極秘任務!
「勇者!」
あー頭のなかに声がする。
「おい勇者!」
意識を持ち上げると、つるぺた女神が居た。俺、寝てるはず。
今日は化粧を少ししている。あ、結構良い感じ。
あ、どーも。
「やっと寝たか。全く毎晩毎晩飽きずによくやるな!しかも長い! 」
いやあ、それほどでも。
カナと相性がいいもんで。
んで、何の用です?
「お前、王宮に入れるよな?」
あー、大丈夫だと思うけれど、自由に入れる訳じゃないですよ。軍は顔パスだけど、王宮はそうじゃないっす。
「まあいい。それでなーーー
(ピーロピーロピーロ)
ちょっと待て。
やあヨッコ。なに?海?いつ?あー大丈夫だよ、どーしよっかな。
え? タイラー君来るの!じゃ絶対行く!え?トモヤがウチに迎えに来るの?なんでだよ!あいつ嫌いなのに。困ったなあ、ヨッコその日あたしんち泊まれよ、ヨッコ一緒ならいいよ。トモヤと二人っきりになりたくないし。
ん、うん、そう、わりいな、うん、待ってる。
また詳しく決まったら教えて。
じゃあね
うおっほん。
それで勇者よ」
トモヤ嫌いなのか?
「かんけーねーだろ!」
トモヤが気になる。
トモヤにしとけよ。
「うるせえ、タイラーしか認めん!タイラーと一緒に海に行けるなんてチャンス絶対逃すものか!」
あー、
この女神、絶対引き立て役につかわれてるわ。本人に言えねーー
あ。
「聞こえてるよ!」
いやその、海では体型的に不利だと思った訳じゃないですよ。きっとそのヨッコという人は良い体型なんだな。水着姿ならこの女神に勝てると思ったのか。
「お前までそう思うのか。まったくもう」
はあ。
バレたか。
「うるせえ勇者だ。トモヤはな、タイラーにフラれた女ばかり食い荒らす汚いヤロウなんだよ。アイツだけは絶対イヤだ!」
あら、筋書きできてるんじゃねえの?
タイラーにフラれる、落ち込んだ所をトモヤ登場。
幹事は?
「ヨッコとトモヤだ」
仕組まれてんじゃね?
その二人はグルになってない?
「かもしれんが、逆転もアリだ。恋愛はバトルだからな!」
すげえ気合いだ、つるぺたの癖に。
「かんけーねーだろ!つるぺたつるぺたうるせえ! それに需要もあるんだよ!」
あ、そうだね。
うんうん。
「海行かないお前はかんけーねーからな!
それでだ。
お前、死んだ王の持ってた絵を盗んで燃やせ」
おいおい、俺を犯罪者にする気かよ。
「神が認めるからいーんだよ! 死んだ王が持ってた絵が12枚ある筈だ。個人で持ってた奴だ。それ燃やせ。周りの者に気付かれるなよ!」
何の絵?
「世界に見せてはならない物が描いてあるとだけ言っておこう」
自分ですりゃあいいじゃん。
「私がやったら一区画まるごと消えるぞ。おまえんちも粉々になるぞ?」
あ、やります。
粉々にしないで!
絵、観て良い?
「駄目だ!」
大体何処にあるんだか判らんしなあ。
見て探すしかないのに。
だから、なんの絵か教えて?
「・・・・」
分からないと探せない
「・・私の絵だ」
それだけ?
女神の肖像画なんてあちこちに貼ってあるじゃん。
「・・私の裸・・・・」
は?
「頼む、前の勇者の前でうっかり操作ミスで・・・・それをまさか描いて残してるとは・・・・
それを死んだ王が持っていたんだ。最近知ったんだ。暇でポチポチ見てたら見つけたんだ。頼む、あれを燃やしてくれ!あんなもの残したままこの世界を世間に晒したら、私の裸まで晒すことになってしまう。分からない場所に置いてあっても見つける奴は居るからな。拡散されたら、生きていけん!」
コンクールや賞に出さなきゃいいんじゃね?
「中古で売るとき高値がつかなくなる!」
世界を売るのかよ。
酷い女神だ。
はいはい、解りました。でも、王宮に行くのに協力者必要だから、数人には教える事になりますよ?
「仕方ない。なるべくこっそりとな!」
それと、女神の裸絵って、12枚?
そんなに無いんじゃない?
「ああ、1枚だ」
ああ、1枚ならかさばらないから目立たずいけそう。12枚はちと不味いわ。
「頼んだぞ」
ほい。
ーーーーーーーーー
あーまた学校サボりました。
王宮に行って、受付で王様の元側近の人を呼び出して貰った。彼の名はミノヤ。
「お久しぶりです勇者様」
「お久しぶりです」
ミノヤは現在、王様の遺品を整理している最中だと言う。
桜花は王政を廃止し、王宮も今後は大部分を迎賓館として使うのが議会で決定した。結局あの予言の通り。
だから王様と王家の財産を離れだった建物に移すのだそうだ。言い方を変えれば、そこに入る量に減らせと。
量を減らす為に、血縁者に引き取って貰ったり、廃棄したりしていると。
「王の持っていた絵ですか」
「女神の言うことには12枚あるというんです」
「ああ、あの棚に有ったやつか。見当がつきました。こちらへ」
案内された王宮は物をあちこち外されてまるで廃墟。
恐らくは完全に引き払い終わったら改装して本格的な迎賓館になる。今は寂しい景色。
とある部屋に入ると、まだ物が置きっぱなしで、確かに絵は有った。
「これは?」
「たしか半分位は前の勇者が描いた物です。王は絵を描きませんでしたから。残りは分かりません。前の王の物なのか、貰い物なのか」
「では」
棚から下ろして絵を見る。
目的のつるぺた女神の絵はすぐに見つかった。
この顔間違いない。
美しい絵だった。
アングル、色、ポーズ、芸術的だ。あれを描いたのに実物よりも美しく妖艶。神々しくもある。実は前の勇者にとって女神アマンダはストライクな存在だったのかな。
「燃やすなんて勿体ないですねえ」
ミノヤがそう言った。同感だ。
「仕方がない。女神の御告げだしな」
他の絵も見る。
他の女性の絵。誰だろう?
同じ人物の絵が4作もある。
美しい。
絵が美しいし、なによりその女性が美しい。顔のアップだったり全身だったり。
でも、裸ではない。
「誰でしょうか?」
「ああ、これは前の勇者の好きな女だそうです。綺麗な人です。告白する前に召喚されて彼の恋は実らなかったそうです。我々は罪深い存在です。彼の想いを押し潰し、挙げ句に死なせてしまったんですから」
3番目の勇者。
彼は童貞のまま死んだと聞いた。寄ってくる女性は沢山居た筈だ。特に研究室の女性とか。でも、誰にも靡かなかった。
いつも王様と一緒に窓を眺めてた。
何を思っていたのか。
今なら解る。
無念だったろう。
寂しかっただろう。
彼を思えば俺は幸せだ。
前の妻への心の整理はついた。今は最高の恋人が居る。仲間も出来た。楽しい日々も過ごした。
同じように打ち上げ失敗して死んだとしても、死ぬ瞬間『幸せだった』と思うだろう。そう思う。
3番目の勇者はどう思ったんだろう。
「燃やしていいですか?」
もちろん女神のほう。
「構いません。貴方がやったのなら誰も文句言いません。私が何かすると問題ですが」
「では」
俺は女神画を板から外し、勿体ないけど折り畳み、手の平に乗せ、鶴亀波の加熱バージョンで燃やした。炎は一瞬。あとは灰が残るだけだった。
こっそり絵を残そうかと思ったが、あの女神はどこかで見ているんだろう。トラブルの元になるのでそんなことはしない。
「こっちの絵はどうしたものかな」
残りの11作。
「そっちの女性の絵は勇者の墓に一緒に埋めたらどうです? あとはうーん、お好きに」
「そうですね。そうしましょう。そもそも王様が描いたものでないので、遺品とするに困っていたんです。場所も余りないので」
その後、俺は女性の絵を板から外し畳んだ。
そして小さな箱に入れ、第3の勇者の墓に埋めた。
第3の勇者よ、安らかに眠れ。恋の実らなかった哀れな男よ。
俺が死んだら誰か墓に何か置いてくれるだろうか?
いや、もう魔王の脅威が近い。そんな余裕は無いかもしれない。
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「おい、勇者!」
またか。
「おーい、勇者!」
なんだよ。
静かに眠らせろ。
「静かに寝たいんだったら早く寝ればいいだろ。毎晩毎晩遅くまで盛りやがって! お前ら底無しの猿だな」
なんだよ猿って。
なんか、用かよ。
「なあ、頼んでた絵は燃やしたんだよな」
言われた通りにしたぞ。
「実はこっそり隠してたりしてないか?」
ねーよ。
「あちゃあ」
なんだよ。
「いや、見てたら欲しくなってさ、消す前にスキャンしとけば良かったって後悔してんだ」
スキャンしとけばってなんだよ?
「複製だ」
今更言うなよ、燃やしちまったよ。もうねーよ!
「なんてこったい」
もう、寝る。
じゃあな。
うん、今度俺がつるぺた女神描いてやろう。絵心は無いがな!
「それはヤメロ!」
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後日、学校の図工の時間に家族の絵を描かせられたが、
放課後、こっそり燃やした。
あんなん見せたらカナに殺される!
因みに女神アマンダはつるぺたなのにビキニに挑戦する強者です。




