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33.細かい操作魔法とリステマ隊長のたくらみ





「――」


「――うわあ美味しそう……!」


 ――こんなはずじゃなかったのに。


 生活魔法によって作られた即席テーブルに白いクロスを引き、どこぞの高級レストランの様相でササリア・ルフランにフルコースを、特に今はメインディッシュの「こちら野兎のソテー、青ベリーソースとシェフの気まぐれ塩加減になります」などとかすかに聞こえるか聞こえないかの声で自慢の一皿をご馳走しているフレイオージュを尻目に、十番隊隊長リステマはかったいかったい干し肉を齧りながら舌打ちした。


 なんで野営でフルコースなのか。

 なんで星空の見えるオシャレな夕食になっているのか。

 なんでフレイオージュがササリアに給仕しているのか。あの二人は何かあるのか。ないのか。ないならないで逆に問題なんじゃないのか。


 周りの正規騎士や、同じ訓練生なのに女の子同士でキャッキャしているせいで孤立してしまっているキーフ・キランドが渋い顔でかったいかったい干し肉を食っているのをどう思っているのか。

 どう思って周りを無視してササリアは「野兎のソテー、青ベリーソースとシェフの気まぐれ塩加減」を美味しそうに食べているのか。


 ――確かに夜は好きに過ごしていいとは言ったが。


 ――今回の課題は、課題ごとに万全を期すために休憩を多めに入れる予定だとは言ったが。休憩中に何をするのも自由だとは言ったが。今日はもう何もないとも言ったが。


 だからって、まさか野営地でフルコースを作るなんで誰も思わないじゃないか。


 いや。

 色々と気になることしかないが、それはもう一旦置いておこう。


 つい先ほど終わった、全員分の生活魔法の評価を記した書類を見ながら、リステマは明日行う二種目目の能力測定競技について考える。


 生活魔法では、奇しくも紙一重で負けたと言わざるを得ない。

 誰の目から見ても、あの魔帝令嬢が断トツの力を見せつけていた。リステマは紙一重で惜しくも負けたと認めざるを得ないところがある。あくまでも紙一重で。紙一重の結果で。


「今回の訓練生は優秀ですね」


 横にいる、副隊長……というよりリステマの秘書官に近い女性騎士アサビーは、難しい顔で能力測定の結果を見ている隊長にかったいかったい干し肉を食べながらそんなことを言う。


「そうですね」


 フレイオージュだけが目立ちがちではあるが、ほかの訓練生キーフ・キランドとササリア・ルフランも、いい結果を出している。


 特にササリアは、魔法使いという点ではなかなか面白い逸材だ。


 フレイオージュの魔帝ランクと、キーフ・キランドの魔王ランク。

 ついでに言うとリステマの魔竜ランクもだが、使える魔力の色が多ければ、それだけ魔法の威力も上がり、使える魔法の幅も大きくなる。


 だが、ササリアはギリギリの魔王ランク。

 赤、青、黄の三色を使えるが、その内の青だけが非常に弱いという特徴がある。


 この特徴自体はさして珍しくもないが――


 しかし、その状態で、キーフや現役騎士などの遜色ない魔王ランクと肩を並べる使い手だ、というのは大変珍しい。


 魔法への理解が深いのか、魔力の使い方がうまいのか。

 魔法を得意とする者が多い十番隊からすると、なかなか気になる人材である。


 フレイオージュも気になるが、キーフとササリアも逸材である。

 そしてそれを浮き彫りにするのが、今回の能力測定である。


 リステマの個人的な私怨も多少、そう多少はあるが、これはこれで必要な課題だったのだろう。

 そうじゃなければ、総団長グライドン・ライアードが認可していなかったはずだから。





 一夜明けた早朝。

 朝から軽い合同訓練をこなし、朝食を取ったところで、リステマが集合を掛けた。


「これより二種目目の能力測定を行います」


 ――いい気になっていられるのもここまでだ、フレイオージュ・オートミール。いやに神々しくもかわいい妖精と戯れていられるのも今の内だぞ――


「今度の測定は」


 ――五色持ち? 魔帝ランク? その無駄に多い魔力の種類の多さが己の仇となるのだよクククッ。妖精ばかり気にしていていいのかな――


「初級から中級魔法を使った的当てです」


 ――しかも今回はぁ、手本となる正規騎士からはやらんぞぉフヘヘェッ。その美しくもかわいい妖精の前で無様な姿を晒すがいい――


「なお、これは『やり方』による最適解が存在しますので、それを知らない訓練生から測定を始めたいと思います。

 フレイオージュ・オートミール。主席の君からだ」


 内心のどす黒さを小悪党感を醸し出しつつも一切表に出すことなく、リステマは品行方正なる魔法騎士の隊長として、憎き魔帝令嬢に一番初めにやるよう指示を出す。


 なお、一応彼の言い分は間違っていない。


 内心のどす黒ささえなければ、割と普通の指示だったりする。士官学校の主席が一番最初にやる、というのも割と自然な流れだ。


 敬礼したフレイオージュが、一歩前に出た。


「今から、我々正規騎士が魔法を使って、目の前の荒野に五十の的を土で用意する。

 それらには色が付いており、効果的な魔法を当てることで容易に破壊することができます。そうじゃなければなかなか壊せません。


 つまり、より速く正確に弱点となる属性の魔法を当てること。敵の弱点を素早く正確に突くための技術となります」


 この訓練の最適解は、最弱の攻撃魔法をどんどん放って、焦らず落ち着いてしっかり一つずつ狙うことだ。


 魔法は精神と思考によって大きく左右される。

 急げば操作が乱れ、的を外す。

 間違った属性魔法では壊せない。


 それらのミスが、結果的に大きな時間のロスに繋がるのだ。


「競うのは時間です。二十割(にじゅっかつ)水時計を使用して水を落とし、五十の的に全部当てたら止めて終了です」


 魔道具の水時計である。


 理屈は砂時計と同じで、ニ十割のメモリが書いてあり、魔法で砂を止めることで上に残っている水の量で時間の測定をするのだ。


「ちなみに十番隊の平均は十六です」


 十六メモリ。

 やったことのない訓練生にはよくわからないが、なかなか早い方である。


「更にちなみに、今は私の七メモリが、魔法騎士団最速記録となっています」


 七メモリ。


 五十の的に対し。

 正確に魔法を選んで使用。


 ――この辺のことを想像するだけで、士官学校で優秀な成績を修めているキーフとササリアには、この測定種目の難しさが想像できた。


 リステマは最適解があると言っていたが、訓練生はそれを知らない。


 つまり――「どうすればいいのか」を自分なりに考えて臨まないと、平均時間にさえ届かないかもしれないということだ。


「じゃあウフッ、は、始めましょうかフフッ!」


 どす黒い気持ちがちょっとはみ出ちゃったリステマが、二種目目の課題開始の合図を出した。





一メモリ=十秒くらいです

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― 新着の感想 ―
[一言] なんともフラグとしか思えなくなってきてます。
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