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7.体力のなさすぎる少女

 翌日から早速授業が始まった。

 特に、レンシアは飛び級で入学したためか、本来ならば色々なオリエンテーションが用意されているところが、レンシアは普通に授業を受けている。

 初日から、魔法に関してはやはり頭ひとつ抜き出ていた。

 カッ、カッと黒板に手を伸ばしながら、レンシアは魔法陣を書き上げる。

 先ほど習ったばかりのものを復習するためと言われたが、レンシアは何も見ずに書き終えた。


「はい、とても綺麗に書けていますね。素晴らしいです」

「ありがとうございます」

「「「おおー」」」


 教室内では小さな歓声が上がった。

 一部、魔法の授業は教師がローテーションで受け持っている。

 担当の教師も含めて、レンシアの完璧な魔法陣に感心していた。

 レンシアは覚えるのが異常に早い――そう思ったのかもしれないが、


(まあ、大体の魔法陣は覚えてるからな)


 しかし、時代の流れというものもある。

 レンシアの知らないこの百年ほどの間に、書き方の変わった魔法陣もある。

 それは改めて覚えなければならないところもあったが、別段覚える事は苦ではない。

 起きていられるかは別だが。


「レンシアちゃんやっぱりすごい……」

「背伸びしてるのかわいいよねっ」

「でもさっき寝てたよね……何で覚えてるんだろ」


 そんなレンシアを称賛しているのかよく分からない言葉も含めて、教室内からは聞こえてくる。

 リリナもレンシアの実力については驚いているようだった。

 六歳にして、中級魔法をすでに会得しているなど前例がない。

 文字通りの天才なのだと、周囲には思われている。

 それだけの天才であれば――周囲が気にして距離を置く事も考えられたが、レンシアは弱点がすでに露呈している。


「ふわぁ……」


 まずは眠気――これに関しても他の追随を許さないほど強く、歴史を学ぶ授業では自身の話を子守唄に寝てしまうという暴挙に出た。


「レンシアさん、次のページを読んでください」

「……」

「レンシアさん!」

「っ!? 魔神か!?」


 当然、教師から何度も起こされている。起きるたびの寝言が敵襲だの、魔神だのというのが少し話題になっている。

 レンシアは授業では起きている事ができない。授業後にも、その事をリリナに指摘される。


「寝ないって約束したでしょう?」

「……ごめんなさい」

「謝ればいいと思っているの?」

「……はい――じゃなくて、そんな事思ってないです」

(くっ、人の心が読めるのか、この子は……)


 やはり、レンシアにとってリリナは少し相性の悪い子だった。

 リリナ自身も魔法に関しての知識は広く、中級までの魔法は広く使えるらしい。普通に見れば、彼女も天才の部類に入るだろう。

 そんな彼女には、授業中の居眠りに関して毎回監視される事になっている。

 次に、レンシアの弱点となるのは魔法ではなく剣術の授業だった。

 アルトだった頃には、剣を扱った事がないわけではない。

 英雄と呼ばれる者達は、魔法に特化していたとしても武術に関してもそれなりに精通している。剣を扱った事がないわけではないレンシアだったが――


「はひっ、ひぃ……」

「レンシアちゃん、大丈夫……?」

「大丈夫――じゃ、ないです」


 授業が本格的に始まる前の走り込みで、すでに虫の息だった。走り込みが終わると、レンシアはその場に倒れ込む。

 もはや動く事もままならず、心配した教師によって保健室に運ばれる始末だった。

「け、剣術なんて生きていくのに必要ないです」


 保健室で休むレンシアのそんな悲痛な声は、保険医の耳によく残った。

 レンシアの体力は赤ちゃん並み――そんな不名誉な言い方までされる始末である。

 四回生からは外出を含めた授業もあり、レンシアをこれからさらに苦しめる事は明白だった。


(これが週に五日もあるのか……)


 二日の休日は存在しているが、とてもレンシアの身体が持ちそうにない。

 レンシアはお昼の休みには昼寝をするのを日課とする事にした。そんな生活を始めて一週間が経った頃、だ。

 クラスの面々からも魔法の天才であると同時に、マスコットのような存在として認識され始めたレンシアはお昼休みにふらりと立ち上がる。

 レンシアを引きとめるように声をかけたのは、リリナだった。

 クラスの中では、リリナはレンシアの事を一番気に掛けている。

 同じ部屋で暮らしているというのもあるが、どこか抜けた性格のレンシアが気になって仕方ないらしい。

 レンシア自身、そういう子が近くにいると助かっていた。


(できれば養ってほしい……)


 そんなダメな考えを持つのが、レンシアの本当にダメなところだ。

 リリナは九歳という年齢ながら、しっかりとしている。

 どこかの村出身だという事だが、レンシアと同じくらいの歳にはもっと小さい子の面倒を見ていたという事だろう。

 レンシアとしては一緒にいて助かる反面――苦手な部分もあるの良い塩梅であった。


「オルティナさん、次は移動教室だけど、場所は分かってる?」

「大丈夫ですよー。私はちょっとお昼寝してくるので……」

「いや、それはもうここ最近で分かってるけれど、遅れたらダメよ?」

「はーい」


 レンシアはそう答えて、教室を後にする。

 昼休みになると、毎回お昼寝と言って姿を消すのが日課になっていた。

 いつもギリギリまで戻ってこないため、リリナどころかクラスの面々もいずれ寝過ごすのではないかという懸念を抱いている。

 ――そして、今日それが現実となったのだった。

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