墓参りしたら王がいた
今日もいつも通りのシュリのぎゃあぎゃあを聞きながら朝食。
もう慌てない。
シュリの「ぎゃあぎゃあ』をBGMにゆっくり朝食。
昨日、瞳を褒めたらでれでれしだしたけれど、料理を褒めたらどうなるんだろう?
う〜ん、去り際だけにしておこう。食べてる最中は危険だ。
朝から鳥の半羽唐揚げとはシュリらしい。旨い。
鳥を半分にして油で揚げたものだが大きいわ。なんの鳥だろう?ここに半分ということは残りの半分は?シュリが食うのか。また育つぞ、乳が。それに腹も。カナは夕飯の残りから自分で自分の食事を調理するらしい。バトラーは宿舎で別に食べる。カナはバトラーには作ってやらないと言ってた。
カナもシュリもお互いの作った料理は食べないらしい。あいつら仲悪いなあ、まあ仕方ないか、あれじゃあな。
そして、こってりした朝食が終わり、玄関を出る時に言ってみた。
「トリ料理美味しかったよ」
あ、またもじもじし出すシュリ。
料理褒められてもにょもにょしてる。単純だなあ。
この調子だと飲みに出たら毎回お持ち帰りされちゃうぞ。ああ、そう言えば胸の事を言うと修羅になるんだった。オンかオフしかないのか!
と、シュリがバトラーに何か嬉しそうに報告してる。
そして2人で中に入っていった・・・
放っておこう。
さてと。
軍の施設に行ってはみたけど、今日もやることがない。宇宙に行く道具の製作は時間がかかるらしいし、難しいらしい。宇宙いきたくないなあ。そもそも行けるのかな?
何もないならウチに帰ろうかと思ったけど、またシュリとバトラーが致してたら嫌なので施設周辺をブラブラしてた。
広いねえ。
軍の皆さんが仕事してたり、倉庫みたいなのが有ったり、役場みたいなのが有ったり。
歩いていても誰も俺を気にしない。召喚された俺に式典とか新聞取材もなかったしね。俺、死ぬかもしれないから公にはされてないんだろう。
あ、お墓だ。
この国のお墓は円盤状のレンガに文字が掘られていて、それに塗料がつけられている。故人の名前とかだろうね。国が違ってもお墓ってなんとなく判るよね。
いくつも並ぶお墓。ここは墓地だろう。
そして、端に小さな墓がみっつあった。名前も書かれてない。墓石も只の石。
その前で祈りを捧げる男。
「おはようございます」
「おはよう、昨日はありがとう」
端の小さな墓に祈りを捧げていたのは王だった。
「どなたのお墓ですか?」
王は少し考えた。言いづらいのだろう、でも答えてくれた。
「勇者達だよ」
嫌な感触が胸に走る。
俺の前に召喚され、そして命を落とした勇者達。
俺もここの仲間入りをするんだろうか?
「この国のせいで死んでしまった勇者達だよ。最も遺骸はないんだけどね。皆、吹き飛んだり何処に行ったか分からないから。墓の中にはベッドから拾った遺髪が入っているんだ。将軍も博士も誰も墓参りをしない。僕と数人が来るぐらいだよ。何をしても非難される僕だけど、勇者の墓参りは皆見て見ぬふりだよ。いつもは騒ぐ人達が勇者の墓だけは見ぬふりをするんだ」
「死んだ勇者を思ってくれる王は良い人だと思います」
「良い人じゃないよ。僕がもっと頑張れば止められたかもしれない。バカにされてようが王だしね。それどころかまた君を召喚するのをただ見ていただけだったんだから。もっとも実際は見てなくて報告をもらっただけだけど。君には死んでほしくないよ、良い人だし」
良い人?
三時間一緒に窓を眺めただけだ。ピンチを救ったわけでもないし、学校の仲良しでもない。仕事の同僚でもない。
一緒に窓を三時間眺めただけでこんなに想われるとは・・・
「勇者とは仲良しだったんですか?」
「三番目の勇者とはよく窓を眺めたよ」
ああ、三番目の勇者よ。
君も王を哀れと思ったんだね。会ったことないけど君は好い人だ。何故君は死なねばならなかったのだ。
ああ、魔王のせいだった。
「その勇者はどうして死んだんですか?」
「そうだね、悲しい出来事だったよ。彼を乗せた発射機が壊れたんだよ。晴れた日だった。
発射機は大きかった。白く長い機械だった。博士の号令の後、物凄い地鳴と轟音がして、その後機械が空に向かって射ち上がったんだ。翼もなく反動を作る弓もないのに真上に飛ぶんだ。どんどん空に登っていって彼は宇宙に行くのかと思ったけれど、登ったさきの空が黄緑色に光ったんだ。それが彼の最期だったよ。空から部品がバラバラ落ちてきたけど、彼の身体は何処にも無かった。博士の見解は『燃え尽きた』そうだ。一瞬で勇者の丈夫な身体が燃え尽きるってどんな炎なんだろうね。僕には想像つかないよ」
「それ、どういう仕組みなんですか!」
「僕にも解らないよ。博士に聞いて」
「博士は何者なんですか?想像もできない物を作るみたいですが。博士も召喚されたのですか?」
「博士の事はよく分からないんだ。この国の者ではないらしい。いつの間にか現れて、いつの間にか軍を自在に操っていて、いつの間にか議会より偉くなってたよ。でも新聞は博士のことは書かないんだ、でも博士の要求する記事は書くんだ。人々は博士を知らないんだそうだ、ここではこんなに偉くて有名なのにね」
「まるで博士が魔王みたいですね」
「しっ!駄目だよそんな事言っちゃ。議会も軍も新聞も博士の味方なんだから」
「気を付けます。ちょっと話をしませんか?ここなら周りの人間が関わって来ないんでしょう?」
「なんだい」
「予言をする占い師の事を知りませんか?」
「ああ、多分リボン・ハミルトンの事だね。彼女の何が知りたいんだね?」
「何処に行ったら会えますか?」
「どうしてだい?」
「その占い師が少し前に勇者についての予言をしたんです。でも、解らないことだらけで、もっと聞きたいんです」
「ああ、そういうことか。何を言われたんだい?」
「うちのメイドに向かって『勇者と結婚して子供を産む』と言ったんです」
「凄い!そのメイドは可愛いのかい?君は好きなの?」
「とても良い娘です。好きかと言われても、まだ数日だし、最近まで妻も居た身ですし。それに私も死ぬかもしれないから」
そう、博士の打ち上げ機が失敗して死ぬかもしれない。
「そうだね。もう僕にはなにもできないけど君を打ち上げる計画は進んでるらしい。こればっかりは王や勇者が頑張っても仕方がない。言い方は悪いが、君の命は博士次第だ。
それでその占い師に会いたいんだね」
「はい。なにぶん予言の情報が少なすぎるんです。勇者というのが私なのか、彼女が幸せになれるのか。彼女は魅力的です。でも『彼女の勇者』が私でないならば、私はこのままなにもしないで宇宙に行こうと思います」
「それは『彼女の勇者』が次の勇者かもしれないと思っての事かい?」
「はい」
「予言の内容知らない方がいいんじゃない?君がその娘を気に入ったなら君の思うがままにしたら?そのメイドは君の事を好きなの?」
「分かりません、懐いてるとは思います。でも彼女には予言のせいで別れた彼が居たらしいんです。それを思うと辛いです」
「そうかい、簡単には決着しなそうだね。流石に城から出れない僕は占い師の居場所は分からないよ」
「そうですか」
「僕の占い、いや予言もあるらしいんだ。直接聞いたんじゃないんだけどね、僕はこの国の最後の王なんだってさ。僕の家の血筋から王は出ないらしい。それどころか王制では無くなるんだろうね。
僕はいつもその意味を考えるんだ。ただ王位剥奪されるのか、或いは暗殺されるのか。クーデターかな?それならまだ良い。国自体がなくなって最期の王とかでないなら」
「王にもそんな予言が」
「僕もいろいろ聞きたい。でも、占い師はその事はその時しか言わないらしい。聞き直しても無駄らしいよ。
まさかこの国丸ごと終わるなら、魔王が関わってるのかな?頭の上を征服されてるなら脅威だしね。軍も議会もそれを恐れてるのかもね」
最期の王。
悲しい存在だ。
そして民からも議会からも無視された存在。
そしてそのあと墓掃除をする王は楽しそうだった。恐らくは彼に許された少ない仕事。勇者の墓の後に掃除してるのは王族の墓なのだろう。
俺は挨拶をしてその場を離れた。
王は笑顔で見送ってくれた。
翌朝、王の訃報を聞いた。
死因は心臓発作と発表された。