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12.尋問と襲撃





「――お見事」


「――魔帝ランクは伊達じゃないな」


 縛り上げた賊二人を引きずる隊長ディレクトと馬車付近まで戻ると、マイアとヴァンスが小声でフレイオージュに声を掛けた。

 この二人も尾行に気づいていたようだ。


「俺全然気づかなかった……」


 ガウロだけ気づかなかったようで落ち込んでいるが、さておき。


「さて。おまえさんらは山賊だろ? 仲間はどこだ?」


 ディレクトはすでに、賊への尋問を始めていた。


「――なんのことだよ。俺たちはただ歩いてただけだ」


「――そっちこそなんなんだよ。いきなり襲って来やがって」


 当然というか往生際が悪いというか、賊はとぼけているようだ。


「ふむ……」


 ディレクトが振り返る。


「マイア、ヴァンス。道の先の様子を見てこい。――お嬢さん」


 命じた二人が走っていくのを見送ることもなく、ディレクトはフレイオージュを見る。


「尋問、やり方知ってるか?」


「……」


 首を横に振る。――こういうのは専門家がいるから知らなくていい、と父は教えてくれなかった。

 

「やってみるかい? いい経験になるぞ」


「……」


 少しだけ迷ったが、今は経験を積むために課題をこなしている最中だと思い、積極的にやってみることにした。





「――あ、てめえはさっきのガキ」


「――いきなり殴りかかって来た上に服まで脱がせやがって、どういう了見だ。街に着いたら訴えてやるからな」


「――そうだそうだ。俺絶対骨やってるからな! 牢屋送りにしてやる!」


 フレイオージュが前に出ると、小娘と侮っているのか、賊二人はどこか余裕を取り戻したのかへらへらし始める。


  ゴッ


 そのへらへらしている左の、比較的軽症らしい賊の顔に、まず蹴りを入れてみた。


 ――ディレクトからは「まずは思い通りにやってみろ」と許可を得ている。アドバイスはしてやるからと。


 なので、フレイオージュは自分の思う通りの尋問で、賊から情報を聞き出そうと考えていた。


「て、てめなにしっ、あっ、ちょまっ」


  ゴッ  ゴッ ゴッゴッ ゴッゴッ ゴッガッガッガッゴッ 


 蹴り蹴り、蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り、殴り殴り蹴り蹴り蹴り、蹴り蹴りと。

 

 弱い威力の蹴りと拳で、ひたすら暴行を加えてみた。

 後ろで「ひえぇ……」とガウロが引いていたのもお構いなしに、ひたすら無言でぼっこぼこにしてみた。


 視界の端で妖精のおっさんも真顔で震えていた。

 完全に引いていた。

 できればおっさんにはこんな自分を見られたくなかった。いつでも無邪気に踊っているおっさんでいてほしかった。


 だが、さすがに仕事なので仕方ない。


 要求も聞かない。

 言い訳も謝罪も懺悔も聞かない。

 ただただ理不尽な暴力が振るわれ続ける。


「……うぅ……う……」


 あっという間に顔中が腫れあがり、賊は呻くばかりで言葉を発しなくなった。


「……」


 フレイオージュの動きが止まり、もう片方(・・・・)を見ると、賊は「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。


「く、来るな! 来るなよぉ! あんたらこの狂った女止めてくれよ! なあ! なんでもしゃべるから!」


「……」


 ――狂ったとは失敬な。ものすごく手加減もしたのに……――


 フレイオージュは若干気分を害したが、尋問自体には成功したようで、あとは聞かれてもいないことをべらべらしゃべり始めた。


「……教えることなかったなぁ」


 尋問について教える気まんまんだったディレクトは、ちょっとがっかりしていた。





 ディレクトの読み通り、最近小規模の賊が流れてきたらしい。

 元は大きな山賊団で荒稼ぎしていたそうだが、騎士団に襲われて敗北、逃亡。彼らはその残党だという。


 人数は六人で、契約獣を使う二色の魔法使いが頭領で、過去の敗北から健在らしい。

 しばらくは力を貯えるために潜伏し、できるだけ目立たぬよう小さな商隊や少数の旅人を狙っていたそうだ。


「つまりあと四人いるわけか」


 だいたいの場所を聞くとディレクトには心当たりがあると言った。アジトの場所は、ここから山に入れば近いらしい。


 ちなみにこの先にある川辺でキャンプする者が多いので、その辺で夜襲を掛けるのがいつものやり方なんだそうだ。

 そこまで尾行して襲う相手の人数や構成を観察し、情報を持ち帰って狙うかどうか決めるとか。


 現にディレクトもそこで一晩明かすつもりだった。今回は囮役なので、セオリーに従って行動するつもりだったのだ。

 もし尾行に気づかなかったら、真っ暗な夜に襲われていたことになる。


「場所が近いのか。じゃあちょっと行ってくるか」


 尾行が見つかったことが賊側にバレていないなら、今ならこちらが奇襲を掛ける形になる。この機を逃す手はないだろう。


「ガウロ、こいつらの見張りと、戻ってきたヴァンスとマイアに伝言を頼む。私とお嬢さんはアジトへ向かう」


「わかりました。――気を付けてな」


 ガウロの言葉に頷き、フレイオージュはディレクトを追うようにして走り出――そうとしたところで、おっさんがいないことに気づいた。


 ふと振り返ると、さっきおっさんを捕食した同種の食虫植物に殴る蹴るの暴行を加えていた。


 どうやら暴行を働くフレイオージュを見て、引いていたわけではなかったようだ。

 ああすればいいのかと学習していたようだ。


 が、残念ながら見ている間に返り討ちに遭っていた。食われながら助けを求めるようにフレイオージュに手を伸ばしている。真顔が「はよ助けろ」と言っているかのようだ。というか言っていると思う。


「……」


「お? ……おお!? ちょ、待て待て! 食われてんじゃん!」


 だが、今は時間がない。


 ガウロにおっさんの救出を頼むと、もう小さな背中しか見えないディレクトを追い、今度こそ走り出した。





 制圧は、あっという間に済んだ。


 雨風をしのげる洞穴はまだ生活感が薄く、来たばかりだということが伺える。開けていない荷物も多く、これなら盗られた人にある程度は返却できるかもしれない。


 外に見張りが一人。

 中に三人。

 それと前情報通り、二色を持つ頭領の契約獣である赤耳狼が二匹いた。


 赤耳狼とは、ポピュラーな狼型の魔物である。

 一匹連れているのでもすごいのに二匹も連れているというのは、なかなか稀有な才を持っていたのだろう。

 こんな道に落ちなければ、ひとかどの人物になっていたかもしれない。


 だが、現実は無情である。


 見張りをフレイオージュが片付けると、中に侵入したディレクトがあっという間に制圧してしまった。


 そして、頭領が赤耳狼に乗って逃亡を計ったところで、待ち伏せのようになったフレイオージュが狼ごとねじ伏せた。


「あ、もう済んでる」


「出番なしか」


 終わった頃にやってきたマイアとヴァンスと一緒になって、荷を回収する。ちょっと時間が掛かりそうだ。



 ――今日の野営地は、予定通りとなりそうだ。





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