軍の設計室で博士に問う
朝、学校行かずに軍の設計室に来た。
目的は博士に会うため。
博士は此所にくれば高確率で会えるし。
学校の方は一時間目が理科で二時間目は体育だから出なくていいか。
設計室。
ドアをそーっと開けて覗くと皆忙しそうだ。
あ、カナ発見。
既に自分専用の席を与えられて一生懸命何か書いている。計算係とか言ってたな。いつものストレートヘアでなくて、長い髪を頭の後ろでお団子にしてる。一生懸命働くカナに見とれそうになるけど、目的はカナじゃない。見渡すけど博士いねーなー。
博士の居場所を聞こうかと思ったけど、邪魔しちゃ悪い。
設計室から事務室に向かう。
あ、博士居た!
「どうした勇者。学校さぼって」
「はあ、博士にお伝えする事がありまして」
「なんだ?」
俺は夢で女神アマンダに、魔王そろそろヤバイから急げと言われた事を伝えた。
なんのことはない、『急げ』と言うだけに此所に来た俺。カナに伝言頼んでも良かったんだけど。
話す内容すくねー!
女神が地味顔まな板なのは口止めされてるし、この世界が造られた理由も口止めされてる。まさかこの世界は趣味でコンクール出展のために作ったとは言えねーよな。
伝える内容はこれだけだが、どうしても博士に聞きたかった事があったから来たのだ。
「俺は宇宙に行けますか?」
博士は黙って俺を見た。
事務室の職員の女性も無言。
「本当のことが知りたいんです」
だが、答えない博士。
職員さんを見ると職員さんは目を反らした。
俺は戦いなら絶対の自信がある。無敵だ。
だが、今回はオレの強さだけでは勝負に勝てない。打ち上げ機が成功しなければ戦う前に負ける。
試験打ち上げの大爆発も見た。あの高さであの爆発では俺の身体でも死ぬ。恐らく欠片すら残らない。現に勇者が三人死んだ。
「なんとも言えん」
不確定な事は言わない主義の博士。
「だが、女神か急げと言ったのなら、成功しなければ我々は負けると言うことなのだろう。覚えておいてくれ。我々は呑気にしてなど居ない。常に成功を確信して打ち上げているが、未だに成功していない。設計で完璧でも小さな部品の破損で全てが駄目になることもある。未だに突き止めてない現象もある。時間が無いから大きな方針転換も出来ん。精度を上げるしかない。あと10年もあるなら色々な方法を試せるがもうそれも出来ん。
今皆で必死に成功を信じて、成功を目指して作っている。私に言えるのは、信じてくれ、それだけだ」
博士は天才だ。
だが、未だに成功にこぎ着けない。
時間さえあれば全くの別の方法をやってみるとかも有るだろう。だが、それは一から始め直すということ。時間が足りない。
何度か打ち上げ機を見たことがある。
兎に角デカい。1日で作れるのは少しだ。完成まで何ヵ月も掛かる。新しいこと思い付いたと言って最初からやり直しとか言ったらまた数ヶ月伸びる。いや、もっとかも知れない。
女神は急げと言ってきた。
その意味は博士も解った筈。失敗は俺の死だけでなく、人類の滅亡かも知れない。
「はい」
それしか言えなかった。
言い争いも説得はなにも生まない。頼れるのは軍のマンパワーだけだ。
軍の設計室に工場の皆に戦いの運命が掛かっている。俺は来るべき日に魔王の元に連れていって貰うだけだ。
「お前は周りに恵まれてるな」
なんだ?
「お前の恋人も頑張っている。まだ若いから仕事の飲み込みも早いだろう。なによりお前を死なせたくなくて必死だ」
カナが。
有り難うカナ。
「それにあの乳女」
え?
なぜシュリ?
「あの女のせいでお前の知名度が上がった。今までは死ぬ確率が高すぎて世間から隠していた勇者が世間に晒されてしまった。少なくともお前を知ってしまった者はお前に死んでほしく無いと思っただろう。それは軍の職員も同じだ。案外お前を見たこと無い者は多かったからな。あの乳女は皆にお前を死なせたくないと思わせる事に成功した。資金も稼いでくれたが、それ以上に皆の士気が上がった。これだけで成功率は数パーセント上がったとも言える」
シュリが・・
有り難うシュリ。
腕相撲大会はお前の企画だったよな。
「有り難う御座います。そして宜しくお願いします」
もうそれしか言えない。
上げてくれたなら必ず魔王倒すから・・
「そろそろ学校に行け。お前に学校を許可したのは生きて帰って来ることを想定したからだ。前だったら暗黙に諦めてたのだかな」
ああ、そうだ。
魔王倒して生きて帰って来て、カナの善き夫にならなきゃな。学校行こう、勉強しよう。カナも頑張っている。俺も頑張ろう。
「ほら行け」
そう言われて俺は事務室を出た。
施設を出て歩くと薪割りしているルフィが居た。
ここは凄い最新技術を扱う場所なのに厨房の熱源は薪だ。ルフィは博士に用事を言いつけられてない時は下働きをしてるらしい。
ルフィがオレを見つける。
「やあ」
「やあ」
暫く他愛の無い世間話。
晴れてる日に丸太に座って世間話とは平和だ。実際は魔王の脅威が迫っているが。
「勇者」
「なんだ?」
「設計室の女達には気を付けろよ」
「なんでだ?」
「あいつら全員勇者の加護受けてるだろう」
「そうだが」
「お前の彼女はいい。彼女だからな。加護を受けた女は強くなる、たまに工場手伝うくらいにだ」
「そういえばそうだったな」
「だから、夜の方も凄まじいぞ」
ああ、博士との感想か。
まさか他の設計室の女ともしてないよな?あり得そうだが。
「あいつらはもう普通の男では満足出来ない身体だ。鍛えてる俺でもナメられるくらいだ。お前、狙われてるぞ。彼女居るんだから気を付けろ」
「マジか・・」
「マジだ」
学校に行けば女教師に迫られ、ここでは職員に狙われ・・
童貞のまま死んだ三番目の勇者さん。
あんた凄いな。
それとも・・・・
神や女神にとって世界とは「趣味で作る作品」です。作り手により色んな世界が有り、多様です。
女神アマンダも一杯作ってます。たまに世界から他の世界にキャラ移すのが「異世界転移」です。
道が繋がってる訳でもなく、空間が繋がって無いのに異世界に移るのはこういうことです。
今の舞台になってる世界は一度コンクールで佳作でしたが、満足出来ず他のコンクールに出展予定です。女神アマンダは、まるで「なろう」の賞狙いの作者ですね。




