31.能力測定とリステマ隊長のたくらみ
合流した訓練生三人が雑談もそこそこに待っていると、軽装の騎士たちがやってきた。
「――十番隊隊長、リステマ・シーズです」
そして、思わぬ大物が三人の前に立った。
一級組次席のキーフ・キランドは「おぉ……」と驚きと羨望の眼差しを向け、二級組主席のササリア・ルフランもわずかに目を見開く。妖精のおっさんは赤毛の妖精にばっしばっし尻を蹴られている。
魔法騎士団唯一の四色「魔竜ランク」を持つリステマ。
彼の存在は非常に有名である。
剣術や槍、武で強い騎士はたくさんいるが、四色の魔力を持つ者はリステマのみ。
こればかりは生まれ持った素質の問題なのである。
訓練生キーフ・キランドのような三色「魔王ランク」でさえも珍しいが、その上ともなるともっと珍しい。
その珍しいのが、目の前の十番隊隊長である。
騎士団に限らず国単位であっても、「魔竜ランク」なんて二人しか確認されていないのである。何万人もいる中から二人だけであると考えると、どれだけ珍しいかおぼろげに想像も着くだろう。
一色増えただけで、魔法の威力も破壊力も、そして応用が利く幅も圧倒的に増える。
ある意味では、現役騎士最強の魔法の使い手と言えるだろう。
魔法を得意とする訓練生にとっては、リステマ・リーズはまさに憧れの現役魔法騎士である。出世も早いしエリート中のエリートだ。思いっきり目の前で尻を蹴られまくっているおっさんと赤毛の妖精がいてもなんら遜色のないエリート中のエリートだ。
――その「魔竜ランク」より更に珍しい者がいなければ、それはそれは全員の羨望の眼差しを一身に受けていたことだろう。
現に、リステマの後ろに並ぶ二十名ほどの十番隊隊員は、訓練生を……特に五色持ちの「魔帝ランク」フレイオージュ・オートミールに注目し、興味津々である。この隊は魔法メインで活動しているので、全員が魔法自慢である。彼らからしても興味深いのだ。
「キーフ・キランド、ササリア・ルフラン、フレイオージュ・オートミール。三人とも揃っていますね」
まあ――まあ、あまりにも特殊すぎる「魔帝ランク」はもう別枠として、魔竜リステマは魔法が得意な訓練生の憧れなのである。
その憧れの騎士が、彼らとともに第三期課題をこなすことになる訓練生三人を見る。ばっしばっし尻を蹴られているおっさん越しに。
「……おや? 三人とも馬に乗ってきたのですね?」
そういえば、十番隊は全員徒歩であるのに対し、訓練生は馬を引いている。
「手紙には馬が必要とは書いていないはずですが……ああ、そうか。第一期、第二期と、馬が必要だったから今回もそうだと思ったのですね」
フレイオージュに関しては、第一期は違うが。
しかし、王都の外に出て任務をこなすことは知らされているので、移動手段を用意するのはあたりまえである。
訓練生は騎士志望。
基本的に移動は馬を使うのだ。
馬がいらないなら、むしろその旨を書くべきだった。
「これは私の失態でした。今回の任務は、騎士の任務ではなく君たちの能力測定です」
「の、能力、測定、ですか……?」
キーフが思わずという感じで言うと、リステマは頷く。――顔にこそ出ていないが、フレイオージュもササリアも驚いている。
能力測定。
過去の課題をしっかり調べてきた士官学校トップクラスの訓練生である彼らだけに、一度も前例がないその課題内容に戸惑ったのだ。
「ええ、課題は能力測定です。これから我々現役騎士と君たちで、リリマ平原まで競争をします。――もちろん十番隊である我々が参加する以上、魔法を駆使した移動を推奨します」
――なるほど、と三人は頷いた。
課題を報せる手紙にあった「リリマ平原へ向かう」という内容の意味が、ようやくわかった。
リリマ平原は、騎士や軍の訓練場所である。
そんな場所に何をしに行くかと言えば――そのままの意味で、ある種の訓練をするのだ。知ってしまえば納得の課題である。
「アサビー」
「はっ!」
「彼らの馬を家に帰してきて、それから参加しなさい」
「わかりました!」
リステマに命じられた女性騎士アサビー・テンピールが、訓練生の馬を預かると――リステマの先導で西門から王都を出た。
「リリマ平原の場所はわかりますね?」
ある。
士官学校一年目に、訓練を兼ねたレクリエーションで行ったことがある。何もないだだっ広い荒野である。
「これから出発し、昼頃に着けば早い方です。休憩も移動ペースも各々の判断で構いません、できるだけ早く到着することを目指してください。
ちなみに――我々現役も含め、後ろから数えて一番目から三番目に遅い者には罰がありますので、必死で取り組むように」
「「はっ!」」
これには、これから訓練生と一緒に課題に臨む十番隊隊員も敬礼で返した。
リステマは一つ頷くと、
「――では訓練生」
整列する騎士たちの端に並ぶ、三人に視線を向ける。
「ハンデです。先に行きなさい」
ハンデ。
現役騎士と横並びでスタート、というのは酷だという配慮。
訓練生の中では優秀な三人だけに、少しばかりプライドが騒ぐ。そんなものはいらない、ちゃんと勝負しろという気持ちもなくはないが――
「「はっ!」」
しかし、三人は躊躇わず走り出した。
現役と訓練生。
その実力の差は歴然としているからだ。
リステマほか十番隊隊員たちが見守る先で、どんどん訓練生たちの背中が遠くなっていく。
与えられた有利に容赦も遠慮もしない――そんな「目的のためにプライドを捨てた」訓練生を頼もしく思うと同時に、リステマはほくそ笑む。
――ハンデを与えられた上で追い抜かれる気持ちはどうだろうな、魔帝よ――と。
――訓練生の中ではトップかもしれないが、現役魔法騎士はそう甘くないぞ――と。
――我が魔竜ランクの前にひれ伏させてやる――と。
頭の中では、実力を見せつけたリステマに対し、魔帝令嬢フレイオージュがやたらぺこぺこしている。
どうしてそうなったのか問いただしたい妄想を振り払いつつ。
充分訓練生の背中が遠くなったところで、リステマは隊員を振り返った。
「では我々も行きましょうか――訓練生に負けたら許しませんからね?」
「「はっ!」」
結果。
フレイオージュは滅茶苦茶速かった。
妖精がふらふらどこぞへと飛び、それを無駄に追いかけたりする間があっても、滅茶苦茶速かった。
そもそも最初のハンデで開けられた距離を埋めることができず、誰一人として一度たりとも追い抜く……いや、追いつくことができないくらい、滅茶苦茶速かった。
「何あの速さ」と。
「おかしいだろ」と。
思わずリステマが言ってしまうくらい、滅茶苦茶速かった。
尻を蹴られながら飛ぶ妖精のおっさんもばっしばっし激しく蹴られながらも速かった――彼女以外にはただの光にしか見えなかったが。
そんなこんなで、第三期課題が始まった。




