてだが――」


 これに関しては、もうグライドンの方で考えてあった。


「イクシア」


「はい」


 七番隊隊長イクシア・ノーチラスが立ち上がる。


 七番隊は王女騎士隊(プリンセスガード)である。

 騎士は女性だけで構成され、主に女性の要人の警護を担当している。


「もうすぐ王女騎士隊(プリンセスガード)の採用試験があるな? フレイオージュ・オートミールを参加させろ。それが彼女の第四期課題だ」


「……試験に、ですか?」


「そうだ。もし七番隊に所属を希望した場合、即座に入隊できるようにな。だから採用試験を受けてもらう」


「――わかりました」


 第三期課題は異例中の異例だったが、今回も少々異例である。

 が、少ないが前例はある分だけ受け入れやすい。


 ただし、このタイミングで課せられた試験での採用率は、限りなく低いが。





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― 新着の感想 ―
[一言] こういうのをフラグって言うのでしょうか? そして、友達は出来ないのでしょうか、、、
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