アリス
「あに言ってんの! アンタントコの家は元々内の神社の氏子だったのよ、それがバテレンの宗教なんかにかぶれちゃって、まったくもうだよ! まったくぅ」
「えー! 元々神社の氏子?」
そんな、お婆ちゃんはそんなのこと言ってなかったよー。
「もういいわっ、大体のことは聞いてるから。男と恋仲になりたいのね?」
あ、そんなストレートにー。
クネクネと左手で受話器のコードをもてあそぶ。
「そうなんですよぉ、私今までづっと失敗続きでぇ・・・・・・今度こそっ、と思って一生懸命に祈りました」
「そう、アタシに丸投げしてきたこの学校を管理する神は落ち込んでいたわよ。根負けしたって」
「はい、頑張りました」
フン! とガッツポーズをとる。
しかし手話機からはー。
「でもざぁ~んねん、無理ね諦めなさい」
「えっ、なんでですか、なんで諦めなくてはいけないのですか」
私は少し低い声で受話器に問いかける。いきなり諦めろなんて、それはないでしょ?
「当たり前じゃ無い! 歳を考えなさい、相手には妻子も居るそうじゃない。どうしようも無いわよこんなの」
震える手で受話器を支えギュッと力を込める。
「そんなの分かってます! だから、だから・・・・・・神様に、お願いしたんです」
「ぐぇ! 受話器の首締めないでよ」
「あ、ごめんなさい」
あわてて込めた力を緩める。でも諦めろなんてー。
「フウ、・・・・・・そうね、こんなの神様じゃ無いと無理な相談よね」
そ、それってー。
「叶えて、もらえるのですか?」
「フフン、仕方無いわねアタシを誰だと思ってるの? アリスノヒメちゃんよ、アタシが本気になれば簡単よ。本気になれば、の話しだけどね」
「あ、ありがとうございます!」
電話機に45度の敬礼をっ!。
「フ、フフーン、任せなさい!」
あ、少し受話器が反り返った。
「それじゃあ手始めに相手の守護霊と話しを付けましょうか。あ、だいたいアンタの守護霊はどうしたのよ? 普通は守護霊の案件よこれぇ」
えっ? 守護霊? また知らない単語が出た。いや、どっかでぇ。
「えっと守護霊、様? ですか」
「そうよ、アンタの守護霊はたしか・・・・・・、あっ! 小夜子だ、小夜子かぁ」
受話器の向こうで考え込むのが分かった。小夜子? 誰だろう聞き覚えがあるような、ないような。
その時校歴史室の入り口から私に声が掛けられた。
「誰だ無断で入っているのは、こんなに薄暗いのに電気も点けないで。ん? 君はー宮崎さん? どうして君が」
校歴室に入って来たのはー、ええっ! 私の思い人この学校の副校長神崎先生だった。
「せ、先生! なんで先生がこんなー」
「主事さんが校歴室のカギが無い、と言っていたので調べに来たんだ。まさか君がカギを? それにそんな壊れた電話で一体誰と話してるんだい?」
「あ、いえ、これはー」
どうしよう、神様と話しているなんて言ったら病院送りよね。
その時突然受話器から大きな声が発せられた。
「ああっ! 小夜子、こんな所に居たぁ!!」
「キャ!」
慌てて受話器を耳から遠ざける。耳が壊れるかと思った。
「出て来なさい、あなた達守護霊は依り代が無くても実体化できるでしょ?」
神崎先生の後ろ、まだ夕日が微かに残る天井付近からスゥッ、と二つの人影が現れた! お、お化け!
一人は赤い袴の巫女姿で、後ろで髪を束ねた三十前後の女性。もう一人は袈裟を着た切れ長の目をした超美形の僧侶しかしどことなく少しナヨッとしていた。因みに神崎先生はお坊さんの線を太くして黒くした感じの一応美形なの。
「アラ、そのお声はアリス様! どうしたんですか? こんな所でぇ」