14.襲来
「そろそろ休憩にしませんか?」
「はやっ! まだ学園出たばかりでしょう!?」
レンシアの発言にはリリナも驚いていた。
まだ学園を出てこれから町に繰り出す、そんな状態での発言だった。
「私はがんばったと思うんですよ?」
「レンシアさん、もっとがんばろう?」
わざわざ視線を合わせるように屈むリリナ。
やはり、そんな簡単にレンシアを甘やかしてはくれなかった。
体力もなく、ニート願望のレンシアが出かける決意をしたからといって、一朝一夕で変われるものではない。むしろ、変わる気もなかった。
「ほら、ゆっくりでいいから」
「はい……」
手を引かれてレンシアは歩き始める。
端から見れば完全に駄々をこねる妹とあやす姉のようだったが、
「あれ、レンシア様じゃない……?」
「本当だ。もうあんなに大きくなられたのだな」
レンシアはやはり、町の中でも有名だった。黒髪というのはここでは非常に目立つ。
それにフェンドール学園に入学した事もすでに知られている。
目立たないわけがなかった。
「やっぱりレンシアさんって有名なのね」
「主に家が、ですけどね」
「ふふっ、オルティナ家のご令嬢がこんなにすぐ休みたがる人だって知ったらどう思うかしら」
「うっ、それは少し困ります……」
「冗談よ。でも、もう少しがんばりましょうね」
いたずらっぽく笑うリリナに、レンシアも小さくため息をついた。
なんだかんだ言っても、二人の仲は良好だった。
リリナがレンシアの面倒を見たがるのは彼女の性格であり、見られる事を嫌がらないのはレンシアのダメな性格に起因する。
レンシアは最初、相性は悪いかと思っていたが上手くやれていた。
「公園とかどう?」
「子供がうるさいので……」
「あなたも子供でしょう。それなら、裏通りの方がいいかな……」
「リリナさん、結構詳しいんですね」
「ここに来たとき、恥ずかしい話だけど興奮したもの。こんなに大きい町があるんだなーって。建物なんて、どれも村にあるものよりずっと大きいのよ。驚きもするわ」
確かに、地方の出身者が王都に来ると面を食らうかもしれない。
レンシアの屋敷も何かの施設か、というくらい広い。広すぎてレンシアからすれば、十分の一くらいに抑えてほしいと考えるくらいだ。
レンシアとリリナは裏通りの方へと入っていく。
表通りに比べると閑散としているが、ここは他に比べても治安がいい。子供二人がこういうところに来たからといって、何があるというわけでもなかった。
花屋など、普通に経営している店もある。
どこもかしこも石造りでできた町並みは、百年前に比べればとても整備されていた。
もう、魔神のいた頃とはまるで違う平穏がそこにある。
(あのカーキルとかいう奴さえ倒せば……)
もうすぐライナもやってくるはずだ。
彼女がいれば、おおよその相手は倒してくれるだろう。
レンシアもそれくらい信頼はしている。
「レンシアさんはどういうところが好き?」
レンシアがそんな事を考えていると、ふとリリナからそんな問いかけがあった。
「自室みたいところ、ですかね」
「ものすごくピンポイントで突いてくるのね……レンシアさんの自室って寮みたいな感じ?」
「まあ、そんなところです」
実際、屋敷ではまだレンシアの部屋という部屋はなかった。
なぜなら、大体レンシアの側に侍女が待機していたからだ。
あの時は侍女に言えば必要な事はやってくれる、そんな楽な生活を送っていた。
「んー、静かな場所って事よね」
「そうですね、誰も来ないなら最高ですっ」
「本当に寝るのが好きなのね……」
「はいっ」
「背中に枕背負うくらいだものね」
そう、レンシアは背中にカバンのように背負っているのは、枕だった。
一見するとカバンのように見えなくもないが、黒い革製のベルトで固定しているだけに過ぎない。
「枕が変わると寝られないのでっ! 」
「そこって嘘つくところ?」
少しあきれた表情で言うリリナ。
レンシアは別にどこでも寝られる、それは授業で証明されている事だった。
休める時にはとことん休む、休めない時でも休む。
今のレンシアの考えはそこにあった。
リリナは少し考えたあと、思い付いたような表情で言う。
「そういえば、奥の方に図書館があったわ」
「図書館、ですか?」
「うん。そこなら人がいても静かなだし……まあ枕が許されるか分からないけど」
「リリナさんは図書館に行きたいですか?」
「……意外と鋭いのね。そ、私が行きたいの」
レンシアが問いかけると、リリナは素直に認めた。
学園の図書室も充実はしているが、全ての本を扱っているというわけではない。
それこそ、学業に必要だと思われるものが基本だ。
普通に楽しむための本なら、買うか図書館に行くのが普通だろう。
「でも今日はレンシアさんのお昼寝スポット探しだからね」
「いえ、図書館で構いませんよ」
「え、でも枕使えないかもしれないよ?」
「持ってきておいて何ですが、そこまでこだわりはないので。屋上でゆっくりさせてもらいます」
「屋上に入れるかどうかは確認するのよ?」
「もちろんですっ」
笑顔で答えるレンシアだったが、確認する気などさらさらなかった。
理想を言えば、王都内にある時計塔の頂上などは寝る場所には最適だった。
もちろん、鳴らない時間に限ってだが。
「それじゃあ、図書館の方に向かいましょうか」
「はいっ」
二人はそのまま、裏通りを歩いて図書館の方へと向かう。
実際のところ、レンシアがそろそろ休みたかったという事実が一番の理由であったという事は秘匿された。
「結構広いのよね……」
図書館につくなり、そう呟くリリナ。
三階建て構造だが中心部は吹き抜けになっており、その本の多さもよくわかる。図書館は、それなりの広さがあった。
「では、私は屋上にいますので」
「あっ、ちゃんと許可取るのよ?」
「はーいっ」
そう答えながら、リリナと別れた。
レンシアはそのまま、トコトコと歩いて外へと向かう。
(階段は疲れるからこっちだよな)
幸い、ここらは人通りも少ない。建物の外側から《風の鎧》を身にまとって地面を蹴れば、問題なく屋上へといける。
トンッとレンシアは軽くジャンプする。
それだけで、屋上はすぐそこまで迫った。
「さーて、今日は天気もいいしお昼寝タイムを楽しんじゃおうかなぁ」
「――よお、待ってたぜ」
ようやく休める――喜んでいたレンシアの耳に男の声が届く。
屋上へと辿り着く寸前のレンシアの眼前に拳が迫っていた。




