カナさん、様子が変ですよ。え?予言!
「どうなさいました?」
二日目が終わり帰ってきた俺にカナが言う。
まだ二日目なのに俺の異変に気付くとは凄いな。メイドとして良くできた娘。シュリだったらどうなってることやら。
「いや、勇者ってたいへんだなあと」
「頼りにしてますよ旦那様、勇者様」
「旦那はやめて」
「え?アタシは肉便器にランクダウンなの?」
カナのアホっプりが!
「そうじゃないから・・・とにかく風呂に入りたい」
「用意致します」
アホの子カナかと思ったが、仕事はちゃんとする。
風呂は支度できてるし、着替えもちゃんと用意され、湯上がりの飲み物もある。
変に暴走して裸で乱入とかはない。
俺が風呂でぐだってる間にカナは夕飯を並べ、調理の仕上げをしているらしい。カナが嫁だったなら幸せ者に違いない。
朝食準備を眺めただけで『胸を見ましたね』と騒ぎちらしたシュリとはえらい違いだ。
あの時はゆっくり食事ができなかった。
夕食。
俺が食べる、カナは少し離れた所で立って見ている。
たまにカナがメニューについて聞いてくる。今後の献立の為だそうだ。まあ、俺って好き嫌いはないんだけどね。あとは味付けの度合いかな。酸っぱい味付けはあんまり好きじゃないと伝えておいた。
食後、ロビーに待機するカナと少し話をする。
話相手はカナしかいない。バトラーは職員宿舎に居る。遠くはないけど別の宿舎。つまり、夜は俺とカナの二人っきり。シュリは?
「メイド部屋に居ないから遊びに出てるかも」
だそうだ。繁華街で飲んで悪い遊びしてなければいいけど。
ふたりっきり。なんか俺とカナをくっつけようとしてない?
この娘、美人だから恋人が居ないとか有り得ない。
セクハラと思われようが聞いてみた。
「カナ、恋人は?」
少しの沈黙のあと、カナは静かに答えた。
「今はいません」
「好きな人は?」
「好きな人ではなくなりました。今はコウ様の為に身を磨いております」
「どうして俺なの?」
「私の運命です。
去年の夏祭りの時、占い師に、私は勇者と結婚して子供を産むと言われました。そして勇者とはその時横に立っていた者の事では無いと言われました。そしてそのあと私は勇者のメイドに任命されました。恐らくは運命の導きです。当時、メイド長も館長も占い師のいう勇者ことは知りません。貴方をみて安心しました。勇者が力を振り回す悪人だったり、女ぐせの悪い人でなく安心しました」
「占いでしょ?信じてるの?外れてるかもよ?」
「その占い師は有名な人で、年に一、二回くらい予言をするんです。占いでなく予言です。私達のときがそうでした。予言が100%当たる凄い人なんです」
「私達の時・・」
「はい」
「恋人?」
「もう別れました」
「なんで・・・別れなくても・・・」
「占い婆の『予言』は絶対です。違ったことは一度もありません。別れなければ二股や不倫になります。それはいけません。彼のことは嫌いにはなれませんが見切りました。人は欲しいものを全て手に入れられる訳ではありません。コウさん、私の事を心配してくれるならば、私を大切にしてください」
カナは俺を見ずに窓の外を見ている。その先に何を見ているんだろう?過去だろうか。
思わずカナを慰めるべく『大切にするから』と言いそうになる。あれ?結婚前提になってない?本当に未来は決まってるの?その予言は絶対なの?
そして俺は重要なことに気付いた。
「カナ、勇者と結婚するって、言われたの?」
「はい。はっきりと」
「勇者の名前は?」
「え?」
「名前は言われなかったの?」
「え、ええ」
どうしよう。
言いたくない。いっそこの状況を利用してカナをモノにしてしまいたくなる。綺麗なカナ。抱きしめたくなるカナ。若くてすべすべな肌であろうカナ。
でも・・・
「カナ、俺は何番目かの勇者なんだ。俺がもし死んだら、また次の勇者が召喚されるらしい。君の運命の勇者は俺のことなの? 勇者コウなの?」
カナが驚き目を見開いて両手で口を押さえる。考えもしなかったんだろう。いや、部外者には何回も勇者召喚してるなんて知らされてないのかも。
動揺しているカナ。
「・・・その、勇者としか・・・」
「他に何か言われなかった?『今度の勇者』とか『世界を救った勇者』とか『何番目の勇者』とか!」
そうだ。
勇者と言っても俺の事かは分からない。そして、俺以外の勇者の事なら俺は死ぬ事になる。前勇者のように死ぬ。
不死者。
でも、今回ばかりは分からない。相手が悪すぎる、いや、場所が悪すぎる。
俺の前に呼ばれた勇者も強かったり丈夫だったはず。でも死んだ。単なる戦闘なら勝つ自信がある。でも、今回は話が別だ。
カナの夫になる勇者とは誰の事だ?
カナと結婚して子供ができたならば、俺は生き残れる?
いや、初婚とは断言されてない。俺と結婚して子供が出来ても俺が死ぬことはあり得る。次の勇者と再婚して子供が出来たならば、予言通りだ。
いや、勇者コウの子供を産むだけで予言通りだ。その後の勇者の生死は予言に含まれない!
俺は死ぬんだろうか?
予言では俺の生死は判定出来ない。
なにがなんだかわからない!
老人になっても死ねなかったらどうしよう?などと心配していたのに、目の前の若い娘にときめいたら、死ぬのが怖くなった。
俺の次の勇者がラノベに出てくるような鬼畜勇者だったらカナが心配だ!占い師も『結婚』とは言ったらしいが『幸せな結婚』とは言ってない!
ホールが静寂に包まれる。
唯一の小さな窓に見えるレースごしの夜の景色。
俺もカナもいろいろ知った。その上で聞く。
「昨日カナは俺を誘ったね。今も同じことが出来る?」
「その・・分かりません。コウ様のことは好きでも嫌いでもありません。コウ様が『私の勇者』なら喜んでこの身を差し上げます。コウ様はよい人そうですし。それにその、言いにくいのだけれども、コウ様が死んで、次の召喚勇者が嫌な人だったらと思うと怖いんです」
「前の恋人のことはもういいの?ひょっとしたら『君の勇者』は10年後かもしれないよ?」
「コウ様である可能性も。それに」
それにと言ってカナは言葉を止めた。
「それに?」
「もう過去です。彼も新たな道を進んでると思います。彼にとっても私は過去です」
いやこれ、未練バリバリじやん。胯間が疼いてもカナを抱いてはいけないわ。紳士になろう、そうしよう!
そうだ!
「その占い師は?何処に住んでるの?知らない?」
「ええっと、詳しくは・・・」
「占い師に会おう。直ぐには無理だけど占い師に会おう!」
聞きたいことが山ほどある!カナのこと、俺の戦いのこと、宇宙のこと。
少しでも未来が分かるならいろいろ対策が出来る!
その夜、カナは俺に迫っては来なかった。
余計な事言わなきゃ、カナとイチャラブだったのに。




