6.お風呂に二人
気が付くと、レンシアはリリナによって身体を洗われていた。
ごく自然な流れで座らせられて、そのままリリナがレンシアの身体を洗っている。
(……まあ洗われる事には慣れてるけど)
もっと幼い時代に経験積みの事だ。
オルティナ家に仕える侍女達によってよく洗われていた事は記憶に新しい。
そのときは正直眼福だと思った。女性の裸をそんなに見る機会などなかったが、合法的に見られるのならそれは悪くない、と。
ちらりとリリナの方を見る。
かつて《導きの聖女》と呼ばれた少女はその豊満なボディで人々を導いてきた、わけではないが、主に胸のあたりは大きかった。
それに比べるとリリナはすとーん、である。もうそれだけで伝わってほしい。
年齢を考えると妥当なのだろうか。
「どうしたの?」
「いえ、なにも!」
ニコリと笑顔で返すレンシア。
彼女にはそういう事は気にせずにいてもらいたい、と思うレンシアだった。
身体を洗い終えて、ようやく湯船に浸かる。
レンシアとしては熱いお風呂に入るのが好みだったが、家でもレンシアの事を思ってかぬるい風呂ばかりであった。
そして、それはここも同じだった。
(……ぬるいなぁ)
一人ならば、風呂の温度を上げるくらい造作もない事なのだが、ここは共同スペースだ。
さすがにレンシアの都合で変えるわけにもいかない。
(まあ、これはこれで……)
肩まで浸かると、いい具合に温かくなってきて眠くなる。
すぐにうとうととし始めたところで、
「オルティナさん、大丈夫?」
「ん、大丈夫……」
眠ってそのまま湯船に入る事を気にしたのか、リリナが声をかけてきた。
リリナはレンシアのすぐ隣に座っている。
「何ていうか、オルティナさんは思っていた子と違うのね」
「そうですか?」
目を瞑ったまま答える。
レンシアは少しだけ間を置いて答える。
「貴族の娘さんで、魔法の天才だから、もっとワガママだったりするのかと思った」
「あはは、そんな事ないですよ?」
「うん、普通に女の子だった」
実際には何もしたくないというとんでもないわがまま思考を持っているわけだが、それは表に出していない。
リリナの言うワガママな貴族というのは、少なからず存在している。
だが、それはどちらかと言えば貴族と呼ばれているだけで家柄として何かをやっているわけではない、というところが多い。
「ワガママな方が楽だったのになぁ」
「楽……?」
「そ、飛び級入学する子が嫌みな方が、私としてはこんな奴に負けないってもっとやる気出せると思った」
「やる気、ですか?」
「そう。私はこう見えて、学年ではトップの方の成績なの。だから、あなたがうちの学年に来るって聞いた時は驚いたわよ」
こう見えて、というか何となくそんな気はしている。
リリナは真面目な顔でそう言ったあと、表情を崩してレンシアの方を見る。
「けれど、あなたは村の小さい子達と変わらないんだもの。むしろ、ベランダでずっと寝てたなんて村の子よりすごいかも、入学式でも寝てたでしょう。あっ、村の子ていうのは私の住んでいた村の事はなんだけど……」
リリナはとても饒舌だった。
真面目そうな印象だったが、それは無口というわけではない。
ただ、彼女の口振りから少なくとも入学前のレンシアにライバル心を燃やしていた、という事は分かった。
現実はその少女が、レンシアのような入学式でも寝てしまう子だとは思いもしなかったのだろう。
「でも、授業中は寝たらダメだからね?」
「はい、大丈夫です」
「本当に? 寝てたら起こすからね」
「……はい」
でも、根はやはり真面目だった。
大丈夫、と答えるレンシアだが、間違いなく大丈夫ではない。
リリナを見ていると、あの時のメンバーを思い出す。
人間であった二人以外は、おそらく今も存命しているだろう。
会いに行こう、と思わなかったわけではないが、レンシアの年齢を考えると一人で姿を消すと間違いなく大問題になる。
だから、会いに行っていない。
(……まあ、いつかは会いに行って、驚かせてやるか……)
そう考えながら、レンシアの頭がこくりこくりと揺れる。
「オルティナさん……?」
「……」
「オルティナさん!」
「ひゃい!?」
リリナの声で、眠りそうだったレンシアは目を覚ます。
気が付くと、レンシアの身体をリリナが支えていた。
「もう、沈みそうだったから心配したわ」
「ご、ごめんなさい」
「もう眠い?」
「正直かなり……」
レンシアは早寝だが、寝る時間は長い。
リリナは「ふぅ」と小さく嘆息すると、
「もう出ましょうか。寝る前だから今日は夕飯はいいけど、明日はしっかり食べてね?」
「分かり、ました」
眠そうな表情でレンシアは答える。今日のところは、何とか眠りにつけそうだった。
風呂から上がって、五階までの階段を見るまでは。
「……外から行ってもいいですか?」
「外?」
思わずそんな本音が漏れるレンシアの一日目だった。




