00.魔帝令嬢フレイオージュ生誕祭
その日、オートミール家は二度の喜びに見舞われた。
長女フレイオージュ五歳の誕生日にして、フレイオージュの魔力が覚醒した日である。
そのランクは、魔帝。
誰が聞いても「え? 今なんて?」と二度三度聞きはしてしまうこと請け合いの、驚愕の魔帝ランクである。
一色の魔法使い「ただの魔法使いランク」は、それなりにいる。
二色の魔法使い「魔鳥ランク」は、まあまあいる。
三色の魔法使い「魔王ランク」は、かなり珍しい。
四色の魔法使い「魔竜ランク」は、非常に珍しい。
そして、「魔帝ランク」。
驚異の五色を有する魔法使いである。
国を興した祖の者、強大な厄災を退けて人々を守ってきた英雄、人類の守護者とも言われた者であり、数百年に一人生まれるかどうかという才覚である。
生まれながらの英雄、生まれながらの勝ち組である。
しかもオートミール家に抜かりはなかった。
才ある者は才に溺れる。
才ある者ほど堕落や我欲、悦楽に染まり、悪逆の限りを尽くす暴君になる事例が多いのは、歴史から学べることである。
才能はあくまでも才能。
人間性や道徳心、教養には関係がないのである。――いや、むしろ脇道に逸れる誘惑が多いのかもしれない。
故に、鍛えた。
人の道を説き、偉人の言葉と教えを説き、もちろん才能を開花させる魔法の訓練も充分にさせた。
それこそ、五歳の子供には厳しすぎるほどに。
魔帝の子供が誕生したと知れると、自国の王族からも他国の王族からも、有力な家からも、世界に名だたる豪商からも、結婚の申し込みが殺到した。
それ以外で、無理やりにでも手に入れてしまおうという不届き者もいた。
そんな本人の知らないところで外敵が多くなったフレイオージュは、文字通りの意味で、自宅という箱庭の中で、完全管理されて育てられたのだった。
そして、十年の月日が流れた。
「――フレイ様、いってらっしゃいませ」
「「いってらっしゃいませ」」
魔帝令嬢フレイオージュ、十五歳。
今日からエーテルグレッサ王国魔法騎士団士官学校所属。
優に十年ぶりの外出であった。