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カナ突入!

「おう、勇者。久しぶりだな」



 警備課の詰所で、前に会った捜査員のおじさんを呼び出して貰った。

 おじさんは『山さん』と呼ばれてるみたい。

 ぼりぼりとズボンの中をかきながら現れた山さん、寝てたのかな?宿直?夜だもんな。


「すいません!うちのカナが山さんに連絡つけろって!」


「カナ? おお、あの強ええ娘か。今度はなんだ?」


「いやその冒険者になんかやらかしそうで心配ーー」

「コウさん!」


 と、言い始めてたのに遮られた!

 見れば1号が居た!


「なんだ!カナになんかあったか!」




「ターゲットの奥さん発見しました!」


「なにい!」


 早いよカナ!

 俺、今詰所に着いたばかりだよ!

 なのにカナはもう奥さん見つけたの?しかも1号を伝達に走らせてるとか!


 あ、

 山さんや職員さんが1号の頭に釘付け。

 ツノ生えてるもんなあ。ちと、褐色気味の肌だしなあ。

 魔王だもんなあ。

 軍の工場の人たちは見馴れてるけれど、警備課の人達は知らないか。


「山さん、大丈夫。味方です、カナの部下です」


「あ、ああ、カナちゃんの味方か・・」


 と、納得しつつもツノに視線は釘付け。

 そんなことより、山さん達にクラークスさんと奥さんと冒険者の話をまだしてない! 早すぎるよ1号!

 大急ぎでクラークスさんのあれこれを説明した。

 そしてまた逮捕劇があるだろうとカナが言ったこと。

 1号は待たされてる。


「カナちゃん、何者だ!」


 まったくだよ。


「見てください、マスターからです!」


 1号は机の上にあった紙をとって裏返し、ペンをとり何かを書き始めた。見取り図?地図? そして、そこに印をつけ始める。


「マスターの伝言です。『椿屋はギルドの売春宿です。○が女。×が冒険者。□がギルド員。すぐ制圧して』と、言われました」


 俺と山さんは顔を見合わせた。そして紙を見る。暗記力すげえ。

 紙には建物の見取り図、しかも一階から四階まで書かれている。そこに◯×□の印。なんて細かい情報!

 ギルドの売春宿。女達は殆どが冒険者に誘拐されたか違法な借金でがんじがらめにされたかで警備課からは摘発対象になっている。


「三隊と四隊集まれ!直ぐ出るぞ!松はここで後から来た奴に伝えろ!そこのツノの君、案内してくれ」


 山さんが大声張り上げ、指示をだして警備は大騒ぎ!

 しっかし、どうやってこの短時間にここまで調べた?


 それと、


「1号、カナは?」


「ギルドに冒険者殴りに行くと・・・・走っていきました」



「うわああああああ!」

「まじかよ!あの嬢ちゃん!」










 椿屋に行くとカナの言うとおりで売春宿は絶賛営業中だった。

 俺と1号と山さん達で椿屋を制圧し、冒険者とギルド員を逮捕。女達を保護した。

 カナの報告の通りだったわ。突入が始まってからの椿屋は怒号と悲鳴とどかばきと凄い大騒ぎ。二階から逃げようとした奴と職員が屋根の上でおいかけっこしたりと大忙し!




「カナ!何処だ!」


 カナが行ったギルドは何処だ! ギルドはきっとここよりヤバいとこだ!

 カナ無事か!どこだよ!



 俺も山さんも手掛かりなんて持ってない。

 イライラだけが募る。

 気が気じゃない!

 強いといってもカナは女だ! もし、失敗して捕まったら悲惨なことが待ってる!



 そこに2号が来た!



「カナは!」


「あ、コウさん。マスターから伝言です」


 心臓が爆発しそうだ!

 無事かカナ!





「終わったから迎えに来てだそうです」





 俺と山さんは顔を見合わせた。






 ーーーーーーーーー





 警備課は大騒ぎだった。

 ギルドがひとつ摘発されて、売春宿も摘発。ギルドに至っては狂暴で屈強な男達がカナ1人に全滅した。

 現場から連れてきた50人もの取り調べをするという。

 朝を待たずに取り調べが始まる。情報は鮮度が命。




 今、特別につかわせて貰った一室で、クラークスさんとその妻が会っている。山さんの計らいでクラークスさんと奥さんだけの時間を作って貰った。


 奥さんは手錠をされてる。自発的に冒険者と一緒に居たのだから犯罪歴が有るかもしれない。あとで取り調べされるだろう。

 奥さんが見つかったのは『椿屋』だ。しかも『仕事中』とは。

 部屋の外で俺とカナ。そして山さん。尋問の捜査員が大忙しだが、山さんは統括だから他の尋問作業せずに今ここに居る。それに今回の逮捕劇の発端はこの夫婦からだ。気になるのだろう。


 中からクラークスさんの怒鳴り声。奥さんは大声では無い、でもなにか喋ってるらしい。そしてまたクラークスさんの怒鳴り声。


 ばん!


 中からクラークスさんが出てきた。ドアが傷みそう。

 クラークスさんは泣いていた。


「1人にしてください」


 そういってクラークスさんは帰って行った。一応、2号を付き添わせている。自殺防止の為だ。



 俺達が部屋に入ると俯いた奥さんが居る。

 ふてぶてしい態度でもなく、大泣きしてるわけでもない。なんだろうこの雰囲気。



「なんであんな男についていったんだ」


 椅子に掛けた山さんが言う。あんな男とは幼馴染の冒険者のこと。あんないい旦那さんを捨てて冒険者についていく。そんなに好きだったんだろうか。子供の頃の絆はそんなに強かったのか?


「誰と一緒にいようがいいじゃない。余計なお世話よ」


「その結果が売春宿に売られるとしてもか」


「煩い」


「クラークスさんを何故捨てた」


「私の勝手でしょ」


 反抗的な奥さん。

 ただ判るのは自分の意思でクラークスさんを捨てたと言うこと。

 幼馴染の冒険者はかなり幹部になっていたらしく、極刑は確実。恐らくは死刑。

 そんな幼馴染に売春宿に放り込まれたのにこの態度。どうなってる?


 いくつか山さんが質問するがマトモな返事は来ない。

 これは時間がかかりそうだ。




「ちょっと」


 カナが山さんの椅子を奪う。壁に退いて立つ山さん。


「奥さん。裏切った相手に裏切られた気分はどう?」


「・・・・」


「操を立てた相手は幼馴染ね」


「うる・・・・」



「そもそも愛してない男と結婚するからよ」


 ぶっ!

 奥さんがカナに唾を吹く!

 だが届かない。

 だがカナの怒りを買うには充分。


「このっ!」

 ぱぁん!

 カナが奥さんに平手打ち!

 敗北者のように泣き始める奥さん。


「男をさんざん連れ込んで男遊びしてたのに、幼馴染に再会したら男遊びやめるって、とんでもないクズね。ついでに夫まで拒否するなんてね」



 なにい!

 どういうことだ!

 幼馴染に再会する前から?

 俺と山さんは顔を見合わせるが、山さんも驚いていた!

 本当に夫を愛してないのか。夫も他の間男と一緒に拒否られる存在とは。

 そこまでして操を立てた男は幼馴染?

 カナはそれを見抜いた?

 寝室を見て?



 ぐずぐずいいながら喋る奥さん。


「悪い?あの人が好きなの。私の勝手でしょ!」


「だからクズだって言うのよ!

 あんた幼馴染に仕返しされたんでしょ。村でも男遊びしてたから幼馴染が泣いて出ていったんじゃない?何回男を裏切れば気がすむのかしら?

 クラークスさんからあんたを寝取って別れさせたり、売春宿に放り込まれたり、あんたは幼馴染に復讐されたのよ!」


「煩い!煩い!煩い!」


「あんた人を愛するってどういうことか分かってないわ。このどクズ!」


 俺と山さんは唖然とするだけだった。

 奥さんの幼馴染が村を去り冒険者になった理由。それはこの人が幼馴染と付き合いながらも浮気三昧だったから。

 そうか。

 幼馴染は傷つき絶望してグレたんだ・・

 奥さんは幼馴染を愛していた。なのに浮気三昧。

 壊れている。

 この人は壊れている。

 そして最後は売春宿。

 幼馴染に操を立てた所で売春を強制されたのは拷問だったろう。それこそが幼馴染からの報復だったのか。

 彼女が普通の感性の持ち主だったなら、この運命の歯車は回らなかった。



「馬鹿じゃない!」



 そういってカナは席を山さんに返し、部屋を出ていった。後にした部屋からは奥さんの泣き声。





 クラークスさんの寝室を見て、奥さんを見てカナはそこまで悟ったのか。

 このカナの能力。


 俺とカナは暗い中庭のベンチに座っていた。きっともうすぐ夜が明ける。


「奥さんの事、どうして判ったんだ?」


「匂いよ」


「匂い?半年も経ってるのに?」


「寝室から匂ってきたのは幼馴染のだけじゃないわ。不特定多数の男の匂い。旦那の部屋からもね。相当昔からよね。でも、一番新しい匂いは幼馴染のもの」


「そこまで判るのか」


「判るわ。それにね、幼馴染ぶん殴ったけど、奴は何も語らなかったけど、彼は加害者なのに敗北者の顔だったわ。子供の頃は相思相愛の二人だったんでしょうね。でも、奥さんは性が狂っていて、幼馴染は傷つき狂って犯罪者になった」


「そうか・・」





「コー」




「なんだ?」




「浮気したら殺すからね」


 暗闇でカナはそう言った。

ギルドは素手で制圧しました。


この奥さん、モデルが居ます。近所の人です。

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