20.召喚師
コリンとフォウルが向き合った形となる。
すでに魔虫はおらず、一対一での決着をつけようとしていた。
致命的となる一撃は全て避けたコリンだったが、それでもダメージはある。最初に受けた一撃が、この戦闘中に残り続けていた。一方のフォウルには、まだ余裕がある。
実力だけで言えば圧倒的にコリンの方が上だったが、フォウルはもう油断はしていない。堅実に、だが確実にコリンを仕留めようと仕掛けてくる。
コリンは小さく息を吐く。
「ふぅ……」
「……虫が消えてから五分か。どうやら、カーキルさんは負けちまったらしい」
「……」
ふとフォウルはそんな事だったのだ。
コリンも気付いている。
魔虫が消えたのは、レンシアのおかげだという事も。そして、レンシアがカーキルに勝利したという事も、それとなく感じていた。
だから、ここで負けるわけにはいかない。
「負け、認める?」
「いや、そうはならねえ」
フォウルが再び構えた。
カーキルが負けたと判断しても、なお戦闘は続けるという事だ。
「分かった。大丈夫、ただの意思確認」
コリンも頷くと、剣を鞘に納める。
フォウルが怪訝そうな表情でコリンを見た。
「おい、なんで片付けた?」
「違う。あなたの意思を尊重してる」
コリンはそう言うと、わずかに腰を落とし、柄に手をかける。
向き合ったままの表情は真剣だ。
「なるほど、そういう構えか」
フォウルがにやりと笑い、地面を蹴る。
両の拳に集められた魔力は、岩をも粉砕する一撃となる。
コリンはギリギリまで動かなかった。
だが、フォウルの拳が眼前に迫ったとき、
「《一の型・疾風》」
サァと風が吹くような、静かな音だった。
お互いにすれ違うように、交差する。
ピタリと、二人の動きが止まった。
その後、キィンと再び鞘を剣に納める音が周囲に響く。
「……意外だな。そういう事もできたのか」
「わたし、剣士だから」
「そうか……」
フォウルが肩から腰にまでかけて出血する。がくりと膝をついて、その場に倒れ込んだ。
だが、その瞬間にフォウルを光が覆う。
「……!? なに……?」
「《逆召喚》――指定した所へと送り込む事ができる魔法です」
コリンの背後から声が聞こえると同時に、振り返り様に剣を振るう。
だが、それは大きな岩の腕によって阻まれた。
腕だけが空間から生えるように出現し、その中心にはローブに仮面を付けた人物がいる。
声はこもっていたが、女性という事は分かる。
「あなたは――違う。あなたが召喚師」
「私の存在にも気付いていたのですね」
「そう。でも、現れるならリリナの方だって言ってた」
「言ってた、ですか。まあ、確かにそれが普通なのでしょう」
そう言う女性からはどこか、優しげな雰囲気があった。
女性は周囲を確認するように見渡す。そして一言、
「私は子供達が好きなので、こういう作戦は好かないだけです」
「どの口が……!」
コリンが一度距離を取り、今度は女性目掛けて切りかかろうとする。
だが、その前に周囲を光が覆った。
「残念ですが、私は後を引き継ぎにきただけですので、戦うつもりはないのです」
そう言い残して、その場から跡形もなく二人は消えた。
残されたコリンは、その場に膝をつく。
「……ギリギリ。まだ修行が必要、かも」
もしあのまま戦っていたら、負けていたのは自分の方かもしれない。
そう、コリンは感じていた。
遠くから、人の声が聞こえてくると、コリンはレンシアと約束していた合流地点へと向かった。
***
「がっ、はぁ」
ごろりとフォウルが地面に転がる。
そこは、見覚えのない部屋だった。
目の前に立つのは、これも同じく見覚えのない人物。
「あんた、は……」
「カーキルが死にました」
「やっぱ、そうか」
フォウルが天井を見上げる。カーキルとは長く手を組んだ間柄だった。
それがこんなにも呆気なく終わる。それも、あそこにいた幼い少女達によって、だ。
「はい。ですから、これからあなたは私の部下となります」
「……カーキルさんがあんたに協力を仰いだのは知ってるが、あんたは虫を呼んだだけだろ」
「十分協力したと思います。本当なら、ああいうやり方は嫌いなのですから」
女性はそう言いながら、見下ろすようにフォウルの前に立つ。
カーキルのやり方は、確かに褒められたものではない。
だが、そもそも旧帝国の持つ考えを持ってすれば、カーキルのやり方は正しいと言えた。
フォウルの懸念点は一つだ。
「……自分の古巣だからか?」
「勘違いしているようですが、古巣ではありません。私は今も、あそこの教師であり、生徒達を愛しています」
仮面を外して、女性は笑みを浮かべた。
彼女が生徒を愛している、それが本当だからこそ、彼女は歪んでいるのだろうと、フォウルは感じたのだった。




