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13.ベッドが私を離さない

 ――学園にも休日というものは存在する。五日間は登校しなければならないが、二日間は寮で過ごす事が許される。

 もちろん、届け出さえすれば外出も可能だ。

 レンシアが外出届けを出す事はよほどの事がない限りなかった。

 休日でも学園内では購買がやっていて、必要な物は購入できる。

 そもそも、寮では依頼さえすれば大体の物が頼めるのだ。最近よく送られてくるものといえば――


 可愛いレンシアへ。

 元気にしているかな、父さんです。

 今日は騎士団で会議がありました。

 お前にもいつか騎士団の仕事をする事になるかもしれないから、いまのうちに――


 パタンと手紙を閉じる。

 この手紙は三日に一度送られてくる。

 ――父、ゴードンのものだ。

 どうしても、ゴードンはレンシアと話したいらしい。

 お休みの日だけでも屋敷に戻って来ないか、なんて事も書いてあったりする。


(でも一日潰れるのはなぁ……)


 戻ってもいいのだが、寮から一度家に帰れば少なくとも戻ってくるのは夜頃になってしまう。

 最初の休みならばいいが、ゴードンが休みなのは大体レンシアの二日目の休みの時だ。

 そこの日にレンシアは意地でも出かけないで部屋にいる、という強い意思があった。

 朝、レンシアは目覚めて一度も身体を起こしていない。

 すでに三十分以上、ベッドの中にくるまっていた。


「……」

(この何もしない感じ、最高だな)


 ごろごろしているだけで幸せな気分になれる。何かしないといけない気がするけれど、何もしないというのがいい。


「……ふぅ」

「ふぅ、じゃないでしょう。いつまで寝ているの?」

「あと三日ですっ」

「授業始まってるじゃないの!」


 けれど、レンシアのルームメイトはそんな自堕落な生活には苦言を呈す。

 寝過ごしによって授業をさぼってしまって以来――リリナの監視は少しずつ強化されていた。

 特に、レンシアが起きているにも拘らずごろごろしていると必ず話しかけてくる。

 彼女にとっては、起きているならば身体も起こすべきだというのが普通のようだ。


(そんな子供みたいな理論……まあ今は子供だけど)


 レンシアはまだ六歳――これから色々な事をできる年齢だ。

 その上でレンシアが望むのは何もしないで楽な生活を送る事。

 悠々自適に生きていたいのだが、魔導師としても大成しなければならない。

 そんなジレンマをレンシアは抱えている。


(……どうにか対策考えないとなぁ)


 魔導師として有名になりつつも働かない方法を、レンシアは時折考えていた。

 どこかの組織に所属して偉い立場になったからと言って、仕事をしなくていいわけではない。

 むしろ普通の人よりも忙しくなる。

 騎士団長なんていうのは、もってのほかだった。

 ゴードンは、レンシアにそういう職についてもらいたいと思っているところもあるのかもしれないが。


「休みの日でもたまには外に出てみない?」

「えー」

「露骨に嫌そうにして……レンシアさんは体力ないでしょう? だから、体力付けができるメニューも考えてみたいんだけど」

「……体力付け、ですか?」

「そう! いっつも眠そうにしているけれど、体力付けば大丈夫だと思うの」

「私はそういうのはいいですよ」


 リリナの発想自体は間違っていないのかもしれない。

 けれど、眠くならないための努力をリリナがしたいわけではない。

 むしろ気持ちよく眠るための努力ならいくらでもしたいのだが――


「いい案だと思うんだけど……」

「リリナさんは休みの日は出掛ける事が多いですよね」

「そうね。せっかくなら買い物とか……まだ町中も全部見れていないから興味があるの」


 リリナは小さな村の出身だと言っていた。

 そこで、《銀の剣聖》と呼ばれるライナと一緒に過ごしていた事になる。

 彼女なら、戦いが終わった後はそれこそそれなりの役職に就くものだと思っていたが、田舎でゆったりとした生活を送っていたのだとしたら、もしかしたらレンシアに近い思考を持っているのかもしれない。


(……なんて、そんな事あり得ないな)


 ライナは今、旧帝国の残党と戦っているのだから。

 レンシアも知らなかったとはいえ、もしも生きていたらその対応はさせられていたかもしれない。

 今のレンシアは、そのために動くつもりはなかった。


(どういう目的で動いているかも分からないしな)


 目的さえ分かれば、動きようというものはある。

 ただ、できれば穏便に事を済ませたいというのがレンシアの気持ちでもあった。それが通じる相手ではない、というのも分かっているが。

 ふとリリナの方を見ると、出かける準備をしていた。

 どうやら今日も外に行くらしい。


「今日も出かけるんですか?」

「え、そうだけど……何かある?」

「いえ、そういうわけではないのですが……」


 リリナが何か思いついたように、レンシアの下へと近寄ってくる。

 ベッドの横には、わざわざレンシアと話すために椅子を配置している。


「レンシアさんもたまには一緒に外に行きましょう?」

「でも……ベッドが私を離してくれないんです」

「微妙な言い回しをしてくるのね……。でも、レンシアさんにとってもいいと思うの」

「……いいと言うと?」

「外でお昼寝スポット巡りをしましょう!」

「お昼寝スポット?」

「そう、まだ行った事のない場所もあるでしょう?」


 ぴくりとレンシアが反応する。

 確かに――レンシアは王都で暮らしてはいるが、実のところあまり屋敷の外には出ていないために暮らしているのに詳しくはない。

 それこそ、学園周辺など最初に来たばかりで見ていないからだ。


「そういえば寝るのに丁度良さそうな場所もありましたね……」

「ほら、それなら一緒に行きましょうよ!」

「いや、でも私は外出申請していないので……」

「ふふっ、一人出していれば同行者が認められるのよ?」

「そういう事ですか……うーん……」


 出掛けるか出掛けないか、レンシアにとっては大きな岐路に立たされていた。

 仮にスポットを見つけたとして、そこにわざわざレンシアは行くだろうか。

 むしろ寮のベッドという場所が最高であり、それ以上の場所など存在しないのではないか、と。


「迷うなら一回だけでも行ってみましょう?」

「……そう、ですね。たまにはいいかもしれないです」

「やった! 決まりね」


 いつになく嬉しそうなリリナ。

 レンシアが出掛けるというのがそこまで嬉しいのだろうか。六歳にして、レンシアは重い腰を上げる。立ち上がろうとして四つん這いになり――ふにゃりとうつ伏せに倒れた。


「ちょ、今起きたでしょう!?」

「ベッドが私を――」

「そういうのいいからっ」


 レンシアは、リリナでも簡単に持ち上げられるほどに軽い。ひょいっと身体を支えられると、レンシアは無理やり立ち上がらされてしまう。

 そのまま順当に寝巻を脱がされて、着替えまでテキパキとさせられる。

 リリナの手際は想像以上にすごかった。

 あっという間に出掛ける準備が出来てしまったレンシアは、リリナに手を引かれて寮の外へとやってきた。

 休みの日――外に出る事になるとは思わなかった。


「それで、どこに行くんですか?」

「そうね……一先ず、学園の外に出てお昼寝スポットを探しましょうか」

「えっ、本当に探してくれるんですか?」


 実際のところ、レンシアを出掛けさせるための口実だと少しだけ思っていた。

 ずっと言われるとレンシアも困るので出掛けたのだが。


「私、嘘はつかないわ。今日はレンシアさんに外での楽しみもしってもらおうと思って外にきたんだから」

「気合い入ってますね……」

 レンシアとリリナ――二人の少女の休日の昼寝スポット探しが始まろうとしていた。

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