魔王「くっ、殺せ!」
あれからどうしたものかと思っていたが、カナは下僕魔王をふたり連れて仕事に行くようになった。
博士には、
「殴って言うことをきかせた」
と、滅茶苦茶な事を言っていたが、実際カナは相当強くなっているので納得された。
実際、設定する前からカナに服従したし、間違ってはいない。
なにしろカナへの忠誠心が物凄いのが驚かれた。
チビ神様からコアカードの設定を教えてもらった事は内緒。
そいで、下僕魔王はカナが仕事中は工場に貸し出されている。カナの命令だ。
朝三人一緒に通勤して軍で各職場に別れる。
筋力は俺やカナに負けるが勇者の加護を受けた女達より強い。
チェーンブロック無しでも大きな部品を運べる魔王達は重宝した。
まさか魔王討伐ロケット製作に魔王を使うことになるとは・・・
下僕魔王は命令通りにきっちり働く。
しかも、飯を食わない。
給料も要らない。
そして、驚いた事につるぺた女神も『力で屈服させた』という説明を信じた。
曰く、過去に力で屈服させられた魔王は居たと。
そして、『好きにしろ』と言っていた。
しかしなあ。
もう一人魔王いる筈なんだけどなあ。
どこいった?
あんまり日数が経つと環境に馴染んで強くなるんだっけ?
一人めの魔王は勇者の所に来た。
二人めは軍の近所をうろうろしてたのをカナに摑まった。
三人めは?
王宮かな?と、亡き王の側近のミノヤさんと王宮を彷徨ってみたが、居なかった。王宮は片付けが終わり、迎賓館として改修も進んでいた。
王も居ないのに魔王が来るわけないか。
だが、魔王はやはり現れた。
学校に。
全校朝礼でグラウンドに皆で並んでいたら、それは来た!
「我は魔王なり。愚かな人間達よ、お前らは今日で終わりだ!」
見上げると、朝日の中、校舎の屋根の上に腕組みしながら仁王立ちする影。
2本のツノ。
褐色の肌。
黒くてゴツいマント。
剣を装備した腰ベルト。
割れた腹筋。
蹴られると痛そうなブーツの・・
・・・・・・巨乳魔王が居た。
ええっと・・
参ったなあ。
まさかの女魔王。
カナが魔王二人ゲットしたので、俺も一人欲しいと思ってたのに、まさかの女魔王。これを下僕にしたらカナになんて言われる事か。ヤバイよなあ。
男の魔王二人下僕にしてるカナに比べればひとりなら・・と、思うけど、通用しないだろう。絶対カナに怒られる。
うーん、エロかっこいいよ、魔王。
子供に悪影響与えそうな衣装の魔王。
胸は隠されているけれど形丸わかりな鎧というか、巨乳を強調した服。そこから布が下に繋がってて胯間に。角度はすごーくキレあがってる。しかも、腹筋とへそは丸見え。それを外から巻く剣のホルダー。へんな金色の装飾が余計にエロくてたまらん。あ、いや、教育上良くない!
ざわつくグラウンド。
慌てる教師たち。
「なにあれ!なにあれ!」
俺を引っ張るオルド君!
「気を付けろ!魔王だ!」
俺が叫ぶとやっぱり魔王だったのかと大騒ぎ!
魔王は人類の敵。
そのくらいは子供でも知っている。
「勇者!」「勇者!」
「勇者!」「勇者!」
「勇者!」「勇者!」
沸き上がる勇者コール!
今、皆の期待は俺に集まっている!
腕相撲以来の勇者コール!
スッゲエ気分良い!
「皆、離れてろ!」
そう言って俺が手を振るとみんな離れていく。
そして再びコールが始まる。
「勇者!」「勇者!」
「勇者!」「勇者!」
「勇者!」「勇者!」
そして屋根の魔王に鶴亀波を放った!
「はっ!」
どおん!
だが、魔王は正面にバリアーを張り、鶴亀波を避けて高笑い!
くう、バリアー張れるように成長していたか!
「ではこちらもいくぞ!」
魔王はマントを脱ぎ大空に投げて『とぅ!』って感じでグラウンドに飛び降りる! あ、魔王のくせにヒーロー着地だ。
既に皆遠くに避けて、グラウンドの真ん中に俺と魔王の二人。
物陰から皆が見ている。
みんなの期待が集まるのをひしひしと感じる!
ふふふ、勇者らしく魔王を倒してくれよう!
「先生それを!」
俺はクララ先生が握りしめてる竹ぼうきを求めた。
咄嗟にクララ先生は武器の代わりに掴んだんだろう。
「え?ええ?これ?」
クララ先生は竹ぼうきを俺に投げた!
からーん!
あ・・・・・・
半分も届いてねえ・・・・
慌てて竹ぼうきを拾いに飛び出すクララ先生。
そしてまた元の位置まで走って戻る。
そして、
「えいっ!」
からーん。
・・・・・・・
なんで一旦戻るん?
さっきの場所から投げたら良かったのに。
まあ、さっきより1メートルは飛距離伸びたけど。
なんか魔王がジト目してる。
すまん、うちの担任が。
「まだか勇者」
「すまん。ちょっと待ってて」
俺は歩いてクララ先生の方に行った。
あと数メートルという所で何故かクララ先生が竹ぼうき投げて来た。
縦に。
あぶねえ。
横にほってよ。
俺にホウキ刺すつもり?
先生テンパってるわ。
ぱしって、竹ぼうきを取って、ホウキ部分の枝を抜き捨てて、ただの真っすぐになった竹を持って魔王に向かって歩いた。
「待ちくたびれたぞ」
「すまん、待たせた」
魔王は腰の剣を抜き構える。
只の剣ではないだろう、変なオーラが目で見える。悪役っぽさ満載。
俺は竹にバリアーを被せて強化する。
ただの竹と思うなよ?
勇者のバリアーを被せた竹は鉄より硬いぞ。しかも軽い!
睨み合う俺達。
時が動き出す。
「でやあああああ!」
「どああああああ!」
上段から右に斬り込んで来た魔王!
それの内側に進んで腹を横に打ち抜いた俺!
手応えアリ!
魔王が吹っ飛ぶ!
舐めてもらっちゃ困る。勇者だぞ!
だが、魔王は丈夫だろう。このくらいでは死なない筈。
地面に横たわる魔王に竹を向けながら近寄る!
さて、どうしてくれよう?
下僕か拘束か戦いを続けるか・・・或はトドメか。
!!
慌てて近寄る!
「乳出てる!」(小声)
ドラマチックな痛い顔をしていた魔王はあわてて自分を見る!
デザイン優先の衣装から、横に乳がべろん。
あ、綺麗!
かわいい小粒。
やべ!
遠くから子供達も見てるのに!
近くでは無いから良いけど、マズいって!
男性教員もいるし!
なんか衣装の継ぎ目が剥がれたっぽい。
女魔王が衣装をずらしたり引っ掛けたりしようとするがうまく元に戻らない!
所詮、針と糸がなければ直らない。それでも隠すものは隠さなければ。
「隠して!早く!」
「くそ!くそ!」
魔王が焦れば焦る程上手くいかない!
遂には剣ほっぽり出して胸を両手で隠してしまった。
ふう。
まあ、魔王を戦闘不能にしたからオーライか。
!!
「魔王!下も!下も見えそう!」
壊れた衣装。
下の方もだらんとしていた・・・・
慌てて片手を股間に持って来る魔王・・・
そして泣いている。
「くっ、殺せ!」
その台詞は違うと思う。
『ヒーロー着地』という言葉を知ったのはデッドプールです。
草薙素子のよくやるアレです。




