勇者の体力測定 そして魔王の情報
召喚二日目は勇者の体力測定。
見て驚け!
俺の能力!
担当は昨日の召喚の場にも居た白衣の中年女性。何故か博士と呼ばれてる。結えないほど短い髪型というか男並みの長さで色は銀。いや、白髪かな?どっちだろう。
俺は自慢の筋力を見せつけ、奥義『鶴亀波』で離れた場所の大岩を砕き、模擬戦で10人の強者に全勝した。
「ああ、凄い凄い」
せっかく頑張ってみせたのに何故か冷めてる博士。拍手すらない。
もっと驚いてくれると思ったのに。俺の強さに博士は興味が無さそうだ。強さを求めて無いわけじゃないけれど、強くて当然みたいな。
そして次のテストは息止め。たらいの水に顔をつけ、ひたすら呼吸を我慢!
なにこの拷問!死ぬ!
あ、俺死なないんだった。でも苦しい。不死者でなくて、やっぱ死ぬんじゃね?
記録は2時間36分5秒。
すごいだろ!
俺頑張った!あんまりにも長いから途中でで椅子を出してくれたのは助かった。
でも、息が限界。
限界があるということは、完全な不死者ではなく、限界はあるんだな。そして喉が渇いた。水に顔を浸けていたのに喉が乾くとは。そして博士たちはこんな凄い結果なのにあんまり驚いてない。
「よし、体重をはかれ!」
言われるがままに体重計に乗る俺、座りたいのに。
「減ってます」
博士の助手が博士に報告する。どうやら俺は痩せたらしい。
「そういうことか」
博士が何か納得してる。
なんなの?
そして、俺の身体を切ってみて傷の治りの早さをみたり、火傷させられたり、毒蛇に噛ませられたり、毒を食べたりして、ほぼ拷問な検査の1日。
一番凄かったのは、風呂で俺を煮込んだこと。俺ね、身体の表面にバリアーを張って外部からの攻撃とかを防げるのよ。でもこれは参った。
ぐつぐつ煮込まれて、最初は平気だったけど、そのうちバリアーの中も熱くなってきた。
『もうやめよう』と言ったのに『まだまだ』という博士。しまいには風呂の中に直接焼けた剣や石を投げ込んできて死にそうになった。最後はあまりの熱さに風呂から逃げた。バリアーあったけど火傷だらけ。治るまで一時間かかった。それを博士達はじっと時計で測っていた。
勇者の身体に、興味があるのかなんなのかは知らないけど、魔王との対決はまだですか?さっさと魔王倒して報償金貰ってだらだら生活したい。
このままだと魔王討伐でなくて、拷問されに来たみたい。酷くない?
そして、気になる事を博士が言った。
「今度の勇者は丈夫だし長持ちしそうだな」
「え?」
「期待しているぞ」
「なにを?」
「魔王討伐に決まっておる」
「いやまあ、そうだろうけど」
「お前は魔王のところまで生きてたどり着けそうだ」
生きて?
どういうこと?
「魔王は何処に?何処に居るんです?」
つまりは俺の他にも勇者は居た。
だが、魔王のところまでたどり着けなかった。戦う以前に魔王の所まで行けてないのか? それとも四天王が強いとか。俺は何番目の勇者なのだろうか。今日の検査はなにかおかしい、強さより身体の丈夫さを測っていたような・・・
俺の質問に博士は黙って天を指差した。
「空?」
博士はにやりとした。
「宇宙だよ」
はああああ?
恐怖の魔王。
空より高い宇宙という場所に居るんだと。そこは空気もなく火も使えず水も食料もない。
星だの宇宙だの無重力だのよく分からない言葉を聞かせられた。てか、地面って丸いの? 太陽って地面よりでかいの?
魔王がどんな姿かはわからない。だが、強いのだろうが、倒せないことは無いだろう。問題はそこまでたどり着く前に死んでしまうだろうということ。そもそもたどり着いた人は居なく、それどころか物すら届いたことがない。そして、魔王を倒してから帰ってくるには「落ちてくる」しかないという。
「どのくらいの高さなんですか?」
「あそこに見える山、50個分の高さだな」
ふぁっ!
「しぬ!」
「不死身だろう」
「いや、しぬ!
ほら、息止めでも限界はあったし、死ぬってば!べちゃんとトマトみたいに」
ちなみにこの世界のトマトは大きい。
「あー、そういや、地面に当たる前に燃え尽きて消えるかもな」
「へあっ!燃え尽きるって何!死ぬ?火も使えない場所とか言ってなかった?」
「いや、その下あたりは違う」
「それに、そこまで行けないから無理だって。無理!無理!中止!解散!」
「心配するな。お前を打ち上げるための装置は製作中だ。完成まで待っておれ」
この人悪魔だ。
悪魔が此処にいる。
そして悪魔が微笑んだ。
俺の前に来た勇者を何人も殺したであろう悪魔。この人が魔王じゃね?
博士の姿は「イノセンス」に出てくる警察のラボに勤めてるハラウェイさん。性格は違いますが。
ガイナックスの映画「オネアミスの翼」は、「王立宇宙軍」だよな!