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8.虫の魔導師

(まったく、寝過ごさないって約束したのに……)


 リリナは一人、レンシアを探して校内を歩いていた。

 ついに彼女は、授業に姿を見せなかった。クラスメート全員が察してしまった。

 レンシアは寝過ごしてしまったのだと。

 授業に出なかったレンシアについて、体調が悪いからと午後から休みを取った――そういう事にした。


「いつかこうなるかもって思っていたし……対策しなかった私にも責任があるわ……」


 リリナはそういうところで律義だった。

 本来ならば昼寝をしていて寝過ごしたなど、助ける余地もない事なのだが。


(まあ、オルティナさんはまだ六歳なんだし……)


 リリナは真面目だが、小さな子には相当甘い。

 きつく見えるようになっているのは、本当にリリナの事を心配しているからだった。

 魔法の天才であり、大貴族の娘――けれど、レンシアは別に特別ではない。

 小さな子と変わらずに眠くなるし、話せば特別な事なんてないと分かる。歳は少し離れているが、リリナはレンシアの事を友人だと思っていた。


(うーん、どちらかと言えば手のかかる妹、のような気もするけど……)


 リリナはそんな事を考えながら、レンシアが行きそうな場所を探す。

 裏庭の木々の陰から、中庭のベンチ――レンシアが昼寝をしそうな場所はいっぱいある。

 どこで昼寝をしているか分からないというのは、ある種猫のような子だった。

 レンシアに猫耳や尻尾が生えているところを想像すると、


「ふふっ……」

(かなり似合ってるかも)


 レンシアは六歳という年齢を考えても、将来美人になるであろうと予想させる風貌をしている。

 魔法の実力に関しても、正直嫉妬しないと言えば嘘になる。

 それでも、どこか応援したくなるような子だった。


「そういえば……寮のすぐそばの森の中も昼寝にはいいとか言ってたっけ」


 レンシアが昼寝をしにいくのに、そこまで離れたところに行くかどうかは微妙だった。

 授業でもそうだが、レンシアは体力が非常に低い。

 それは周知の事実であり、ここ最近一緒に過ごしているリリナが良く分かっている。

 寮の階段ですら――レンシアにとっては億劫なのだから。


(休みの日に一緒に走ってあげた方がいいのかしら……)


 ふとそんな事も思い立つ。

 レンシアは嫌がるかもしれないが、それも彼女のためだ。後で提案してみよう、そう思いながらリリナは寮の方へと向かう。

 もう今日の授業は終わっている。

 どのみち、寮の方には帰る予定だった。

 ただ、寮の方にもいなければレンシアはまだ校内のどこかで寝ているという事になる。


(うーん……でも校内にはもういなさそうだし……寮の方に行ってみよう)


 リリナのレンシア探しは続く。

 寮の近くの森――と言っても、そこまで広いわけではない。

 木々に囲まれたその風貌から、森という呼ばれ方をしているだけだった。

 レンシアはそこもお昼寝をする場所として気に入っているらしい。

 リリナが思いつく場所は、そのくらいだった。


「オルティナさん、いる?」


 森の中に入って、リリナはレンシアを呼ぶ。

 まだ少し、距離を置くつもりだった名残がある。

 初めはライバル視するつもりだったから、名前を呼ぶつもりがなかった。

 けれど、リリナとしてはそろそろ名前で呼んでみたいと思うところもあった。


「……レンシア、さん!」


 そう、名前を呼んでみる。けれど、返事はない。

 レンシアがまだ寝ているのだとしたら、呼んでも返事はないのかもしれないが。


「どこに行ったのかな――」


 リリナが振り返ったところで、ドキリを心臓が跳ねる。

 先ほど通った道に、見知らぬ男が立っていたからだ。

 否、男と断定するのも難しい。男物のスーツを着ているが、肌という肌は包帯に巻かれて見えない。

 目深にかぶった鍔の広い帽子が特徴的だった。


「おや、随分と小さな子が来ましたネ。《結界》にわざと引っ掛かれバ、ここに来るとは思っていましたガ」

「あ、あなた……学園の関係者じゃない、でしょう」

「その答えはイエス、ですヨ。では、ワタシの質問にも答えてもらってもいいですカ?」


 そう男の声が聞こえると同時に、瞬時に男が眼前に迫る。

 リリナは反応する事すらできなかった。


「ワタシの《虫》を殺したのハ、あなたですカ?」


 ガッと男がリリナの首を掴む。

 その力は異常に強く、リリナの事を片手で軽々と持ち上げた。


「あ、くぅ」

「質問に答えてもらってもいいですカ?」


 答えようにも、リリナは男の言っている事が理解できない。

 それに、首を絞められていては答えられない。

 状況も理解できないままに、リリナの意識が徐々に薄れていく。


「困りましたネ。この程度の子にワタシの虫が殺されたなんテ……」

「――虫を殺したのは私ですよ。その子は関係ありません」

「レン、シアさん……?」


 その声には聞き覚えがあったから、名前を呼んだ。

 意識を失う寸前に見えたのは、左目だけが赤く光る人陰だった。

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