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30.十番隊と第三期課題





 第二期課題終了からしばし。

 すっかり陽射しが強くなってきたエーテルグレッサ王国の夏は、今年も暑くなりそうだ。


「――どうしたフレイ!」


 そんな午前中でも暑い暑い空の下、フレイオージュは父シックルと共に、今日も訓練である。


 水を飲んだり顔を洗ったりしての小休止を終えて。

 さて訓練を再開しようとした時、濡らしたタオルを目隠しするように額に乗せて、木陰に横になり涼を取る父が威勢よく吠える。


「――私はまだ休みたいぞ! おまえももっと休め!」


「……」


 暑さに弱い父の強気な弱音など無視して、フレイオージュは重り付きの木剣を振るって訓練を再開する。


 そんな中、


「お嬢様、士官学校からお手紙です」


 と、庭師にそんな声を掛けられた。


 内容はきっと第三期課題についてだろう。

 すでに第二期課題終了から二週間ほど時間が経っているので、そろそろ来るだろうとは思っていた。


「……」


 動きを止め、フレイオージュが庭師に視線を向けると、彼は心得たもので「使用人に渡しておきますので」と屋敷へ向かっていった。





 訓練を終えて水を浴び、汗を流して部屋に戻る。


「……」


 テーブルの上に手紙が一通。


 そして、その手紙を我が子であるかのように、身を挺して庇い立ち塞がる妖精のおっさん。小さな身体で精一杯両手を広げて、フレイオージュの魔の手から手紙を守ろうとしている。


 そんなおっさんに向けて、フレイオージュは机の引き出しを開け、妹ルミナリから東方旅行の土産に貰った斬首刀・雪葵型ペーパーナイフを持って近づく。


「……」


 なんの警告もなく刃物を持ち出して来たフレイオージュの冷徹なる態度に、おっさんはガタガタ震えている。


 それでも気丈に動かない。

 まるで我が子を守る親のように。その姿は尊く気高い。


「……」


 しかし血の通わぬ凶器の前には気持ちなど役に立たない――情け容赦のないフレイオージュはおっさんの羽をつまみ上げると脇にどかし、手紙を手にした。


 そして、ぐさっと、その冷たい刃を突き立てるのだった。


 無情なる現実を前に、おっさんが崩れ落ちる。

 フレイオージュはさくさくと手紙を掻っ捌いていく。


 そんな、残酷でもなんでもない、ただの日常のワンシーン――


「……」


 ――この鞘がいい……――


 一仕事終えた、細身で反り返った形が特徴の東洋の剣型である斬首刀・雪葵型ペーパーナイフを、同じく反り返った細身の鞘に納める。

 この細身で長い刃と、それを納める鞘のギミックが、フレイオージュはそこそこ好きだった。





 士官学校からの手紙は、想像通り第三期課題の日程を通達するものだった。


 ただ――


「……」


 ――行き先はリリマ平原……?――


 リリマ平原。

 そこは、主に軍や騎士が全体合同訓練で使用する、広い荒れ地である。


 ここ王都から比較的近い場所でもあるが、それだけに魔物と遭遇する可能性は低い。


 なぜそこに行くのかが気になる。


 前回の手紙には課題内容なども書かれていたのに、今回は書かれていない。

 どこの部隊と合流するかも記されていないのは、どういうことなのか。


 日程は二泊三日となっているが、その短い期間に、いったい何をするのだろう。


「……」


 ――父に聞いてみるか……――


 騎士の課題あるいは任務とは、準備の段階から始まっている。

 それがわかっているフレイオージュは、今手許にある情報から最大限の準備をすることを考えていた。


 ズバァッと見惚れるほど見事な居合を見せるおっさんから、斬首刀・雪葵型ペーパーナイフを取り上げると、フレイオージュは手紙を持って部屋を出るのだった。





 それから四日後の早朝。


 第二期課題の時と同じく、指定されていたエーテルグレッサ王国西門付近まで馬でやってくると――今回も二人、同行する候補生がいた。


「げっ、オートミール……!」


「……おはよう、ございます……」


 一級組のキーフ・キランド。

 剣術、座学、魔法実技とフレイオージュに次ぐ二位の青年だ。

 実技も得意だし、魔法の使い方も上手い。珍しい三色の魔王ランクで、かなり優秀な魔法騎士見習いである。


 当然キーフは、士官学校の成績で虎視眈々と主席を狙っている。

 そしてその全てが魔帝フレイオージュに阻まれていることで、彼女を一方的にライバル視している者の一人だ。

 まあ次席なので、そこまで筋違いの目線ではないかもしれないが。

 

 もう一人は、二級組主席のササリア・ルフラン。

 二級組のまとめ役として存在する彼女は、実質一級組にいてもおかしくない実力者である。槍術から魔法から座学から、どれも非の打ち所がない優等生だ。


 常に冷静で、ほんのちょっと無口で、物静かな辺りは、少しフレイオージュと似ているかもしれない。 


 そして、彼女もフレイオージュと同じく、妖精との契約に成功した者でもある。赤く長い髪の女子型妖精が、ササリアの頭の上に止まっている。なんとなく羨ましい。


「……」


 ――このメンバーは……――


 これから何をするかはわからないが、ここにいる三人は、今年の士官学校二年生ではトップに位置する訓練生たちである。


 だから余計に気になる。


 この面子で、いったい第三期課題は何をするのだろうか――肝心の課題内容はまだわからないままである。


「あ、……だめ……」


 ササリアの妖精が、おっさんのケツにバンバン蹴りを入れていることの意味と同じくらい、まだわからないままである。





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― 新着の感想 ―
おっさん タイキック!!!
[一言] 面白い!! 作者の小説は全部最高です! 更新楽しみにしてます。
[一言] 「あ、……だめ……」 ササリアの台詞なんだろうけど、おっさんが言ってるのかと、一瞬思ったw
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