4年後
雲の上に出ると眩しい世界が待っている。
下界の雨が嘘のようだ。
翼の下は雲海。
いつまでもここに居たい。
帰りたくない。
そんな気持ちになるのは何度目だろう。
機体をロールさせ旋回する。
基地と遠ざかってしまうから。
このエンジンも3年で5世代目。
初代に比べて使いやすくなった。
初代エンジンはとんでもないじゃじゃ馬。
重いが超コンパクトで圧倒的なパワーを誇った。
小型機にも簡単に入ってしまう。だが、重さ故にガス欠でカットオフされると激ムズの操作性。
初代エンジンを積んだ機体はフルパワーを与えられることはなかった。
圧倒的なパワー。翼が破壊される速度。
その後機体も強化され、益々重くなった。
エンジンが動いている間はいい。
重い機体を軽々と垂直上昇させるパワーがある。
燃料切れを起こしたならば舗装のいい滑走路でも死を覚悟するほどだ。進入速度が速すぎるからだ。
このエンジンの設計者はカナ。
その設計図から博士が作った。
カナはかつて私を地獄から連れ出した人。
圧倒的な強さを持って居た。
『勇者』に挑んで勝った伝説の人。
私の名はミナ。
あの地獄のただ一人の生き残り。
このエンジン、博士に言わせれば『カナなら平気で乗りこなす』
冗談じゃない。
天才の基準で設計されたら困る。
ただの女の私じゃ扱える代物ではない。
博士がデチューンを繰り返して漸く乗れる代物になった。
機体に積んでまともに使えたのは3世代目から。
4年前。
命を救われた。
一度は生きる道を選んだ。
だが、暫くして自殺未遂を繰り返すようになった。
死にたい。
生きて居たくない。
いや、消えて無くなりたい。
これだ。
最初から居なかったなら楽だった。
『死』それが一番近い感覚。
ある日、カリーナ博士がやって来て、私にこう言った。
「死んでもいいと思うならテストパイロットにならないか。死んでもいい奴を探している」
変な事を平気で言う。
私は博士の手を取った。
テストパイロットは命をすり減らす仕事。
試験機や新規パーツのテストが私の仕事。
訓練機も量産機ももう乗ることがない。
あんなに毎日死ぬ事を考えて居たのに、空の上では生還する事に必死になる。
データを持ち帰ることはとても大事だ。
だが、実際はアクシデントを本能で楽しんでいるのかもしれない。
あの日、カナに言われた。
「1月経っても死にたいなら死になさい」
実際、自殺未遂を繰り返した。
だが、生きて居た。
あの日蘇ったのは生きる希望じゃない、動くエネルギーだ。
何の因果だろう。
今は生還する事を楽しんでいる。
燃料が切れた。
一発勝負の着陸に向け、雲の下に向かった。
生きて着陸できれば、今日は久しぶりに軍に来るコウくんに会える。
そろそろ終わります




