若き修羅
視点がカナに変わります。
風下の丘の頂に座る。
大嫌いな血の匂い。
この匂いを嗅ぐ度に奴等への怒りが何度も燃え上がる。工場を襲撃したときの返り血の匂い。
匂いを振り撒いてる本人達がその匂いを感じないとは。
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初めて人を殺した。
地方の町で偶然見つけた冒険者。食料の買い出ししている二人組。あからさまに買い物量がおかしい。車一杯の荷物。しかもいろんなものがごちゃ混ぜだ。問屋の車の荷台ならもっと整理されてる。
ギルドの冒険者の買い出し部隊か。
奴らの進路に単身立つ。
魔王達は出て来ないように言っておいた。
私に邪魔され車を止めた冒険者。
降りてきて下衆な笑みをしながらアタシを値踏みする。女1人だと思って油断してる。女がちょっとぐらい強くても倒せると思ってる。
こいつら臭う、くさい。
右の男が下品な要求を言いながらアタシの胸を掴もうと手を伸ばす。
お前などに触らせる気はない!このクズ死ね!
アタシの蹴りがそいつの芯を捉えた。
放物線を描いて10メートル先に落下する冒険者。
確認もせずに蹴った。
だが、アタシの直感は『クロ』だと囁いた。
残った1人に問う。
「工場を襲ったな」
「し、しらん!」
嘘か。
アタシは人の感情が読める。嘘くらい簡単に判る。
「お前はあの日何人殺した?」
「しらん!殺して無い!」
必死な冒険者。
証拠がなけれは助かると思ってる?
「1人?」
「殺して無い!」
「2人?」
「本当だ、殺して無い!」
「3人?」
「そもそも冒険者じゃない!」
「そう、3人なの」
冒険者は顔がひきつった。
地面に横たわる冒険者の方を見る。まだ生きてるか。
「あの男は何人殺した?1人?」
「・・・・」
「2人?」
「・・・・」
「そう、2人ね」
青ざめた顔でアタシの顔を見る冒険者。ガタガタ震えている。
心を読まれた恐怖か?
怖いか?
助けて欲しいか?
あの日の工場の人を殺したお前が助けを願うか?
あの襲撃以外でも悪事をしている筈だ。今までの冒険者生活で何人殺してるやら。
助けを願う者も殺しただろう?
人類の存亡のために働いていた軍職員を目先の利益の為に殺しまくる冒険者。その顔を見ているだけで頭が、いや、全身が怒りで沸騰しそう。
「アジトに連れて行け」
「・・」
冒険者は無言で逆らう。
アタシは横たわる冒険者に鶴亀波をぶっぱなす。
頭が破裂して中身が飛び散る。これが人生初めての人殺し。
離れてて良かった、汚い。
自分でも不思議なくらい罪悪感は無かった。
死体はビクンビクンと痙攣している。さっきまで生きてたか。死んだ真似は判っていたわ。
鶴亀波を撃った右手を目の前の冒険者の頭に向ける。
「連れて行け」
冒険者はガタガタしながら頷いた。
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風下の丘の頂に座る。
魔王達と4人でギルドの冒険者のアジトを囲む。
畑の中の農家の家。
綺麗で壊れや穴など無い。
恐らくは最近まで普通に農家が住んでいた筈だ。今は血生臭さと男の匂いしかしない。いや他の匂いもする、7人分の死体の匂い。それと別に3人の女の匂い。この匂いは・・・・やはり冒険者はクズだ!
そうか、農家に押し入って7人殺して3人性奴隷にしたか。
魔王達には冒険者か包囲を出ようとしたら撃てと言ってある、なるべく威嚇で。アタシはまだどうしようか悩んでる。
案内させた冒険者はアジトに行かせた。中の連中に伝言をさせた。
「殺されるか全面降伏するか選べ」
奴等どうでる?
魔王の中で一番探知能力が高いのは3号。建物を囲む4人の配置、3号が私の対角。1号2号が左右に。私達4人は冒険者から丸見えだろう。わざと見せてるのだがな。
3号と通信する。
『3号、中は何人に見える?』
『マスター。25人で、3人女です』
『アタシも同じ。なら間違い無いわね』
『マスター。そっち臭くないですか?
あ、男が出て来ます。こっちからです』
『相手しておいて頂戴。殺すなら読んでからね』
『了解です。黒棒ガンなんて持ってますよ奴等』
『気を付けてね』
『大丈夫です』
3号なら大丈夫だろう。
黒棒ガンは弓のレールと矢に黒竜石を盛り込んだ飛び道具。矢に黒竜石を仕込んであり、飛距離も出るし重くて威力がある。普通の人間なら避けることも出来ないが反応が速い私達なら大丈夫。
『マスター』
『なに?』
『軍に知らせなくて良いのですか?』
『そうね』
私は一発だけ空に鶴亀波をぶっぱなした。誰か気付くだろうか?
『なら私も』
3号が同じように空にぶっぱなす。
『お供します』
そう言って1号2号も覚えたての鶴亀波を空に撃った。
合計四発。
コーは気付くだろうか?
わからない。
今は会えないと思いながらも会いたいと思ってる。私の本心はどっちなんだろう?
決まっている。
『マスター』
『どうしたの?』
『人質を連れてます』




