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19.第二期課題と訓練生の意気込み





 先触れのようにやってきた騎士を追うようにして、騎乗した十数名の魔法騎士たちと、エーテルグレッサ王国の紋章が入った馬車が三台やってきた。


 全員、馬に負担を掛けないための軽装備で、兜をかぶっていない騎士もいる。

 今回は護衛の任だけに、索敵と、もしもの時のために護衛対象と逃げる確率が高い装備を選んでいる。

 視界を塞ぎかねない兜を避けた者が多いのだ。


 フレイオージュ、エッタ・ガルド、アンリ・ロンは馬の手綱を持ったまま直立して、一行の到着を待つ。


 三人の前に馬車が並ぶ。

 そして、長い金髪を翻して止まる、一人の騎士。

 

 これ見よがしに長い足をピーンと伸ばして向こう側から持ってきて、馬から降りる細身の男性。


「……」


 気に入ったのか、妖精のおっさんが真似している。ピーンと足を伸ばしてエアで馬から降りたり乗ったりする。フレイオージュの目の前で真顔で見ながらやる。何度も何度も、途中で止めたり戻ったりしつつ何度もやる。高速でやる。繰り返す。やめろ笑うこっち見るな。


 そんなフレイオージュの個人的な戦いなど誰も知らず、むしろ初体面だけに場には少しばかり緊張感がある。


「おはよう、訓練生たち」


 微笑を讃えて、でもどこかいやらしい雰囲気を帯びて言う彼に、フレイオージュらは敬礼を返す。


 ここまでのこれだけで気障な性質であろうことは疑いようもないが、それが似合うだけの美形である。

「王子様と言えば誰だ」と問えば彼を選ぶ者も多いだろう。


 騎士団の中でも、一際人気のありそうな美丈夫である。


「僕は六番隊隊長セレアルド・フォージックだ。第二期課題の隊長でもある。しっかりやってくれ」


「「はっ」」


 三人が声を揃えて返事をするのを見て、セレアルドは満足げに、しかしいやらしさを醸し出しつつ頷く。


「君がエッタ・ガルドだね」


「はっ!」


「アンリ・ロン」


「はい!」


「そしてフレイオージュ・オートミール」


 一人ずつ、訓練生をいやらしい流し目で嘗め回すように見ながら視線を移していくセレアルドは、一際いやらしい目でフレイオージュを捉えた。


「――っ」


 今だにコミカルな動きを続けている妖精のおっさんを全力で無視し――

 フレイオージュが「はい」と返事をすると同時に、その声を掻き消すように馬車のドアがガチャリと開いた。


「おおい、セル。僕も挨拶した方がいいかい?」


 馬車から顔を出した青年は穏やかそうで、体格からしてもあまり鍛えられておらず、いかにも研究畑の人間という感じだ。


「……一応しておけば?」


 いやらしくない感じで、とてもつまらなそうな顔でセレアルドは一歩横に避けて、馬車から降りてくる者に場所を空けた。


「私はライフォー・ラッキンシュと言います。王宮錬金術師で、今回護衛を頼んだチームの代表です。候補生の皆さん、よろしくお願いします」


「「はっ」」


 代表者との面通しが終わると、一行はエーテルグレッサから旅立つ。


 向かうは西。

 アテマス山である。





「――ねえねえフレイ様! セレアルド隊長、かっこいいね!」


 行程は、やはり馬車に気を遣ってか、ややのんびりだ。


 すでにフォーメーションができている正規魔法騎士たちは均等に馬車を囲んで全方位を警戒し、付け合わせのような訓練生三人には殿を任されていた。


 そんな中、最初こそ気を張っていたがいいかげん退屈してきたのか、フレイオージュの馬にアンリが馬を寄せてくる。


「……」


 ――妹が好きそうなタイプだけど、私は……――


 と、フレイオージュが答えに窮していると。


「――おい、ちゃんと警戒しろよ」


 エッタも寄ってきた。

 さすがに大声で話すのは憚られるので、話すなら寄るしかないのだ。


「してるわよ」


「無駄口叩きながらか?」


「そうよ。フン」


 フン、とアンリはフレイオージュから離れていった。本人的にもあまり良くないとは思っていたのだろう。


「すいません。なんかこう、あいつむらっ気があるっていうか……不真面目じゃないんですけど……」


「……」


 ――まだ始まったばかりだし、まだ王都も近い安全圏だわ。気を張っていても仕方ないし、もう少し肩の力を抜いて気楽に構えていた方がいざという時に動けると思うの。人間の集中力はそんなに持続しないから。諸先輩たちもたくさんいるんだし気楽にいきましょう――


 ……とでも言おうかと思っていたが、すでにエッタもフレイオージュから離れてしまっていた。


「……」


 ――……――


 言おうと思っていた言葉を飲み込み、魔法騎士たちの歩みは続く。


 第二期課題は始まったばかりである。





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