数日経ってようやく王と会談
ぎゃあぎゃあ騒ぐシュリ。
また朝食準備を眺めてたら『胸ガン見してる!』って大騒ぎ。
あー、はいはい。
見てましたよ。見ても見なくても騒がれるなら見たほうが得だわ。
うん、大きいわ。バトラーも経験済みのメロンがゆさゆさ。
でもね、カナが怒るといけないから手は出しません。カナとシュリのどちらを取るかと尋ねられたらカナだな、やっぱり。
ぎゃあぎゃあ喚くのはいいけど、朝食に唾飛ばさないで。
朝食はシュリが作った筈。肉とか芋とか油ものが多い。クリーム付のデザートまである。俺のメイドさんは調理もして、多めに作って自分達の分にする。このメニューはシュリの好みだね。乳が育つわけだわ。腹も育ちそうだけど。
んで、夕飯はカナが作ってる。カナの夕飯は量より味な感じ。そしてさっぱりめなメニュー。
正直、朝食をカナが作って、夕食をシュリが作るのがいいんじゃね?
『シュリは胸以外を誉めるとイチコロ』というバトラーの言葉を思いだし試してみた。
「シュリ、綺麗な瞳だね」
突如変化が!
さっきまでぎゃあぎゃあ騒いでたのにぴたりと止まり、初恋に悶える小娘のように嬉しそうにもじもじするシュリ。頬は赤く、潤んだ目で此方をちらちら。
いかん!
悪いスイッチ押してしまった! バトラー、あんたこの手を何度使った!
マズい!今日も大急ぎで口に朝食を押し込み、家を出た。
ふう、ドアの外でため息。
「おや、お試しになりましたな」
声の先には庭木の剪定をするバトラーがいた。彼の名はブルツ。
あ、その位置から中が見える! 見てたのか、このおっさんは!
「ブルツの言うとおり胸以外を誉めたら大変な事になったよ。このままではベッドに押し倒されそうだ」
「それならば、おっぱいでかいねと言えば大丈夫。そう言えば怒って離れていきますよ」
「単純過ぎる・・」
「シュリとベッドインまでこぎ着けたのに、胸の事を言ったばかりに全身血だらけになるまで殴打された者も少なくありません。おきをつけ下さい。マジギレしますから」
「いや、シュリとはしないから」
「そうですか。ではカナと」
「いや、それもどうだろう」
ーーーーーーーーー
今日もいつもどおりに軍の施設に来てみたが、博士は居なかった。
博士は今日は宇宙にいく道具を作ってる所に行ったそうだ。複雑な道具なのでやることが多く、今日はずっとそっちに居るだろうという。つまり暇だ。
「コウ様、こちらに」
なんか畏まった人が来た。
聞けば、王の使いだそうだ。
まあ、勇者だから王様に呼ばれるよね。初日は会えなかったけど忙しかったのかな?
言われるがまま案内されるがままに歩いて宮殿に行く。案内された先は王の執務室。そこに佇む真面目そうな王が俺を出迎えた。王様は中年だが壮年にも見える。バトラーと同じくらいかちょっと年上かな。衣装はそれなりに良い布だけど、キラキラはしていない。
「コウ殿、少し話を」
静かに王は言った。優しい声。
「いい天気だね」
「そうですね」
「お茶をどうだい」
「いただきます」
「鳥が飛んでいるね」
「そうですね」
「お茶がおいしいね」
「おいしいですね」
なに?
会話が弾まない。
なんか魔王討伐を激励するとか、元の世界の話を聞かれるとかじゃないの?これじゃ、老人の日向ぼっこ。
堪えられない。
「あの?用事とかは・・・?」
「何もないよ」
「では何故私を?」
「一度くらい顔を見たほうがいいと思ってね」
「それだけですか?」
「それだけだよ」
「・・・」
「・・・」
「暇なんだ」
「暇・・ですか」
「やることがないんだ、でも、遊んでいると国をあげて僕を責めるんだ。小説を読んでも怒られる。花見をしても怒られる。政策審議も辞めてしまって全権手放したよ。何を言っても議会と市民団体から責められるんだ。王ってなんだろうね」
「王でもですか?」
「王でもだ」
「なにかしたらどうでしょう?」
「何も出来ないよ。以前、絵画コンクールを開いたら市民団体から毎日デモをされて中止にしたんだ。反社会的的作品が有ったとか、税金がどうとか。中止にしたら中止にしたで費用が無駄遣いになったと責められてね。政治からも行事からも手を引いたんだ。あんまり暇でジグソーパズル始めたらそれは税金の無駄遣いだってやめさせられたよ。今は椅子に座ってただ前を眺めるだけの毎日だよ。今日は君が居てくれてとても嬉しいよ。お茶だけだけど我慢してね。茶菓子を出すと市民団体がデモを始めるんだ」
「・・・」
王様哀れ。
執務室を見渡せば、棚には資料。
あとは何もないよ、本も無ければ絵画もない。
そこで王はすわって前を見てるだけ。
「あの・・」
「なんだい?」
「私の事はご存知で?」
「勇者だよね。報告は聞いたよ。ごめんね、君にも元の生活があったろうに。でも僕が決めたんじゃないんだ。僕はいつも報告を聞くだけ。僕の意見が何かに反映されることはないよ」
「そうですか、そろそろおいとまを・・・」
「もう少し居てくれないかな。無理にとは言わないけど」
寂しそうな王の顔。
哀れな王に付き合って、俺はそのあと三時間も窓の外をただ眺めていた。
暇だ、暇過ぎる。これを毎日しいられるのか。
別れ際の王は何度も俺に感謝を述べていた。前の世界で戦争に勝った後より感謝された。
執務室を出た後、側近さんにも涙を流して感謝された。なにもしてないのに。
そして去り際に言われた。
「宜しければたまにおいでください」
えー、またじっと何時間も窓の外を眺めるの?
でも、王が可哀想過ぎて断れなかった。
もし俺が何かを成し遂げて多少の権力を得れば王に何かをしてあげられるんだろうか?
俺が生きていられればだけど。