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13.帰還と評価





 賊を捕らえた後、四日目の夜を野宿で過ごした翌日。


「やっと帰ってきたな」


「……」


 陽の高い昼頃、彼方にエーテルグレッサ王都が見えてきた。


 賊は拘束して後ろの馬車で引いて連れてきているが、フレイオージュは最後まで護衛として、御者席の隣に座り続けた。

 御者は交代制だが、今は隊長ディレクトが座っている。


「課題はどうだった? 今回は五日という短い期間だったが、こういうのは稀だ。通常なら一週間から二、三ヵ月くらいの遠征となることが多々ある。

 ガウロはひがみが強いようだが、過酷で命懸けの遠征ばかりしている一番隊と二番隊は、帰ってきた時くらい賞賛を浴びてもいいと私は思うがね」


「……」


 賞賛を浴びる浴びないなんて、どっちでもいいフレイオージュからすればなんとも言えないので、コメントは控えた。


「――俺らもモテていいと思いますけどね!」


 荷台からガウロの声が飛んでくるが、ディレクトもフレイオージュも無視である。


「いてっ……今後君は、いろんな課題いてっ、をこなすことになる。いてて、今言った長期に渡、てっる課題も出るだろう。……まあいろんな訓練生を見てきたいてっが、君ほどできる者はいなかった。君なら結果は自いてずと付いてくるだろうから、気負わずやりなさいてっ」


「……」


 フレイオージュは敬礼を返す。


 たった五日の付き合いとは言え、ディレクトは初めての隊長である。

 それだけに少しだけ思い入れができた気がするし、なんだか感慨深いものがある。


 たとえ頭にいっぱい花を飾られて、非常に華やかな中年男性になっていたとしても。

 妖精のおっさんは道中とても暇だったようで、ディレクトを飾り立てることに夢中だった。でも好みもあるようで、ガウロではダメらしい。いいかげんなようで変なこだわりがあるおっさんである。


「……」


 あとおっさん、ディレクト隊長の目に花を押し付けるのはやめなさい。ディレクトもいいかげん止めろ嫌がれ、と思ったりもしつつ。おっさんもわからないが受け入れがちなディレクトもよくわからない。おっさんとはお互いこういう生き物なのだろうか。おっさんとは多少の傷みは受け入れる人種なのだろうか。


「――なあフレイ、卒業前に希望部隊を問う書類が配られるんだけどよ。十七番隊って書けよ。俺らの雰囲気はわかっただろ。十七番隊なら結構気楽にやれるぜ」


「気が早いぞ、ガウロ」


「――でも隊長も欲しいでしょ?」


「欲しくないとは言わんがうぐ、すでに希望すっる隊がががぼ、あるかもしれんだろう。あまり圧を掛けるようなことはお、言うな」


「……」


 それこそ何とも言いようがないので、フレイオージュは黙って聞き流した。あとおっさん、しゃべってるディレクトの口に花を突っ込もうとするな。ディレクトもいいかげん嫌がれ。もういいかげん嫌がれ。


 特に希望する隊はない。

 出会いこそアレだったが、ガウロを始めとして、隊長ディレクトもヴァンスもマイアもよくしてくれた。十七番隊の任務内容も、きっと多岐に渡るのだろうと思う。


 やりやすそうではあるが、でも、課題を中心にこなす士官学校二年目は始まったばかりだ。

 まだ、なんとも答えられない。


「――隊長、いいかげん怒ってもいいんじゃないすか?」


 ついにガウロが言ってくれた。


「妖精のやることにいちいち怒っていてどうする」


 すでに怒っていいラインの度は越えていると思うが。

 まあ、何はともあれ、十七番隊の隊長は、大物なのだろう。





 夕方に差し掛かった頃、ようやく王都に到着した。


「お嬢さん、君はここまでだ」


 市門の前で馬車を止めると、華やかなディレクトが金色の硬貨を差し出す。


「これが君の課題の評価になる。士官学校に戻ってこれを提出してきなさい。それで第一期の課題が終了となる」


「……」


 曇りのないぴかぴかな金色の硬貨には、エーテルグレッサ王国の国花である紅蓮草が掘り込まれている。

 通貨ではなく、士官学校課題用の印である。


 下調べは入念にしているフレイオージュは知っている。


 課題ごとに、その隊の隊長から金、銀、鉄、銅、木の順で評価を受けることになり、これが最終的に魔法騎士となれるか否かの成績、あるいは功績となる。


「正直、非の打ちどころがなかった。経験不足の感は否めないが、それでもできる範囲のことを言われるまでもなくやっていた。口数は少ないが課題への意欲と積極性もあり、目立ったミスはなかった。対人トラブルも……まああれはガウロが悪いからな。

 魔帝ランクに恥じない結果だった。今すぐどこかの隊に入っても即戦力でも行けるだろう、というのが私の評価だ」


「……」


 その評価を聞くと、フレイオージュは馬車を降りて、敬礼を返した。

 凛々しく立つ候補生を、華やかな大男は微笑みながら見ていた。


 ――頭にできた花畑に横たわる小さなおっさんさえいなければ最後にちょっとがっかりすることもなかったんだろうな、とフレイオージュは思いながら踵を返すのだった。





 門の前で十七番隊と別れ、フレイオージュは一人で士官学校へやってきた。

 正門の前に、自分と同じく今帰ってきたのだろうという二年生たちが数名いた。お互いのこなした課題の情報を交換しているようだ。


 戦闘をこなしたのか、新調した装備や衣服が汚れている者もいるし、フレイオージュのように特に汚れとは無縁だったらしき者もいる。

 

 彼らはフレイオージュが帰ってきたのを見ると、話をやめて凝視する。


「オートミール君」


 校舎内に行こうと思っていたが、教師ゼペットは正門前にいた。どうやらほかの二年生は、評価を提出してそのままちょっと残っていた、という感じのようだ。


「……」


 今帰りました、という意味を込めて敬礼し、ディレクトから受け取った金色の硬貨を差し出す。


 金色が夕陽を反射して輝くと、フレイオージュを見ていた候補生たちが「おおー」と小さな声を上げた。


「確かに受け取った。今のところ金評価は君が初めてだ」


「……」


 恐縮です、という意味を込めて、フレイオージュは今一度敬礼を返す。


「疲れただろう。帰って休みなさい」






 こうして、魔法騎士見習いの第一期課題が終了した。


 魔帝令嬢フレイオージュ・オートミールは、最高評価を受けて課題をパスしたのだった。





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