できる?
「無事か?カナ!」
家に入って来るなりコーは私を背にしてかばい冒険者に向って立った。
ああ、あの空に上がった4発の鶴亀波はコーに届いたんだ・・・無駄じゃなかった。
冒険者達は驚き、そしてアタシに加勢が付いたことで更に不利になったと思っただろう。
コーの他にも数人の気配が増えている。コーの他にも応援が来ている!
コー、大きな背中。
大切な人。
穢れ無き人。
アタシの心配なんか要らないのに。
「ケガは無いかカナ!」
心配なんか要らないのに。
アタシは貴方の次に強いのに・・・
今のアタシなら小隊ひとつだって軽く相手できるのに。
それでもアタシを心配してくれる、アタシを女の子扱いしてくれる。
「ケガは無いかカナ!」
「大丈夫よ」
分かりきった事を答えた。
アタシは心配される価値が有る?
血に染まってしまったアタシ。
コーが振り返り私の顔を見る。
不安そうなコー。
強い筈なのに何をそんなに心配しているの・・・
ザザッ!
後ろで気配が動いた。
あの子だ。
あの子が怯えた目でコーを見ている。
ああ、男が怖いんだ。でもコーは大丈夫と言わなければ・・・
「コー、奴らを見張ってて」
「ああ」
女の子に向き直り後ずさって遠のいた分だけ近寄る。
そっと、手を握ってみる。怯えて逃げないだろうか?
そのまま背中を掴んで引き寄せる。
よかった。
「怖がらないで。この人は勇者。正義の味方で助けに来たのよ」
「正義の味方・・・」
「私たちの味方。貴方に酷いことは絶対にしないし、良い人よ」
「なら」
少女はコーを睨んだ。
「あいつを殺して! あいつ! あいつがウチに来ること決めたの!あいつが全部決めたの!全員は駄目なんでしょ!だったらあいつだけでも!あいつ!」
怒鳴り散らす少女。
『あいつ』と言われたのはあのボスらしき奴。
呆然とするコー。
少女の口から『殺して』なんて聞くとは思わなかったっんだろう。
人殺しなんていけないことだことだ。当たり前だ。
殺しを頼むこともいけないことだ。当たり前だ。
だが、この少女は当たり前の世界でないところに居たのだ。
綺麗事なんて気休めにもならない世界。
「くそ!」
ボスが突然走り出す!
冒険者をかき分けて入って来た廊下に駆け込もうとするが途中で立ち止まる!
後ずさりしながらボスがゆっくり戻って来る。
軍だ!
廊下の向こうからボスに立ちふさがったのは味方。
この部屋の向こうは軍に制圧されたようだ!
コーと一緒に来て居た気配は軍だったのか。誰か来たと感じていた。
もはや逃げられないボス。
「殺して!」
悲痛な叫び。
「お嬢さん落ち着こう。殺してほしいなんて言うもんじゃないよ」
優しく諭すコー。
そうじゃないよ、コー。
「まさかあいつらを助けるの?生かすの?」
「そうじゃない。取り調べと裁判をするんだ」
「死刑になるの?」
「判らない」
自信なさそうなコー。
コーに判る筈がない。
「そいつは死刑になるよ」
見かねた軍の人が言う。
死刑。そうだろう。
女の子が悔しそうにコーを睨む。そして、
「じゃあ、今殺して!」
どうしていいかわからないコー。
「どうしてあいつは好きな時に好きなように私達を殺すのに、あいつは好きに殺しちゃだめなの!」
「待って!」
「何!」
「私が殺してあげる。それでいいわね」
頷く女の子。
「駄目だ、カナ!」
「なら、コーがしてくれる?」
「・・・・・」
「コーなら多分私より我儘がきくわ」
「それは・・・」
「やっぱり殺せないの?」
「それはちゃんと調べて・・・よく考えないと・・・」
そして、その後は処刑はないまま事件は収束した。
赤目石の在処は解ったが、半分は既に転売されて居た。
残りの半分は寝かせるつもりだったらしい。
この場所以外の冒険者も芋づる式に逮捕された。
逮捕者は運ばれ、家族の生き残り2人手当てされ、8人は埋葬された。
私達が言い合いをしている間に隣の部屋で少女の姉は息絶えた。
彼女を死に至らせたのはボス。少女の姉は救いのない日々の末死んだ。
だから少女はあんなにも殺せと言って居た。
数日後、最初に救助された女性も自殺した。自分の現状に耐えられなかった。
生き残りは11歳の少女だけになった。
彼女が生きる気力を取り戻せたのは自分で冒険者を滅多斬りに出来たから。
だからあの時、目に光が戻った。
アタシはあの時明らかに間違っている事をしたのに、あの子にはそれが救いだった。
自殺した娘も同じ事をすれば自殺せずに済んだんだろうか・・・そう思い、ひとり常識はずれな後悔をした。
数日が忙しく過ぎた。
取り調べにも狩り出された。
なんてったってアタシは人間嘘発見器だから。
アタシは罪に問われなかった。
それどころか裁判も取り調べもされなかった。
私が失踪した時から博士が根回ししてくれたらしい。
聞いたことがない役職がいつの間にかアタシに付いていた。
『殺人許可証』
それがその役職に付随する資格。
「カナの考えてることくらい私にだって判る。必要だから与えた。役に立っただろう」
博士はそう言った。
役に立った。そうかもしれない。
嬉しくはない。殺すだろうと思われていたわけだし。
そして数日後、私はコーと博士の前で言った。
あの農家の一件以来ずっと考えて居たこと。
「コー、宇宙に行ったとして魔王を殺せる? 魔王が人と同じように生きてて、喋ったり笑ったり、痛がったりしてたら? 魔王が3号と同じ顔をしてたら? コーは魔王の心臓を刺せる? ちゃんと迷わず悩まず殺せる? 躊躇ったりしない?」
「カナ、何を考えておる。はっきり言ってみよ」
いや博士、本当はわかってるでしょ?
そう、今から言うのは博士に向けてではなく、コーに向けてだ。
「宇宙には私が行きます。コウは魔王を殺せません」